第26話

 県産業会館  フェアー当日


 朝早くから私……いや、西地区は勢揃いや。

 とは言え、沢田さんと北倉さんはあん時の人やけどな。  

 後は家で菓子売ってるんやろか?

 因みに、私んとこはじいちゃんの店番やわ。

 オカン、ばあちゃんはノンビリしとるやろな。

 オトンは、仕事かなあ? 土曜日やけど。

 会場には今は、五人いるんや。

 後三人は?

 私と

 「はーい! 沙織でーす。スピーカーしに来ましたー、ツンデレねーちゃんもいまーす」

 沙織が、言うてる……

 「沙織、アンタなあ」

 咲裕美が怒っとる。

 ……そう言うことや。

 高塚屋さんは、最後や。  

 今、菓子フェアの「夏香の若鮎」を、持ってきている所やろな。

 ……つまり、上手くいったんや。

 咲裕美が最後を決めてくれたわ。

 美味しい所を、私があげたんやけどな。 

 「お姉ちゃん、本当にありがとうや。高塚屋さん唸ってたざ」

 咲裕美が言うたわ。

 はいはい……

 周りのブースを見る。

 ボチボチ来だしてる。

 南地区は、揃ってる。

 中央……大名閣は気合はいってるわ。

 女中姿の店員さんを何人かいて、現場監督みたいなおっさんがいろいろ、ちゃち、入れとるわ。

 ちゃち は指示しとること、正しくはケッタイな時にしか使わん言い方でな。見ていて滑稽なんやわ。

 「あのおっさん、知識不足かもな」

 沢田さんが、ひそひそと言うた。

 北倉さんが、ニタニタしながら頷いた。

 今年は大名閣も、役者を揃えんがったみたいに見えるわ。

 「お待たせ!」

 声の先を、私と咲裕美が見た。

 そこには、亮さんと女将さんとがいたわ。

 イベント用の菓子と、店から持って来た菓子を台車で亮さんが運んでるわ。

 「来たわあ」

 咲裕美が、ニタニタしとる。

 なんちゅう顔や……

 「咲裕美ねーちゃん、変顔やざ」

 沙織が笑てるわ。

 うんうん……

 「早苗ねーちゃんが、ボンボンに会っとる時の顔といっしょやって!」

 沙織が……

 「こら! 沙織!」

 私が沙織を睨むと、北倉さんに隠れたわ。

 「仲がいいなあ」

 呆れてる。

 ……やれやれ



 メンバーがみんな揃った。

 私ら三姉妹、沢田さん、北倉さん、高塚屋の女将さんや。

 え? 亮さん?

 台車置いたら、仕事しに帰ったわ。

 亮さん、咲裕美を見たのと、私にコクンと挨拶したのを覚えてる。

 「咲裕美ちゃん、あんな子やざ」

 女将さんが、こう言ったんは亮さんが帰った時や。

 意味ありげな一言に、咲裕美に「はい」といい顔で返事をしたんやわ。

 進展があったんか?

 「お姉ちゃん」

 「なんや? 咲裕美」

 「ありがとう、気付いてたんやろ? 高塚屋の息子さんに私が……あの人、想う人いるんやて」

 咲裕美が言うた。

 そうなんか……

 「プレゼンテーションの始める時の少し前な、亮さんと話した。そんな時間があってん……好きな人、いるんやて……でも肩の力も抜けた……だから、上手く言ったんやそう思う」

 俯きながら、咲裕美が言うた。

 そうなんか。

 咲裕美……私は言葉がないわ。

 「でも、心配せんといて!」

 咲裕美が笑っとるわ。

 「亮さんの想う人、好きな人いるんや。だから、今は白紙なんや。チャンスはまだまだや……ツイッター、ラインも教えてもろたざ。メールは……まだやけど!」

 咲裕美の笑顔がはじけた。

 失恋した相手に失礼ちゃうか!

 しかし、亮さんふったの誰やろ?

 「早苗さん」

 声をかけたんは、女将さんや。

 「アンタ、魅力的やわ」

 ……うん?

 「早苗ねーちゃん」

 今度は咲裕美が声をかけたって。

 「……何でもないわ」

 ???

 なんやそれ?

 「さてと、はじめっざ!」

 女将さんが言うた。

 会場の時計は、開始一時間前を差しているわ。

 少し説明するざ、菓子フェアーは正午から夕方五時半まで行われる。

 県産業会館は、町はずれにありクルマでみんな会場に足を運ぶんやけど。

 菓子フェアー、実は洋菓子がメインでコンテストなんて言うイベントもあるんや。

 和菓子のほうはないんや。

 しかし、ないかわりに三倍ルールがある。

 菓子フェアーは、券でしか買えないんやけど、例えば券を、百円で一枚購入する。

 それを、グループ出店先でお菓子を買うと、券を出す。券がお金なんや。

 百円のお菓子を、百円で券で売るんやけど……

 実はこの券、後で清算すると三百円でカウントしてくれるんや。

 つまり、それだけの儲けをくれるんや。

  

