夏休みの国 1日目

川に入りたいなぁ

 「川に入りたいなぁ。」


 沈黙は又、彼女の方から打ち破られた。


 「久しぶりに川に泳ぎに行かない?」

 「昔、皆で良く行ったあの川に。」


 ルキノちゃんの突飛なレジャープランに、我が耳を疑うボク。


 「え、今から?」 


 「そう、今から。」


 時刻は夕方近くだが、夏の日差しはまだ高い、日暮れまでたっぷり3時間はある。 彼女が言う「川」は昔よく遊んでいた場所なので、水浴びして帰っても2時間も掛からないだろう、ただ。


 「子供の頃よく遊んだけど、今のボク達には浅すぎないかな?それに今、立ち入り禁止の柵が張ってあったんじゃ?」


 「何よ、人がせっかく長旅で疲れた心を「ルキノ麗しのスク水姿」で癒してあげようと思ったのに。」

 「それに君が言う通り、浅い川なんだから立禁なんて誰も気にしてないは。」  「溺れるなんて先ず無いから。」


 「あ、滑って転んだら頭ぐらい打つから、確かに危ないかもね。」


  彼女が切り出した飛び切りのレジャープラン!それに乗り気で無い様子がルキノ様はご不満らしい、、、、


 しかし朝から長時間の移動で、どちらかと言えば今日はゆっくりしたいボクは、一応抵抗を試みる。


 「目の保養は充分、、、いや、いいとして。長旅で疲れた身体の方は?」


 「何よ、いやらしいわね。ベーだ。」 


 スク水をアピールしながら、いやらしい、、、、ですか?


 「あ!でも水着、学校に忘れちゃった。」


 「じゃあ、また今度に、、、、」


 「一緒に取りに行こう!私の学校を案内してあげるは。」 


 「、、、、ハイ?」


 ルキノちゃんが通う学校は自転車で20分ぐらいの所にある。

 

 「ちょっと、良いの?ボク、部外者だよ?」


 「私がいるから大丈夫よ~。相変わらずビビリね~。」


 そう言うと彼女は立ち上がり、縁側を出て「お勝手に」止めた自分の自転車に跨る。


 ボクは物置にしまってある、古い自転車を引っ張り出す。

 伯母がキチンと手入れしているらしく、乗るのに問題は無い。


 「しゅっぱ~つ。」


 誘っておいて、さっさと行ってしまう彼女。

 伯母さん几帳面だな~、などと自転車の具合に感心する暇も無く、慌てて彼女の後を追う。


 昔懐かしい町並みを、ルキノちゃんと一緒に自転車を走らせる、子供の時以来だ。

 嬉しさがこみ上げる、彼女の突飛な提案に感謝するべきかも知れない。

 タクシーで慌てて来てしまったから、周りを見る余裕は無かった。


 昔のままの所もあれば、変ってしまった所もある。

 喜びと、寂しさ。思い出を反芻しながら、彼女を追いかけた。

 彼女の後姿もまた、子供の頃からずいぶん変った。

 様々な出来事が頭を駆け巡り、自然と頬がゆるんだ。


 皆、夏の陽射しを避けているせいか、通りに人の姿はない。

 建物の奥、窓辺や路地に、影か気配の様に感じるだけだ。


 突然!


 先導する彼女がブレーキを掛けて止まり、コチラを振り返る。


 「、、、な、なに?」


 「今、ニヤけてたでしょ?」

 「やらしい目で私のお尻を眺めて。」


 「そ、そんな~、、、、」

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