第36話

 お昼時 木多町 洋食屋


 木多町にある洋食屋さんは、人がいっぱいいたんや。

 その、洋食屋さんはソースカツ丼が有名で、それもソースカツ丼の元祖であり本家らしいわ。

 「好きなの頼んでや」

 宮本さんが笑たわ。  

 ご馳走やなあ。

 「ええんですか?」

 「ええ、ええ」

 宮本さんが言うたわ。  

 よし!

 「その前に、表のあの人らは知り合いなんか?」

 気合いれてメニューを開いた矢先、宮本さんが一点を指差した

 ……

 ……

 ……

 「知りません! あの変なタヌキとその仲間なんか!」

 なして、いるんや!


 

 「スミマセンなあ」

 ……タヌキとその仲間が、横に居るんやって。

 人が増えたとかで、二人席からあがりのテーブルグループ席に変更となったんやけど……

 「会計は別やざ!」

 私は、きっちりと言うたった。

 「桜井さん、いいえ、桜井家に私が奢らせて下さい」

 宮本さんが、言うた。

 ほら! みんなの阿保たれ。

 「いいえ、ここは私らが……」

 ばあちゃんが言う途中で、宮本さんが……

 「形式で言うのは、こんだけやよ」

 ニコニコ、笑っとるわ。

 ……恥ずかしいわぁ。

 「やっぱぁ、ええ男やあ」

 ……お、オカン!

 オカンから変なオーラが見えっざ。

 「ははは、お世辞でも嬉しいわあ」

 宮本さんが大笑いするわ。

 ……はあ

 


 ご飯中 


 桜井家、みんながソースカツ丼セットを食べているんや。

 お金の支払いで宮本さんとオカンらは揉めたけど……私は宮本さんが家族は家がで決まったわ。

 普通はそうやろ……たくっ!

 せっかくの、ソースカツ丼が美味しさ半減しとるわ。

 「ここのソースカツ丼は美味いですが、私はもっぱらAランチセットですざ」

 宮本さんの置かれたご飯を見る。

 大量のご飯に、味噌汁、ご飯は大盛注文だったけ。

 そしてメインのオカズやけど、おおきなカツに小さなハンバーグ、白身魚のタルタルがけがあり、キャベツの千切りにスパゲティ……ボリューム申し分ないって。

 そのうち半分が宮本さんの胃袋に収まっているようで、黙々とフォークとナイフがカチャカチャと動いているわ。

 勢いが凄いわあ。

 食べ終わってから、話やな。

 なんか、気合がちゃうわ。

 ……ん?

 どうやら、ばあちゃんとじいちゃんも、勢いにどこか呆れとるわ。

 オカンは……相変わらずやな。

 タヌキの目に、色気が満ち満ちや。

 オトンに報告しとこう。



 食後 オレンジジュースタイム


 ご飯が終わると、ばあちゃんがオレンジジュースを奢ってくれた。

 宮本さんの分もある。

 「安いけど、情報料やで」

 それが、ばあちゃんの言い分やわ。

 因みにオカンは使えん……

 「さて、何を聞きたいんや?」

 宮本さんが言うた。

 よし! 始めるざ!

 「まず、このいきさつを説明します。聞いてはいらっしゃるようですが、私からも説明してええですか?」

 「わかったわ」



 十分後


 私は私なりに、説明をしたわ。

 伝わったかどうかは、わからんけど……

 「桜井さん、アナタの孝典クンへの想いもわかりましたわ、それを踏まえて私の話を聞いて下さい」

 雰囲気が変わった!

 この人、なんなんや?

 「まず、孝典クンは余命があります。知ってはいるでしょう」

 「はい、私は力になりたいです」

 「誰のや?」

 「二人います。一人は依頼者のお母さんです。あの方から孝典さんが吐いたことを、孝典さんが口に出来る菓子の依頼を受けました。もう一人は、孝典さんのためです。理由は……先ほど言ったことが全てです」

 「……一つは賛成、一つは気に入りません」

 宮本さんが口を開いた。

 気に入らない!

 その一言に、怪訝な顔を私はした。

 どうしてなんや?

 「気に入らない理由は?」

 ここはストレートに聞いたわ。

 「気に入ったのはお母さんのことや、気に入らないのは孝典クンのこと……正直、孝典クンのことは私は気に入らないんや」

 宮本さんが言うた。

 吐き捨てる……そんは感じに見えた。

 「……何でですか?」

 私の目がつり上がった。

 声も少しトーンが高い。

 「孝典クンはね、桜井さんが想うような男ではない。正直、松浦家の足枷やった」

 宮本さんが言う……た。

 足枷?

 「松浦家のみんなは、勉強家でなみんなが責任持って行動している。まあ、これは松浦家に限ったことやないなあ。桜井家もそうやろ。つまり、当たり前をしている……孝典クンはそれをしなかった」

 「漠然としすぎて、わかりません!」

  「松浦家の家の、傘を着た出来そこないや!

家の威光を振りかざして、生きてきたんや。幸隆クンとは違う道や」

 ……威光を振りかざした?

 そんな風には見えんかった。

 「孝典クンと幸隆クンは、高校が違う」

 !!!

 「これは、優衣さん……山本さんから聞きました」

 「山本……ああ、坂井か。山本さんの旧姓や」

 「理由は……聞きませんでした」

 声のトーンが低くなる。

 確かに、私聞いてないわ。

 「……これから、孝典クンのことで、そして幸隆クンのことで色々おしえたる。ある人を訪ねるざ。聞いた方が早いで」

 「二人ですか?」

 ばあちゃんが聞いたわ。

 心配そうや。

 「心配ないざ。可愛い娘さんやけど、今は孝典クンのことが大切や」

 「そのことが、お菓子につながりますか?」

 私が、聞いた。

 ……忘れとらんよ。

 「……孝典クンのお菓子のことで、巻き込み過ぎやわ。しかし、嫌いやありません。巻き込ませて貰いますざ。それが、お菓子に繋がるかはわかりませんが……」

 宮本さんがにっこり笑た。

 最初ん時の、ご飯たべとる時のその人や。

 なんか、呪縛が外れたわ。

 けど、凄い人や。

 そう思た。

 「さて、デートの続きや。みなさん、心配無用やざ」

 「こんど、私と……」

 オカンの口を、ばあちゃんとじいちゃんが塞ぐ。

 ……オカン、最後までぶち壊しとる。

 まあ、肩の力は抜けたわ。

 さて、宮本さんのデートの続きや。

 「桜井さん、行き先は……」

 宮本さんが、耳打ちをした。

 「え?」

 「連絡はしてあります。始めからそのつもり出したんやざ」

 宮本さんが笑う。

 ……確かにや、そこが孝典さんのわかる場所や。

 ある意味、お母さんよりわかるはず。

 「祥子! スミマセン、帰りますわ。早苗、頼むざ」

 じいちゃんがオカンを押さえとる。

 ばあちゃんも、ええ歳こいて! と、しとるわ。

 ……オカンの違う一面や。

 ひょっとしたら、私が見る孝典さんも、今日のオカンみたいに違う一面しか見とらんのかあ?

 もしくは、孝典さんが見せとらんのか?

 ……早く、デート先に行かなあかんわ。

 そこには、堅苦しい人間が居ようともや。

 ……デート先には、待ち人がいるんや。

 待ち人から、私の知らない孝典さんを教えて貰わんと。

 「さて、店を出るざ」

 宮本さんが言うた。

 私は、それに従って店を後にする。

 外からみる店内では、桜井家の三人がようやく腰を上げていた。



                   つづく

 

 

 

 

 





 

 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る