第34話

 自宅 定休日


 「なあ、早苗、余命があっても食えるモンは食えるをやぞ」

 じいちゃんが言うた。

 「吐いとるんや、これは普通の食いもんは受け付けん証拠やざ」

 私は本を見ながら言うた。

 本の題名は、「優しいお菓子」っていうんや。

 何に優しいんかはわからん。

 ……

 ……

 ……

 私は本を投げ捨てた。

 この本理屈ばっかりで、中身まるでないざ。

 うんちく、あーだ、こーだ、自己満足の世界やって。

 「まあ、そうなるな」

 近くでお茶飲んどるオカンが言うた。

 「正直、これは背伸びしずきやわ」

 オカンが言う。

 珍しく、口になんも入れとらん。

 「うるさい!」

 膨れた顔で、ぷいっと顔を横向けたった。

 「だいたい、こさえるのは私らさかえなあ」

 ばあちゃんが、ため息ついたわ。

 ……え?

 「今回も、作れんのか?」

 「作れんざ。これは、家訓や! 自分で趣味代わりの菓子作りなら、少しは考えるけど人様にジェン貰うもんはアカンざ」

 ばあちゃんがキツく言うた。

 ……ジェンは、お金のこと。福井の方言や。

 「早苗、お前が下手やからないぞ、アンタもなかなかの腕や知っとる。しかし、まだや」

 オカンも、厳しく言うたわ。

 ……疲れたわ。

 「ちょっと、ドライブしてくるわ」

 「早苗!」

 オカンが呼ぶ。

 私は振り向いた。

 「アンタは作れん、だからこそアンタの頭で創るんや」

 「そや! 早苗のやこい頭で、創るんや。ワテも祥子もそれが出来んのや。若鮎のアレは見事やったざ」

 オカンとばあちゃんが言うた。

 慰めや。でも……なんか嬉しいわ。

 やこい……柔らかいや。これも、方言やざ。

 私、少し気をよくドライブに行けたわ。



 

 「なあ、香奈、真剣に考える必要あるんか? たまたま彼氏吐いただけやろ」

 「さあ、ただ余命がある。必要かもしれんざ」

 「でも、お父さん、お母さん、私は早苗が心配です。不器用娘は、変にごたわるとこあるんやし」

 「いつものことや」

 「そや、いつものこと」

 「……」




 ドライブ中


 この時間の道は空いている。

 クルマ、走りやすいわあ。

 順調、順調……ん? 信号に捕まったぁ。ここ長いんやなあ。

 トホホや

 ……ん? あのクルマ、松浦商事のロゴがあるわ。

 営業しとるんやな。

 お疲れ様です。

 まあ、幸隆さんではないや……え?

 


 ぷー

 ぷー



 ん? あっ、青や! なんやってこんな時に!

 あー、慌てた。

 あんなくらいで、クラクション鳴らすなや!

 ……それにしても、幸隆さん頑張っとるやん。

 営業車言うことは、特別扱いはされとらん証拠や。結構、しっかりしとるやん。

 さて、どこ行こう。

 ……はあ、運動公園行こう。



 運動公園


 福井の町から少し離れた場所に、運動公園と言う地区があり運動公園と言う公園があるんや。

 運動公園には野球場や陸上競技場なんかもあり、今の時間は学生らが部活動している。

 若いなあ。

 私も一前昔は、汗流してた。

 にちゃにちゃする体操服に、そん時は気持ち悪かったけど今となってはそれも若さだったと振り返ってしまうわ。

 私はまだ、二十代……でも、十代と違う。

 沙織は羨ましいなあ。

 「あれ? おーい!」

 ……こんな所でスピーカーにあってもた。

 大きな声出すな!

 「なんやぁ」

 私は座ってたベンチを立つ。

 沙織が走って、こちらに来るわ。

 すごい勢いわなあ……ん?

 なんや? 沙織の後ろにいる、おっとりした男の子は! 体はデカいんやけど、何やろ? 母性本能? そんな感じの丸出しな細い目をした男の子やわ。

 「ねえちゃん、紹介するざ! 私の婚約者! 連ちゃん」

 ……私、耳おかしなったんか?

 「だからぁ、あっ、ゴメンなさい。俺、宮本 連って言います」

 連くん、深々とお辞儀したわ。

 礼儀正しいなあ。

 「何しとったん?」

 沙織が頭を捻っとる。

 「ええやん、なんでもないわ!」

 「……孝典さんのことか?」

 ドキ!

 「やっぱりかあ、ねえちゃん顔に出るなあ」

 「うっさいざ!」

 この、スピーカーがあ!

 早よ立ち去ろう。

 「松浦孝典さんなんですかあ」

 「え?」

 私はびっくりしたわ。連くんが言うたからや。

 「連くん、だっだったかぁ? キミ、孝典さん知っとるんかあ」

 「ねえちゃん! 連くんて馴れ馴れしいざ」

 沙織が言うた。

 ……確かにや、だけどこの子不思議やわ。

 なんやろ?

 受け入れてくれると言うか?

 「お姉さん、気にしないで下さいやって。みんなからこんな感じですから」

 連くんが照れ笑いしとるわ。

 わかるわあ。

 この子、不思議の塊やわあ。

 ……ん?

 あっ、沙織のばか!

 話題を戻すざ。

 え? 沙織のせいじゃない?

 そうしといて!

 「連くん、孝典さんを知っとるんかあ」

 「俺の父、礼二は松浦商事の相談役ですから」

 「!」

 「孝典さんとも何回か、仕事したことあるそうです」

 連くん言うたわ。

 そうかあ……

 待てよ!

 「連くん、お父さんに私の話を……」

 「しますよ。桜井さんから頼まれましたから」

 へ? 頼まれたぁ。

 私、沙織を睨んだって。

 「ねえちゃん、連は前向きに考えてくれるって。連のお父さんアイディアマンで、会社を何回も助けたんやって! 今日、ねえちゃんに報告しようと思ったけど、手間省けたわ」

 沙織の目が、真面目になった。

 ……お節介があ。

 ありがとうやざ。

 「連くん、ええの?」

 「父に相談してみます。桜井さん……妹さんに連絡します」

 連くんはニッコリ微笑んだって。

 なんやろ……かっ、可愛いって。

 プロレスラーみたいなのに、雰囲気はマスコットキャラクターみたいや。

 「ねえちゃん! 連は私のモノ!」

 沙織が怒っとる。

 ……アンタなぁ。

 沙織は連と言っとるけど、連くんは桜井さんやざ! 見事な平行線! 気付けやもう。

 「連くん、お願いや。少し相談したいんや。正直わかるかはわからんけど、ヒントはくれるかもや」

 「わかりました。任せて下さい」




 クルマ ドライブ中


 私はまたドライブしとる。

 なんか、帰りたくないわ。

 しかし世間は狭いなあ。

 また、松浦商事の関係者や。

 松浦商事って、本当に大きいなあ。

 はたまた、偶然なんかあ。

 とにかく今は、連くんを待たなあかんざ。

 連くん次第や。

 連くんお願いします。




 連 父さんと会話


 「連、飯少ないな。恋したんか? その綺麗なクラスメートのお姉さんに!」

 「父さん、俺結構食ってます。父さんこそ、食が細くなったか?」

 「歳やしな」

 「丼飯二杯がかあ」

 「……食いもんの話は止めや! わかった……そのお姉さんに会うわ。幸隆クンにも借りがある」

 「幸隆?」

 「孝典クンの、双子の弟さんや。兄よりも出来る人間や」

 「へえー」

 


                  つづく

 

 

 


 

 

 


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