二人きりだね。

 スイカを食べ終わって。お互いの近況を中心に、たわいの無い会話を交わす。


 喋りながらボクはもどかしさを募らせた。


 「パンドラの箱」を開け、全ての魔物が飛び出してしまったかの様に。ルキノちゃんに伝えたかった自分の気持ちを、上手く伝える言葉が見付からない。


 最後に箱に残った「希望」の様に、胸の奥。

 確かに在ると感じてはいたが、再び箱を開けると、それさえも何処かに行ってしまいそうで恐ろしかった。


 そんなボクの気持ちを、彼女は気付いていたのだろうか?


 「二人きりだね。」  


 ドクン。 


 また彼女の口から発せられたその言葉に、彼女にも聴こえるのでは?と思うほど心臓の鼓動が高鳴る。


 恐る恐る、彼女の方を覗う。

 ルキノちゃんは伏し目がちに顔を背けた。

 

 「、、、、」


 二人の間に流れる沈黙。僕は息苦しさを感じ、意を決して口を開き。


 ねえルキノちゃん、ボクは君の事がスキなんだ!!


 そう切り出そうとしたボクに、被るように彼女が聴いてきた。


 「彼女、、、、いるの?」


 「!!」



 いません、、、、



 居る訳が御座いません。

 ゴメンなさい、未だに居ません。

 甲斐性無しです。

 呆けた事を心の中で呟きながら、彼女の問いへの答え方を探す。


 ボクだって「年頃の男子」だ、「彼女」は欲しい。

 クラスメートや道行く同年代のカップルを見る度に、自慢される度に、妄想を刺激された。


 チャンスは沢山あった、、、、んだと思う?

 美人と言われる隣の子。

 可愛いと言われるクラスメート。

 身近に居る女子達に、思春期の男子として心惹かれなかったと言えば嘘になる。


 だが道行くカップルや、同級生の自慢話に重ねる白昼夢。

 自身の願望が、色、形となって現れる明けの時にまどろむ世界で、常にボクの隣にいるのは「ルキノちゃん」だった。


 それにルキノちゃんは、、、

 彼女はボクの初めての、、、

 なんだ、、、身体の発育に伴い機能としての、、、、

 生き物のオスとしての、、、

 生理機能に襲い掛かる耐え難い刺激を、、、こ、これ以上は言いたく無い。



 「は~、居ないのか~、情けない!!」

 「お姉さんは悲しいぞ、青春は待ってくれないんだよ?ん?」


 どれぐらい「自問」していたか判らない。

 一分も経っていないとは思うが、ルキノちゃんはボクの答えを待たずに、結論を下した。



 間違っては、、、、無いけど、、、



 直ぐに「居ない」と答えれば良かった。

 正直に答えようとするあまり、誘惑があった事や「その件」に関してまで伝えるべきか?考えているうちに又、タイミングを失った、、、、


 今、ルキノちゃんは出来の悪い弟を見るような目でコチラを見ている。

 部屋の柱に背を預け、団扇を片手に足を伸ばして座り込んで涼んでいた。


 す、スカートが。

 か、かなり際どい位置までまくれ上がっている!

 

 、、、み、見える???



 優しかったり、上から目線だったり、蠱惑的だったり。

 何処か今まで知っているルキノちゃんとは少し違う感じがした。


 何だろう?


 今日、逢ってからの彼女の仕草に何某かを期待させるモノと、そして違和感があった。


 でもボクは生来臆病だ!


 そして欲張り、、、、


 もしかしたらと言う期待と、今ある穏やかな関係が崩れる事への恐怖からそれを口へ出す事が出来ない。

 今すぐにでも彼女を自分のモノにしたいという衝動と、彼女を愛おしく汚してはいけないという思いが目まぐるしく入れ替わる。


 どの自分も偽りの無い本当のボク、、、、


 気が付くと、彼女がボクを見つめる視線が、何処か試す様な、からかう様な、求めているようなモノに変わっていた。


 今の彼女の事が良く解らない。

 

 逢うのは一年振りだから、チョットぐらい変るだろう。

 確かにスマホやSNSでのやりとりは在るが、ボクは彼女の事を何処まで解っているだろうか?


 ボクが彼女に言えない事、、、、が在る様に。

 ボクには知ることの出来ない秋・冬・春。この地での彼女の生活がある。


 急に彼女の存在が遠くなる。


 この再開を心待ちにしていたのに、この瞬間が何よりも代えがたいのに、近くにいる彼女がとても遠い。

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