第44話
私とお母さんは向き合ってる。
上座では、幸隆さんが興味深々な顔をしとるざ。
見せ物ちゃうざ!
「さて、桜井さん、孝典のことで聞きたいことあるんやろ?」
お母さんが言うたわ。
「はい、私、困ってます。難しいんです」
正直に、私は言うた。
「難しいか! 弱音は吐いたらあかんざ! 若いんやで」
お母さんのええ笑顔、私にはプレッシャーやわ。
それにしても、ええ部屋やなあ。
畳の匂いがするわ。
ん?
足音がするざ。
廊下から誰か来たわ。
襖を開けるて、老紳士に着飾ったヤギさんやわ。
お母さんのバイト? の手伝いしとった人や。
中々の蒲鉾やわ。
板に付いてるざ。
「奥様、失礼します」
ヤギさんが何かを持ってきたざ。
お茶やわ。
三つある。
幸隆さんと、お母さん、そして私やろか?
「失礼します」
ヤギさんが一つずつお茶を置いていくわ。
それにしても、ええ湯のみやなあ。
なんやろ、素朴な色で着飾った様子のない湯のみ茶碗やざ。
「失礼しますざ、お嬢さん」
ヤギさんがお茶を置いてくれる。
「あっ、お構いなくや、ヤギさん」
……あっ、しまった!
口に出たわ。
「え?」
やばい、やっぱりビックリしとるわ。
「お嬢さん、どうして私の名前を知ってるですか?」
???
はい?
「私、奥様に仕えております、八木と言うモノです」
……メエメエの名前は、八木さんなんかあ。
「八木、お前がなあ」
幸隆さんが冷やかしてるう。
あんたなぁ!
「桜井さん、すごいなあ。超能力者やざ」
お母さんまで……
偶然です、偶然!
「お嬢さん、まさか、私のストー……」
「それはない!」
私と、幸隆さん、お母さんがハモったわ。
「……あはは」
「ハハハハ」
「アハハハハハハ」
三人で大笑いしたって。
ヤギさんすごいなあ。
当人は、不思議に頭を傾げていたわ。
少し落ち着いた所で、ヤギさんが頭を傾げて部屋を出ていくわ。
私のメエメエとヤギの関係から、巻き込んでごめんなさいや。
私はお茶を貰う。
暖かいお茶が、体に染みるわあ。
「お口に合いますか?」
お母さんが聞いたざ。
「はい、美味しいです。それに、ええ湯のみ茶碗ですね。着飾らない素朴な、茶碗です。けど力強さを感じます」
私は言うたわ。
「早苗さん、これな越前焼きや」
「え! 越前焼き!」
私、ビックリしたわ。
地元にそんな焼き物があったなんて……
「少し前に、休みで見に行った時にや、そこの学芸員から聞いてな」
幸隆さんが言うたわ。
……なんやろ、変な感覚に襲われる。
何でやろ。
「早苗さん」
お母さんが呼んだ。
変な感覚は……まあ、ええわ。
「越前焼きはな、本来は花瓶や亀壺といった生活するための日用品として焼かれたモノが多いんや。湯のみ茶碗や、コーヒーカップと言った新しい焼き物は時代があまりないんや」
「でも、日用品は今は焼き物を、利用してませんよね」
「時代の流れや、昔はこんな焼き物が多かった。傘入れの焼き物、花瓶、亀壺……骨壺、越前焼きはな地味なんや。しかし、現代は海外の安い品や、焼き物では太刀打ちできない金属製やプラスチック製に押されもた。しかしなあ、みんなの苦労と努力で、新しい挑戦をして、越前焼きを広めつつある、道のりは険しいみたいやけど……」
「地元の私らは、後押ししたいです」
私は言うた。
「これを作ったんは、若い力やざ。早苗さん、後押しやなく挑戦やざ。ともかく今は……孝典のことやざ」
お母さんが言うた。
そや、こんなことに感動しとる場合でないわ。
私のことを、せなあかんざ。
廊下からまた足音が……この足音は……
「失礼します」
ヤギさんやわ。
ヤギさん、なんか持ってるわ。
なんか……げっ!
緑色したお餅みたいな、まさか!
「奥様、大名閣で購入致しました、草餅で御座います」
やっぱりや、草餅……つまり、ヨモギ大福や。
幸隆さんを見る。
幸隆さんも、私を見た。
目線が合い、一瞬で会話をした。
「八木、ありがとうや」
お母さんが言うた。
ヤギさんが部屋を出て行く。
「桜井さん、ヨモギ大福苦手やったなあ」
「俺もや」
ヨモギ大福……和菓子屋の娘として恥ずかしいわ。
ヨモギは体にええのに。
……!
ヨモギかあ。
確か……孝典さんは……
「お母さん、孝典さんはヨモギ好きやったらしいでしたね」
「ん? そや、孝典はヨモギ好きやざ」
ヨモギ、流動食……
コレでいけるかもや!
「お母さん、ありがとう御座います。考えが浮かび上がったです」
「ほう! 本当かあ」
お母さんが笑う。
ここ来て、正解やったわ。
私は幸隆さんを見た。
幸隆さんが気付くと、私はカタメツムリしたわ。
「早苗さん、もうちょっといろや。帰って作りたいやろけど」
幸隆さんが言うた。
そやな、雰囲気的に帰れないわ。
さてと……もうちょっと暇しよかな。
そして、オカンに報告と実行や。
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