第37話

 宮本さんと来た場所、それは中学校だった。

 この中学校は私の区域とは反対の場所に、あったはずやわ。

 「ここの校長なあ、俺の知り合いや。そして松浦兄弟の担任教師でもあったんや」 

 「えっ!」

 「小学生五年生、六年生、そして中学校二年生、三年生、合わせて四年間位の記憶はあるはずやざ」

 宮本さんが言うた。

 ポケットからスマホをとりだすと、電話をかけた。

 「着いたわ……今日のあの時は、社長と会話中やったからや……わかったわ」

 スマホを切ると、宮本さんがコクンと頷いたざ。

 許しが出たんやな。

 「さて、桜井さん入ろうや」  



 校長室にて


 職員室に入って、先生達の変な目線を気にしながら校長室に入ったざ。

 そこに体の小さな女性で、歳が宮本さんくらいの人がいたんや。

 「久しいな」

 宮本さんは女性に言うたわ。

 「本当やね」

 柔らかい物腰から、落ち着いた声で女性は言うたわ。

 「あなたが、桜井さんですか?」

 「はい、桜井です」

 私は言うた。

 「お綺麗な、お嬢さんやわ! 礼二に食われんようにや、紹介遅れました。私、校長の吉沢と言いますざ」

 「おい、麗子!」

 ……へ? この二人まさか!

 「恋人同士ですかぁ?」

 あっ、声に出てもたわ。

 「いや、元妻だ」

 宮本さんが即答したわ。

 なんや……て! えー!

 「いろいろあったんや、今では別れてまいましたんや」

 そうなんや。

 なるほどや。

 しかし、終わった後とは言え学校行事、そして学校とはなあ。

 今日は学校に縁があるわ。

 「さて、本題や」

 「そや、座ってや」

 


 校長室の来客用長椅子は威厳があり、座りやすいわ。

 座りやすいけど、気分的に落ち着かんわ。

 原因は場所や。

 まあ、説明不要やわ。

 「聞きました。孝典のことを聞きたいんやって」

 「はい、本来の目的は、孝典さんが食べられるお菓子の作製です。しかし、難しい注文なんです」

 「孝典のこと聞いてますわ。残念ですね、だけど……」

 そこまで校長先生が言うと、視線を落としたわ。

 なんか言葉を見つけているみたいや。

 「麗子、言葉をさがすな! 本来の姿教えたれや」

 宮本さんが言うた……

 本来の姿?

 「……そうやな、本当の孝典を言うわ」

 校長先生が言うたわ。

 ようやく、固まった!

 そんな感じやわ。

 「孝典はどうしようもない生徒やったわ。いつも授業を壊す。宿題はしない、家の権威を振り回す。ある意味、お坊ちゃんやったんや」

 ……えっ

 「孝典の大変な行動に私は、いいえクラスの大半の子供達は彼を嫌っていたんや」

 ……ウソ

 この後、孝典さんの事を悪く言うオンパレードが続いたわ。

 信じられんかった。

 「桜井さん、孝典は純粋な子供でした。しかし、純粋な子供であるが故に、それを傘に着ました。いつもひどい目を見たんは、幸隆やったわ」

 節目な私の顔が、上を向く。

 少し……ううん、かなり驚きの顔や。

 「幸隆はないつも兄の尻拭いやったわ。あまりにも可哀想やった。幸隆は賢かったわ、そして兄をよく見ていたんやな」

 「幸隆さんは、孝典さんと違ったんですか?」

 「幸隆は孝典のために、いろいろ他の子供達と仲介役やった。かなりイジメられた。私も知っていました。顔も姿もいっしょやから、的としては最適でした。家が良くても、同じ学校に通う生徒達からみたら家の事は関係なかった。幸隆は家の傘に着ず、そして孝典を守ったんや。私は情けなかった! 幸隆からも、先生は悪ないと言われました」

 ……幸隆さんの一面に、なんかわかる所があったわ。

 確かにアイツは子供ぽいけど、どこか孝典さんとは違う魅力がある。

 わかっていた。

 わかっていたけど……孝典さんを裏切れんかったわ。

 ……え? 裏切る! 

 ……

 ……

 「どうしました?」

 「麗子、流石やなあ」

 「え?」

 「鍵を開けたようや」

 「鍵?」

 宮本さんがニッコリ微笑んだざ。

 嘘や。

 私、いつの間に……

 「さて、本題や桜井さん」

 宮本さんが言うたわ。

 私は宮本さんに視線が行く。

 「桜井さん、あんたが本当に頼らなアカンのは、私でも麗子でもない。わかるやろ? 頼る人間は誰かが!」

 !!!

 「今回の近道は、幸隆やざ。アイツを頼れ!」

 ……幸隆さんを。

 「幸隆が待っとるざ、今から会社に送ったる。そこで、幸隆に会ってや」

 宮本さんが言うたわ。

 時間を見る。

 仕事時間が終わる頃やろう。

 つまり、私との時間が開く!

 「クルマに戻っててや、少し元妻とプライベートな話をするで」

 宮本さんが言うたわ。

 ……うん、ここは従う。

 孝典さんのお菓子の答えは、幸隆さんが持っていることがわかったわ。

 ……ううん、わかっていたんや。

 そやけど、わからんフリをしとった。

 私の心の鍵、宮本さんに開けられたんや。

 そして……

 今は止めや。

 「では先に待ってます」

 「すぐ行くわ」

 笑顔の宮本さんを置いて、まず先に校舎を出たわ。 

 後は宮本さん待ちや。



 「ようやく、幸隆と向き合えるようや」

 「……孝典の子供時代はひどかった。真実やから仕方ないざ」

 「彼女は不器用やな。まるで、幸隆と同じや」

 「今回のこと」

 「出だしは連からや、そして一樹クンからの頼みでもあったんや! このことを一樹クンに話したら……」

 「え?」

 「さて、幸隆のとこに行くわ。幸隆、鍵は開けたぞ! 後はお前やぞ」

 

  


 


 

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