第28話
お盆 曇り空 夕方頃
家から少し離れた大きめのお寺、ここに私の家の墓がある。
今日は、墓参りや。
店を早めに切り上げ、夕方頃にみんなとクルマに乗ってきた。
クルマは二台や、そこに全員……あっ、咲裕美は大学帰ったから一名抜いた全員が、早いもん勝ちで乗って行くんや。
貧乏くじは私とオトンや、何故なら運転手に指名された。
沙織以外はみんな免許もちやけど、歳いっとるやら自信ないやらで廻ってきたんやわ。
まあ、クルマの運転嫌いやないで、私的にはええわ。
クルマは順調に、道を走ってる。
家からお寺まで、数分くらいの距離、本当に短いドライブや。
歩くには遠いんやけど、ドライブには味気ないなあ。
「お義父さん、後ろで本当にええんですか?」 オカンが言うた。
私のクルマには、オカン、じいちゃん、私や。
後はオトンのクルマや。
「構わんわ……来年はクルマを待ってることになるかも」
じいちゃんが、笑たわ。
自虐的なギャグ言うとるって。
「その前に、早苗と三人事故って……」
「何でやの!」
全部言わせん間に、突っ込みいれたわ。
オカン、失礼やな。
何でこのクルマ乗るんや。
「今日は、曇り空。日暮れも早よなってきた」
じいちゃんが、外みて言うとるわ。
黄昏てるんか?
この空を、孝典さんも見とるんかなぁ。
寂しそうな空や。
墓参り
この寺に来たのは、一年前やわ。
その前も、一年前や。
簡単に言ったら、お盆は必ず墓参りしとるわ。
「ご先祖さん、綺麗にせえなアカンなあ」
ばあちゃんが、箒を手に言うた。
うん、まずは清掃やな。
一年分の埃や汚れを、洗い流す。
近くに小さな林があり、蝉の鳴き声がする。
暑くない今年であっても、蝉は泣いているって。
「そろそろ、ええんちゃうか?」
オカンが言うた。
顔から、たくさんの汗を流しているわ。
一番仕事したみたいに、見えるのは何故やろ?
「わかった」
ばあちゃんの一言で、清掃は終わりになった。
あとは水をお墓にかけて、お供え物置いて、線香と蝋燭を焚いて手を合わせるだけや。
……
……
相変わらず、蝉の鳴き声はうるさいわ。
夏の終わりを、演出しとるんや! そんな感じに聞こえるわ。
「さて、今年も参れたわ。来年も参るほうに居ますように!」
ばあちゃんがまで、自虐的になるって。
帰り際
「賢治! 弥生! 早く帰ろう!」
ん?
聞き覚えのある声が、お寺の境内から聞こえるわ。
家のみんなは、しばらく時間潰ししとる。
早よ帰りたいんやけど、オトンとオカンが住職さんに話があるとかで、しばらく時間潰しなんやわ。
「パパ、ここにいる」
「私も、いる」
子供二人の声が聞こえるわ。
「二人共、帰らないと明日、東京に帰らせませんからね」
お母さんらしき、声もするわ。
私らとはあまり距離のない所にいるんか、話声がよう聞こえるざ。
境内にいってみたる。
沙織とばあちゃん、じいちゃんは、ベンチに座ってなんか盛り上がってるわ。
さてと……あっ!
そこには、春先に店に来た東京の人、たしか和田さんがいた。
和田さんは、奥さんと子供二人といっしょやざ。
「……あっ! 桜井さん」
和田さんが、私に気付いたわ。
「春先はどうも!」
私は頭を下げた。
子供二人と奥さんが警戒しながら、私を見とるわ。
「福井に家族呼んだは、本当なんけ?」
私は聞いたわ。
「はい、妻も子供も快く……とします」
和田さんが、言ったざ。
……快くですね。
「ねーちゃん、どうしたん……あっ、桜餅の都会の人や!」
沙織が顔を出すなり、笑顔で言うたざ。
その瞬間、何か溶け落ちたように、みんな笑顔になったざ。
沙織? アンタ何したんや?
沙織が子供二人と遊んでいる。
ばあちゃん、じいちゃんは奥さんとお喋りしとるわ。
オカンらはまだ、気配なしや。
しばらくは、このままか?
和田さんが、ここに来たんは遊びにらしい。
このお寺、なかなか有名らしくて福井の町歩きマップにもあるんやて。
和田さん、子供の思い出の一つとして来たらしいざ。
それにしても、子供さんら気に入るなんて……座敷わらしでも居るんやろか?
……っあ、ここお墓やった。
……考えんとこ。
「桜餅、おいしかったです。あれ以来、少しずつ風向きが変わりました。今でも、躊躇いははりますが何とかなってたすよ」
和田さんが、私に喋りかけたわ。
奥さんと子供が私の家族と親しくしとるから、話しやすくなったんかぁ?
まあ、ええけど……
「そうなんですか、良かった。あんなお菓子でも、お手伝い出来て嬉しいわぁ」
挨拶がわりに、言うとこっと。
「なかなか良いところですよ……でも、はやく帰りたい」
和田さんが、言った。
わからなくないわ。
だって、生まれた場所が一番やもん。
そこに自分の記憶と、匂いが染み付いてるんや。
和田さんの記憶と、匂いは福井にはない。
……うん。
蝉の鳴き声が、さっきより大きく聞こえるわ。
うるさい鳴き声に、暑くない夏でも汗が滲んでくるんや。
……そう言えば
和田さん、都会の商事会社の人やった。
もしかして、松浦商事のことを……孝典さんのことを何か知ってるかもや!
……ここは、聞いてみるざ。
「和田さん、一つ教えて」
「はい」
驚いた顔で、私を見たわ。
「和田さん、会社は松浦商事とはつき合いあるんか? 実はな、私そこの人と……や」
「なるほど! しかし、それは彼氏に聞いてはどうですか?」
「教えてくれません。松浦商事の四人兄弟のことなんです。すごく怪訝な顔になるんです」
私は言うたわ。
「答えられる範囲で、答えます。私達と松浦商事さんはつき合いありますから。この前のお礼に少しだけサービスします」
ありがとうや。
さて、遠慮なく聞くざ!
「和田さん、松浦商事の息子さんは四人居ますけど、双子の兄さんは具合どうなんですか?」
単刀直入に聞いたわ。
そう孝典さんのことを!
「……孝典さんですよね。あの人は、来年この世にいません……余命三ヶ月です!」
……え? え?
「去年の今頃、大病を患ったと聞いてます。そして少し前に倒れて……死の宣告がありました。本人は知らないらしいです。しかし、気付いているかも知れないとも……」
……
……
……
「あっ、桜井さん!」
「え? あっ、ね、ねえちゃん! 和田さん、何か言ったんか!」
「実は……」
「!!!」
「どうしたんや、早苗は」
「ばあちゃん! ねえちゃん、知ってもた! 彼氏の余命を知ってもた!」
「なんやて!」
つづく
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