 因みに、洋菓子はそのまんま。

 ……なんか、洋菓子は和菓子より、よう売れるからこうなるらしいんや。

 それに、さっきのコンテストや。

 今回、大名閣は洋菓子部門に力を入れとるらしい。

 大名閣は和菓子、洋菓子、どちらも精通していて、昨年は和菓子に力入れたらしいけど、今年は洋菓子に方向が変わったそうや。

 理由は、聞いたけど話さんとく。

 コンテストもどんなんか言わん。

 現に話がそれかけとるし。

 さて、女将さんが台車の箱から、メインの菓子を出す。

 三匹若鮎や。

 若鮎から、梅の酸っぱい香、ブルーベリーの甘酸っぱい香、キンカン瓜……甘さで勝負させるわ。

 「ほう!」

 沢田さんが唸る。

 北倉さんも、興味深々やわ。

 「はい、二人に試食や。私と桜井さんらは、味を知っとるから、気にせんと食べてや」

 女将さんが、言うた。

 「では!」

 「いただくの」

 二人が、同時に口に運ぶ。

 二人の反応は……

 「なるほどや、美味いですわ」

 沢田さんが笑た。

 「カステラ部分と中の求肥の間に、ジャムになっとる梅がようあう」

 「こっちは、キンカン瓜やわ。甘いわあ……意外にブルーベリーは爽やかやし」

 二人の反応は、なかなかやざ。

 少し説明その二や、若鮎の中は求肥が入っている。

 求肥は、白玉粉の白い色が薄い餅状のモノなんや。

 表のカステラ部分と、中の求肥の部分の間に、果実を潰してジャムにしてるんや。

 果実は練り過ぎず……これにこだわったらしい。

 これにこだわったんは、家のオカンとばあちゃんやざ。潰してまうと果実の食感がないらしく、その調整に時間を割いたらしいわ。

 完成した時は、「他の店に教えとうないわ!」そう、笑てたわ。

 かなり、手応えがるようや。

 「早苗さん」

 女将さんが声をかけてくれた。

 「さすが、祥子ちゃんやな。ええ、お母さんや、誇りに思いね」

 優しい顔で笑てくれた。

 オカン……只のタヌキではなかったんやな。

 


 

 その頃  桜井家


 「ハックシッ!」

 「祥子、夏風邪か?」

 「誰かに、誉められてたんです」

 「クセのある、くしゃみやったざ」

 「もう、お母さん」

 「まあまあ、とは言えビックリしたわ。あの高塚屋さんの息子さん」

 「……不器用娘に一目惚れなんて」

 「あの娘は、どうなるんやろ?まあ、いいとこの家としかワテは許さんけどな」

 「……」




 開始 三時間後


 「はーい、そこのおばちゃん、ありがとう!」

 沙織が大声あげとるわ。

 沙織が会場に呼ばれた理由は、この大声や。

 噂好きで、おしゃれ好き、これは沙織の悪い所やけど、物怖じせずに大声を張り上げて呼び込む度胸はすごいんや。

 私、咲裕美、沙織、三人の中で一番シッカリしとるのは間違いない……沙織や。

 正直、沙織が三女なんはある意味不幸やと思う。

 もし、この娘が長女やったら……

 「早苗ねーちゃん、早よ! また、売れたざ」

 沙織が急かす。

 ハイハイ……

 「さすが、スピーカー!」

 咲裕美のアニメ声がする。

 「……祥子ちゃん、羨ましいわ」

 「桜井さん、気合入ってるな」

 「若さなあ」

 三人が、見とるわ。

 呆れ顔あり、羨ましい顔あり……って、観察しとる時間はなかったわ。

 和菓子部門、勝負ついた。

 西地区、今回は当たりや。

 他の地区を完成に押しのけたざ。

 若鮎はおろか、各店から持ってきたお菓子もそれにつられて売れる売れる……

 大名閣より、売れとるかもや。

 「若鮎、売れ切れ! みなさん、ありがとう!」

 沙織が大声で叫んだ。

 ヨッシャ! 完売や。

 かなりたくさん作った若鮎が、こうも流行るなんて……

 やったあ!



 その頃  桜井家


 「大名閣は洋菓子に転向、冷やし善哉は大失敗!」

 「今年の夏は、雨多くて涼しい日多かったからなあ。沙織から電話来たで、一番や! そう言ってたわ」

 「まあ、私らも苦労しましたしね」




 菓子フェアー  終了


 西地区は活況付いてた。

 当然や、勝ったんや。

 和菓子部門には、勝ち負けはないけど、券の数を見てみんなで勝ちに酔っとる。

 他の地区から、やられたな!

 そんな顔で見られるんやけど、なんか気分がええわ。

 私もやな女やな。

 「はい、お疲れ様や。今年は、文句なしや!」

 高塚屋さんも、ホクホクしとる。

 あの顔見て、終わった……そう思った。

 はあー、終わったわあ。


 ピリピリ……

 ピリピリ……

 ん? スマホがなっとる。

 ……優衣さんや。

 よし、優衣さんに梅ありがとう言わな。

 「もしもし、優衣さん、ありが……」

 「早苗さん! ノリが病院運ばれた! いきなり背中痛がり倒れたらしいざ」

 ……私、スマホを落としたわ。

 そして、この一報から孝典さんの知りたくない事実を知っていく……



                 おわり







 

 


 

 

 

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