第27話

 孝典さんが運ばれた病院は、県立病院や。 

 菓子フェアーの終了とともに、みんなに理由を告げて会場抜け出した。

 インフォメーションで孝典さんのことを聞くと、「いま集中治療室です」と、こわばった顔で言われたわ。

 


 孝典さん!



 第五話 イチゴ大福の笑顔


 今年の夏は、雨ばかりや。

 お盆の時季も近い今日この頃、暦では秋になっている。

 めっきり、寒い日が多い夏ばかりや。

 私の心の中みたいや。

 孝典さんが倒れた次の日には、意識が回復して笑顔を見ることが出来るようになった。

 とは言えあの日以来、病院暮らしになったんや。

 孝典さんは、「八月の検査入院、それが早まっただけや」メールでも、それを繰り返している。

 あん時、思い出す。

 駆け付けたけど、駆け付けただけで中に入れんかった。

 面会謝絶やった。

 ……面会謝絶中に、孝典さんの家族らしい男の人が何人か来たんや。

 みんななんか、私とは違うオーラを持ってた。

 私、何時しか治療室の周りから、消えていた……

 だって、おれんやん。

 孝典さんは、良いとこのボンボンなんや。

 私は消えてなくなっていた。

 一人、引き止めた奴がいたけど……鬼みたいは形相でそいつをひっぱたいたんや。

 「早苗、店番してや」

 オカンが言うた。

 どこか探るような、言い方や。

 「ええざ」

 私は少し早口で、返事したんや。  

 


 午前中  店番


 雨がアスファルトに叩きつける音が、激しく聞こえる午前や。

 私はボーッと何も考えず、スマホを握っているざ。

 孝典さんのメールが、待ち遠しいんや。

 孝典さん、毎日メールくれる。

 あの面会謝絶以外は、謝りのメールから始まり、またデートしよう、そして……一つになりたい。

 そんなメールが入ってくる。

 一つになりたい……

 このメールが来たときは、心臓が止まった。

 一つの意味を問い詰める。

 ……あの意味やった。

 

 嬉しい……ええんか?

 

 これだけの、メールもした。

 だって……そう、やろ!

   


 ブーン!



 店の前にクルマが止まる。

 少し派手なクルマや。

 あのクルマは……アイツかぁ!

 「よう、久しいな」

 アイツが店に入って来た。

 確か今日は、日曜日やな。

 仕事休みか。

 「ノリに教えてもろたんや」

 アイツが、言ったわ。

 アイツ……これではわからんから、名前で呼ぶわ。

 孝典さんと同じ姿をしている、中身の違う別人……

 松浦 幸隆さんや。

 双子の弟さん。

 「松浦さん、あの時以来ですやん」

 私は言うた。

 松浦さんは、強調してワザと大きめにや。

 「ブルーベリー貰ってた時以来やな」

 松浦さんは、笑いながら言うた。

 「……それもや」

 笑顔は孝典さんと同じやのに、何か受け付けん。

 「ところで、何かようか? 菓子買わんのなら……」

 「今度の土曜、俺と付き合え! デートしてや」

 イタズラっぽい笑顔で、松浦さんは私を見たって。

 「はー!」  

 腹のそこから、大声が出たわ。

 みんなが、店に出かけ……影に隠れて聞き耳たてとるざ。

 「松浦さん、どこからそんな自信が沸くん?」

 呆れ顔の私や。

 「あはははは」

 「アンタ、また……ひっぱかれたいんか」

 私は軽蔑しながら、言うたわ。

 孝典さんが集中治療室やった時、叩いた相手や。

 叩いた理由は、無理やり孝典さんに引き合わせようとしたからや。

 ……へんな理由やな。

 だけど、イヤやった。

 「とにかく、デートせいや!」

 「あっちいけ」

 「場所は……」

 「消えて!」

 キレかかる私に、松浦さんは耳元に唇を持ってきた。

 「……」

 !!!

 松浦さん、耳元から元の場所、元の距離に戻った。

 「いろんな場所に、お前を振り回す。だけど、連れて行きたいのは、アコなんや……来週、土曜日は必ず空けとくんやぞ」

 松浦さんが、言うた。

 「今日は、帰るわ。土曜日、迎えに来る……そこのイチゴ大福くれんか? 二十個! 家の土産にするわ」

 ニッコリ笑た。

 「ここの和菓子、美味いわ! 洒落なしや」

 子供みたいな笑顔に、孝典さんとは違う表情を見せ付ける。

 弾ける笑顔に、私はどこか……どこか……

 イチゴ大福を包むと、松浦さんは満面の笑顔で店を後にした。

 そう、満面の笑顔で……

 

                 つづく



 

 

 


 

 

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