「夏休みの国」なの。

 ルキノちゃんが呟くように口を開いた。


 「ごめんなさい。」

 「私、隠している事があるは、でも詳しくは言えないの。」


 ボクは無いも言わず黙って彼女の話を聴く。


 「実は私もよく解ってなかったんだぁ。」

 「実感薄いし。でも便利だなって思ってた、このままでいられるかもって。」


 「でも、さっき倒れて。アレの言った事が本当なんだって思い知らされた。」


 ボクは聞き返す。

 

 「アレって?」


 「案内人、そう言ってった。」


 言葉の意味、響きにいい感じはしなかった。彼女が続ける。


 「私、良い事したから特別にご褒美が貰えるの。」


 「何それ?あ、ごめん。」


 胡散臭い話の流れにボクは思わずそう言ってしまい、口をつぐむ。


 ルキノちゃんはボクの上で、甘える様に身体を擦り付け、身をよじる。


 「うん、解るよ。体験しないとコレは信じられないし、説明しても解り難いって言ってた。」


 ボクはそれでも彼女に聞いた話を教えてくれと頼んだ。


 「シュレイ何とかの何とか?犬とか猫とか、パフェとかチョコとか。認識と観測。2つが無いと一つが成り立たないんだって。」


 ルキノちゃんはボクより勉強が出来る。それでこの説明では、ボクに理解しようが無い。


 「でね、案内人が願いを一つ叶かなえてくれるって言ったの。」


 またボクは口を挟みたくなる。


 「私は貴方に合わせてって頼んだは。」


 ドクン。


 今更だが彼女の言葉、そこにボクがいる。それを聴く度に心臓が高鳴り、幸福を味わう。


 「そいつが、案内人が言ったの。貴方の中の「私」の場所に、私を送るって。」


 「案内人は言ったは。私がどうなるかは、貴方の中にある「私」次第だって。」


 「入れずに跳ね返されれるか、入れても小さな存在かも知れないって。」


 ボクはその言葉に、何かを測りに掛けらるような不安を感じたが、次の彼女の言葉に杞憂だったと知る。


 「凄く広かった。私、感動しちゃった。こんなに思われてるんだって、凄く嬉しかった。」


 「ここは貴方の中の私を基に、私が創った国。私と貴方の為の「夏休みの国」なの。」


 彼女はそういって言って身体を起こし、ボクを覗き込む。表情には喜びと微笑みがあった。


 「でもね。」


 ルキノちゃんは少し表情を曇らせながら言葉を続ける。


 「ここは貴方の中だから、世界そのものは貴方の心のありように帰属するの。だから貴方が私を遠ざけたいと思ったり、忘れたいって思ったら。」


 「どんなに私が願っても、ここは無くなっちゃうの。」


 思い当たる節がある。僕が罪を犯したあの夜。そして遊園地を出てから駅まで、告白の結果を待つ間のボクの心のありよう。


 「ごめんルキノちゃん!ボクにもっと根性があれば、でもボクは、ボクは、、、、」


 身体を浮かせ言い募るボクを制して、ルキノちゃんは優しく言った。


 「謝らないで、はじめは私も調子に乗ってた。楽観視してたから、貴方を少し試しても見たの。」


 ルキノちゃんの声が少し震え始めた。


 「真剣だった、馬鹿みたいって思うくらい。どうしてって聴きたくなるくらい。世界は貴方のモノなのに。でもこの「国」を生かすも潰すも貴方じゃなく、私次第なんだって気が付いちゃった。」


 「嬉しかった。こんなに愛されいた事が、、、、」


 ボクの顔に当たるものがあった。


 「、、、、そして恐かったの、「変わってしまた」事を貴方伝える事が。変ってしまったと思われる事が。」


 ルキノちゃんは泣いていた、涙が彼女の頬伝い。瞳からあふれ出るソレはボクの頬、心も濡らした。


 ボクは起き上がって三たび、彼女を抱きしめる。


 彼女の気持ちが晴れるまで、強く、優しく。


 気が付くとボクは歌を唄っていた。子供頃に皆でよく歌った唄。思い出の歌。彼女のために、ボクのために、二人のために。


 気が付くとルキノちゃんは泣き止んでいた。泣きはらしていたが、愛おしい瞳が微笑んでいた。


 二人で歌を唄った。そして静かに、又、長い間、抱き合った。

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