第25話
午後 おやつ
「……って、夜に山本さんに紹介された農家へ行く。少し強行するざ」
私は、くず餅食べながら言うた。
ツルツル口当たりがよく、程良い甘さやあ。
気合いれたつもりが、顔がにやけてまうわぁ。
「ニタニタすなや! とは言え、なるほどや、ただ…もう一声欲しいなあ」
オカンは言うた。
えっ!
「早苗、梅、ブルーベリー、これはいい発想や。けどな、もう一つ考えや。人間は三と言うことばに安心感を覚えるんや」
オカン……
「そやな、それと早苗、色も足らん。梅干しでなくて梅だけで使うんやったら青の色や、ブルーベリーは赤や、つまりあと一色……黄色が欲しいなあ」
ばあちゃんが、難しい注文付けたわ!
ウソや……まだ、足らんのか?
その前に、私がやろうとしていることの説明や。
ズバリ、梅を練り込む菓子と、ブルーベリーを練り込む菓子を作るんや。
まず、福井の梅は全国でも収穫量が上位なんやざ。一番はあことして、おそらく二番か三番あたりかなぁ。
その梅を使って、夏の菓子を作るんやけど……やはりコレだけでは、物足りんかな……そんな私の表情を優衣さんは察して、もう一つの果物を紹介してもらった。
それが、ブルーベリーや。
福井にはブルーベリーを作っている農家を、優衣さんが知っていたんや。
つまり、優衣さんには梅とブルーベリーの果物農家を二つ教えてもらったことになる。
優衣さん、本当にありがとうございます。
そして、梅とブルーベリーに合わす菓子……ズバリ! 若鮎なんや。
若鮎って、菓子や。
鮎の形をした菓子なんやよ。
これは暁美さん、とこの会話からヒントをもらったんや。
お義父さん、鮎つりに行った。
そういってたやろ。
そこからや、暁美さん鮎は夏の匂いがする魚……そう言ってたやろ。
……もうわかったかぁ。
つまり、私は若鮎に果物を練り込んで、味とほのかに香る匂いを夏の匂いとかけたかったんや。
正直、自信あった!
自信あった! オカンもばあちゃんも、興味深々でこれはイケる!
そう思た矢先や……もう一つ足らないと言われたんは。
「早苗、もう一声やざ」
オカンが言うたって!
「明日の朝には、試作品をこさえるで、もう一つ絞れや」
ばあちゃんまで!
えー、そんなぁ。
はあー……
なんやろ。
もう一つなんてなぁ。
ふらふらと、店に顔を……
ん?
咲裕美が接客中や。
隠れよう。
私、悪いことしとらんざ。
そやけど、とっさに隠れたわ。
しゃあーない、聞き耳たててみよ。
「おばちゃん、ありがとうございます」
「ここの菓子美味しいんや」
「本当、ありがとう」
「咲裕美ちゃん、ええ笑顔やわ。早苗ちゃんとは違う魅力やわあ」
「……お姉ちゃんは、私には高嶺の花や。昔からみんなに注目されてたし、魅力的やし、何一つ勝てんかった……私、よう怒られ呆れられてるんです。それも、今もです……でも」
「でも、なんやぁ?」
「お姉ちゃんは、私の自慢や。呆れても怒られても、私に手を差し伸べてくれるんや。また、私のアホでお姉ちゃん振り回して……私」
「ええ娘やなぁ、咲裕美ちゃんも、早苗ちゃんも! 桜井美人三姉妹とはよう言うたわ! なあ、咲裕美ちゃん、こんど家のキンカン瓜を上げるざあ。これ、メロンにも負けん甘さなんやざあ」
「ありがとう、おばちゃん」
……!
私はとっさに、店に出たざ。
咲裕美と、おばちゃんが驚いてたわ。
「おばちゃん! ありがとうやざ。それや!」
私の勢いに、二人がビックリしてるわ。
おばちゃんが帰ると、咲裕美に向き合った。
「アンタなあ、お世辞ばっかりで呆れるわ」
私は言うたざ。
この妹は信じん。
結局、私を振り回してるからや!
出来の悪いモンほど可愛い……それは、そうしとくわ。
「お姉ちゃん、私はウソ言うと……」
「そんな実のない話はええ! 咲裕美、すぐにおばちゃんに、ソレをもらってきてや」
「え?」
「キンカン瓜や! これで……」
「三色、そろたなぁ」
店の中から、いきなりオカン登場や。
「早苗、はよ梅とブルーベリーを、咲裕美はキンカン瓜をもらってきてや。夜中になるけど、試作品作ってみたるわ」
オカンが言うた。
「明日は、臨時休業やな。だけど、価値はありそうやなぁ」
ばあちゃんも出てきた。
よっしゃあ!
道は決まったざ。
「明日、夕方には高塚屋さんに間に合うかあ」
咲裕美の目に涙がある。
「咲裕美! ええ」
私は咲裕美に言うた。
「アンタ、楽し過ぎや。だから明日、アンタ一人で売り込みやざ」
「え?」
「一人で、説明してこいや!」
厳しい口調で言うたわ。
「ウソ……や」
「咲裕美!」
オカンが、大きめの声を上げた。
「今から、試作品作ったる。早苗が言うた通り、アンタが一人で説明や。自分の蒔いた種を、最後まで早苗に刈らせるんか?」
「……」
咲裕美が俯いたって。
オカンの言葉は、重いわ。
「咲裕美、惚れた男に保護者付で説明は、情けなさすぎや」
ばあちゃんが、優しい口調で言うた。
咲裕美!
答えは!
「……ありがとうお姉ちゃん、私、一人で行く! お姉ちゃんが引いてくれた道、私が仕上げさせて貰います」
咲裕美、シッカリ言うた。
目にやる気を感じる。
……決まりやわ。
私がオカン、ばあちゃんにコクンと頷いた。
「オカン明日は、臨時休業やな」
「今日は材料集めや。早苗、早よ行け」
オカンが外を指差したわ。
……わかったざ。
行くわ。
行き先は、ブルーベリー農家や。
梅はスーパーで福井梅として売ってるから、貰う前に代用出来る。
キンカン瓜も、もしたくさんもらえないなら、スーパーで代用出来る。
けど、ブルーベリーが採れるのは初耳や、そこに行ってみるわ。ひょっとして、スーパーにないかもしれんのや。
え? あるやろってか?
ジャムはダメやざ。
それに……そこは福井産にこだわりたいんや。
スーパーに福井産のブルーベリーがあるかわからん!
だから、行くんや。
まあ……優衣さんが根回ししてくれた。
私は、行くだけや。
さて!
行ってみよ!
夜中
……ごめん、ブルーベリー農家の話はここではせんとくの。
訳は……いろいろあったんや。
これは少しずつ、ハッキリさせてくわ。
孝典さん、アイツは……孝典さんと違う!
なんなんや、アイツは……
つづく
追従 キンカン瓜に興味あったらググってな!
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