夏休みの国 ????日目

グッジョブおやじ

 その日の午前。


 制服姿のルキノは、自転車の前カゴに網にはいったスイカを入れ、近所を流れる川に向った。


 今から川で冷やしておけば、学校帰りに取りにくる頃にスイカは冷えているだろう。 

 中くらいの玉が三つ。父が菜園で取れたスイカを、食べ頃だからと分けてくれた。


 丸々としたスイカは本当に美味しそうだった。


 問題はこのサイズ、いっぺんに三つは冷蔵庫に入らない事ぐらいだろうか?


「彼」の家に集合して、切り分けて皆で食べる。


 甘味を増すために塩をチョット振って食べようか?飲み物は麦茶?サイダー?カルピス? 私的にサイダーはナイかな~?


 麦茶?でも夏はやっぱりカルピスよね!スーパーに寄って買って行かなくちゃ。  あ、カゴに入り切るだろうか?


 午後からの予定を算段するルキノ、過去の思い出が蘇る。


 夏の一番暑い時間、どんなに元気な子供でも日差しを避けて休息をとる。


 そんな時は決まって「彼」のお婆ちゃんの家にお邪魔した。小柄で優しいお婆ちゃん。怒らせると怖いけど、、、

 お婆ちゃんはいつも冷えた麦茶とスイカを用意して迎えてくれた。縁側で座って待っていると切り分けたスイカを私達に持って来てくれた。


 縁側からお婆ちゃんの家の畑、その向こうの青々とした水田を眺め、「彼」、「彼等」と並んでスイカを食べる、それは玲にとって大切な「夏」のひとときだ。

 スイカにかぶりつき甘みを味わう、果汁で喉を潤す、口に残った種を遠くまで飛ばす。


 誰が遠くまで飛んだか比べっこ。そのうち誰かが悪ふざけで、種を吹きか掛け始める。もうそうなると、味わって食べる何処では無い。弾薬補充するみたいにスイカをムチャ食いし、リスよろしくホッペタを膨らませ、相手目がけて発射!

 種どころか実まで飛んでくる、スイカの汁と実、種と唾液。顔も服も縁側もグッチャグッチャ。

 泣いて、ケンカして、怒られて、仲直り。笑って、服も身体を洗って、昼寝して。

 そしてまた。夏の日差しに皆で飛び出していく、、、


 

 午後の予定がいつの間にか子供の頃の思い出に代わっていた。ルキノは自然と微笑んだ。


 夏の空は晴れ晴れとして、今日も強い日差しが照りつけるだろう。みんなは嫌がるがルキノは夏のが大好きだった。


 遠くに見える山並みの景色には、入道雲が天と地を繋ぐ塔の様にそびえる。天辺の白さが美しく青空に映えるのと対照的に、山の頂に覆い被さった部分は黒々としていた。


 「山は降ってそうだな~。今年も水は心配なさそうね。」


 そんな独り言を呟きつつ、スイカを手に土手から川へ降りる。


 「立ち入るな、キケン」そんな立て札が目に入る。


 上流に水源確保のダムが出来てから、緊急放流時に水位の増水、濁流の危険があるからと言う理由で、注意喚起のために設けられた立て札。

 所どころ、人が立ち入りそうな場所に立てられ。場所によっては杭と鉄線で柵までしてある。

 が、予算の都合なのか?柵自体は中途半端で意味が無い。かえって興味本位で近づいて、鉄線に引っかって怪我でもしないか心配なくらいだ。


 浅い川。日の光に煌めきせせらぐみなも、川底に大き目の石がゴロゴロしているのが見える。


 「つめたい!」


 水温を確かめようと手を川に着けて思わず身震いする。コレならスイカもほど良く冷えるだろう。川底の石をつかって小さな池を作り網に入れたスイカを沈める。


 竹で作った杭を立て、所有物であることを明示しておく。この辺で盗って行く人なんていないだろうが、目印を付けておかないと川に来た誰かが気付かずに誤って割ってしまう可能性がある。 


 僅かな労働だが、額から汗が出る。だがその見返りには十分なモノが仕上がりそうだ。ルキノは鼻歌を歌いながら上機嫌で川原を後にした。

 

 昼過ぎ。


 部活を終えてスイカを取りに戻ったルキノは、土手に数台の自転車が停めてあるのを認める。川原を見やると、小学生と思しき子供達が川遊びに興じていた。


 ルキノは暫く土手の上でその様子を眺めていた。水と戯れる少年少女、自身も5年ぐらい前までは、あんな感じだったかなぁ~と、過ぎた時を懐かしんだ。


 目の前の光景と自身の思い出を重ねている時だった。少年の一人が川に沈めたスイカの池を発見したらしく、周りの子供達を呼び集めていた。


 やばい!


 ルキノは慌てて川に降りた。


 確り固定したつもりだったが、立て札は流されていた。スイカの所有権について、小学生達と「激しく交渉」した結果、三つのスカイのうち一つを彼等に引き渡す事で取引が成立した。


 川原に座り込んで小学生とスイカを食べた。包丁などは持って来ていないので、川辺に転がる石を使ってスイカを割った。


 外皮の緑の縞模様に赤々とした実のコントラスト、種の黒がアクセントとなって視覚的な食欲をそそる。


 適当な大きさの破片を、両手に持ってかぶりつく。果肉のしまり、噛み締めて溢れ出る川で冷やされた冷く甘い果汁は喉を潤おし、夏の日差しで焼けた川原から立ち上る熱気の中で、これほどの美味があるかと思わせた。手と服を少々果汁で汚したが、ワイルドにスイカを味わった。


 「グッジョブおやじ」。


 お父さんの作ったスイカ、凄く美味しいよ。ルキノは心から父を称えた。

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