私、どうしたいんだろう?

 スイカを食べ終わると、子供が食べカスを川に投げ始めた。


 自然物だから問題無いと言えばそれまでだが、「大人の私」の目の前でソレはどうか?と子供を窘め、食べカス回収し、近くに穴を掘って埋めた。


 穴掘りは結構な手間だった、手が泥だらけになり汗を沢山かいた。だが、一連の行動は、それなりの憧憬をもって受け入れられた。子供から「この美人で可愛いお姉さんは凄い人」的な視線をあびるのは気持ちよかった。


 泥だらけの手を川で洗っていると、女の子が寄って来て水筒を分けてくれた。スイカを食べたはずだが、一仕事でまた喉が渇いていた。

 水筒の中身はルキノの好きなカルピスだった、夏に呑む「甘酸っぱいカルピス」は最高だ。


 川原で子供達と別れ、飲み物を調達しにスーパーに向う。想定外に時間を使ってしまった。「彼」はもう家に付いた頃だろうか?山の方で雷の音が鳴っていた。


 スーパーで飲料品を調達する。カルピス(水で割るタイプ)これはもちろん買っていく。サイダー、、、、買っていこう。麦茶と氷は「彼」の家に行けば在るだろう。


 「お姉ちゃん、彼氏いるの?」


 カルピスを分けてくれた女の子が聞いてきた、マセたガキだと思った、、、、


 夏休みの前だった。学期末テストの後、皆にかわるがわる「告白」された。


 チョット自惚れた。満足に浸る自身に、少し自己嫌悪も味わった。


 大切な幼馴染達、皆の事が好きだった。


 そう言う事を考えた事が無くもなかった、皆を相手に頭の中で「ifデート」をした事は何度かあった。


 勉強が出来るヤツ。


 スポーツが出来るヤツ。


 イケメンなヤツ。


 皆にゴメンなさいした。


 何故?


 誰を選んでも不満なんて無かったと思う、それなのに。何故?


 心の中では後悔してる自分が居ると思う、だけど。何故?


 スーパーの棚の前でカルピスの瓶を手にとって、ぼんやり考え事をしていたルキノは、店内に流れるアナウンスで我に帰った。


 緊急放送だった。


 山頂付近のゲリラ豪雨でダムの水位が上がったらしい。ダムが放流を開始するから川には近寄らないで下さい。そんな内容のだった。


 ルキノは安堵した。学校に行っている間だったらスイカがどうなっただろうか?


 スーパーで会計を済ませ、自転車のカゴに荷物を積み込む。スイカが一個減った分、スペースに余裕があるので充分に積み込めた。


 午後2時を過ぎたばかり、「彼」がそろそろ駅に着くかもしれない。4時には皆で集まる事ができるだろう。


 昔のまま、懐かしい思い出を語る。お互いの成長と変化を確認し、祝う。気心が知れた者で楽しい時間を過ごす。


 出来るだろうか?今までと同様。


 あの告白の時以来、努めて気にしない様にしていた不安が顔を覗かせた。結論を言えば「大事な物を壊したくない」ゆえに、皆の告白を断った。それが一番納得出来る理由だと思う。


 「私、どうしたいんだろう?」 


 溜息混じりに独り言を呟く。また遠くで雷が鳴った。


 ルキノは自転車に跨り走り出す。既にサイレンも鳴っているがやはり気になった。自分の目で確かめるべく彼女は川に向った。


 土手に上がって驚いたのは、見たことも無い濁流が川を流れていることだ。空の天気と川の様子がまるで違う、未だに鳴り響くサイレンだけが状況を教えてくれた。


 祈るように自転車を飛ばす。が、しかし数台の自転車はまだソコに在った。血の気の引く思いで自転車を乗り捨て、土手を下る。子供達はそこに居た。


 誰も被害に遭っていない。


 ルキノはホッとし掛けたが、子供達の視線の先、川の中に取り残されか少年が一人いるのを発見する。

 水に腰まで浸かっていた。必死に川を渡ろうとしているが、水位、水量の増加が急激過ぎて、踏み止まるのがやっとの様子、だがそれも限界に近い。


 ルキノは足早に子供達に近寄り避難を促す。取り残された子供と川の様子を見比べ、決断する。女の子が縋る様にルキノを見つめた。


 「お姉ちゃん、、、、」

  

 「大丈夫よ、私が助ける。貴方達は土手に上がって他の大人を呼んで来て。消防や救急車も、出来るはね?お願いよ。」


 子供達は不安そうに互いを見合わせたものの。ルキノに言われた通り、土手に駆け上がって助けを呼びに行った。


 「大丈夫、必ずお姉ちゃんが助けるから。頑張るんだぞ!!」


 後で自慢して、絶対に誉めてもらうんだ。ご褒美をねだるのも良いな、我侭言っちゃお。


 こみ上げる恐怖を、別の感情でねじ伏せ、竦む身体を前に進める。ルキノは濁流に踏み込んだ。

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