第35話

 福井駅内 ショップ街のち、アオウザ

 

 連くんのお父さんに、ここを歩いていって。

 中を散歩がてら、見回っている。

 駅ビルは箱庭みたいに小さくて、人も疎らや。

 平日も重なり、活気がないんや。

 福井の町そのものや。 

 少し駅の外を出た。

 空を見たわ。

 晴れやって、秋晴や。

 季節をようやく感じれるわ。

 連くんのお父さんの待ち合わせ場所は、ここから近くのビルで市の施設と、民間施設があり、最上階はコンサート会場があるんや。

 施設ビルの名は、「アオウザ」と言うんや。

 最初は白けてたビルで、入らないテナント多数でみんなから税金の無駄遣いと笑われたビルや。

 今は昔よりは埋まったけど、やっぱりさっぱりやな。

 さて、着いたわ。

 私はエレベーターに乗り、最上階へ行く。

 最上階のコンサート会場に、その人は待って居るんや。

 場所がそこなんは、先客がいてそこでギリギリまで打ち合わせしとるらしい。

 コンサート会場でか?

 エレベーターが最上階につくと、ドアが開き私は出たわ。

 アオウザは高いビルではないけど、福井の町が最上階から一望出来たって。

 高いビルがなく、本当に背の低い町や。

 コンサート会場の近くに、景色を見る展望台のような場所に二人の男の人が座っている。

 そして立って様子を見ている、男女がいたわ。

 ……あの人、ぽいわ。

 直感で感じたわ。と、言うか見て誰しもが怪しい雰囲気やったし……私でなきても、感じ取ったかもや。

 その空間に、私は近づいている。

 椅子に座っているのは、年老いた体の大きなおっさんと、若い年齢の青年……ううん、青年よりは歳は行っとるかな。

 「アナタが桜井さんかあ」

 体の大きなおっさんが、私に気付いたって。

 おっさんはノーネクタイのラフな格好で、センスがなかなかいい服やわ。

 「はい、桜井です。お忙しいとこスイマセン」

 私は言うたわ。

 もう一人の青年以上が、顔を上げたわ。

 ビシッとキメた、背広姿からどこか威厳を感じるんや。

 少し緊急……!

 こん人は!

 私があっ! していると、背広姿の人が椅子に座ったまま「先日の人やな」と、無表情に言うたわ。

 先日の人……孝典さんの緊急事態のときに、幸隆さんと居た人や。

 こん人、まさか!

 「私は松浦商事の代表取締役、松浦 一樹 です。先日の幸隆のビンタは見事でしたざ」

 ……声が出んわ。

 脚が震える。

 「一応、もう一人、次男は海外です! アイツは幸隆のビンタした桜井さんに、骨のある女やなあってうなっていたざ」

 そう言うと、クスクスと笑い出したわ。

 なんやろ? 威厳? どこかが違うざ。

 「社長、この後の予定は?」

 宮本さんが聞いた。

 助け舟やわぁ。

 「午後から定例会議です。そろそろ、会社に戻られたほうが宜しいかと」

 立っていた男女のペア、つまり秘書兼ボディガードの男が答えたわ。

 その際、社長もやけど、宮本さんにも配慮しているのがわかったわ。

 連くんのお父さん、すごい人なんかあ!

 「定例か……わかった。では、礼二さん今日はここまでや!」

 「では、私はあの娘と、デートと洒落込みますざ」

 宮本さんが言うたわ。

 なんや、社長さんが礼二さん! 言うたざ。

 ただもんじゃあないざ。

 社長さんが、席を立つと二人連れが社長を挟むようにガードをする。

 距離感がいい。

 三人がエレベーターに入り、扉が閉まった瞬間少し緊急の糸が緩んだって。

 「少し前まで、社長のお子さんの発表会やったんや。学校の体育館が工事中のため、ここが今回の会場やったんやわ。さっきまでは、すごい人やったんやざ」

 宮本さんが言うた。

 なるほどや、しかし、ここを会場とは……

 「私立小学校! 福井は小学校ではアコしかないざ」

 宮本さんが、ニタニタと笑う。

 えー!

 お金持ちやわぁ。

 やっぱり、セレブなんやなぁ。

 ……って!

 「宮本さん、はじめて! 私、桜井 早苗です」

 遅い挨拶や。

 「ははは、雰囲気に呑まれてたなぁ。まあ、仕方ないざ。さて、これから飯や。付き合ってもらうざ」

 宮本さんの笑顔、ナイスミドルやわあ……じゃあない!

 これからのお菓子の情報を聞かないとや。

 孝典さんのことを、教えてもらおうと思うんや。

 家族の人からは、聞きづらいし言いづらいやろ。

 宮本さんは昔から、松浦家と繋がりがあるらしいから第三者の目で教えてくれるはずや。

 そして、今、繋がりの強さを、目の当たりに見たし少し期待出来るざ。

 ここは少し、宮本さんとデートと洒落込みますかあ。

 ただ、これだけは言っとかな!

 「何も出んざ! 何もせんといて!」

 私、バシッと言うたわ。

 「……残念やあ」

 「え!」

 「ははは、嘘や! おっさんに任せて下さいや」

 宮本さん、笑っとるわ。

 豪快? というより、不思議なおっさんや。

 なんやろ。

 連くんに似とる。

 まあ、父と子やしな。

 さてと、デートと洒落込みますざ。




 アオウザ 玄関前 香奈 祥子 喜一郎


 「ええん?お父さん」

 「一日休んでも、店は変わらん」

 「確かにや、じいさんの言うとおりや」

 「それにしても、年増とデートなんて」

 「ばあさん、祥子、シーっ! 二人が出てきたわ。早苗、忠実に守ったみたいやな」

 「バレんように、張り込み開始や」

 「バレんようにかあ?」

 「そや!」

 「……バレんようにかぁ」

  

 

 


 

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