第24話

 午前 配達中


 はあー、どうしようもない次女やな。

 咲裕美のことや、理由は……アレや。

 結局、寝不足気味やって。

 今は配達や、配達!

 山下さん所や、あの暁美さんいるあの家や。

 万寿のことから、少し気に入られたんかは知らんけど、注文が入るようになってる。

 

 

 「すみません」

 家に着くと、人を呼ぶ。  

 来るとしたら、おっさんやろな。

 感やけど。

 「はーい、今行きます」

 ん? この声は暁美さんや。

 「あっ、桜井さん! どうも」

 おっさんやなかった。

 ハズレた。

 でも、ハズレて嬉しいなぁ。

 おっさんがイヤなんじゃないざ、暁美さんが好きなだけやざ。

 「ありかとうございます。これ、お菓子です」

 そう言うと饅頭を渡したんや。

 今回のは饅頭やざ、万寿とは違うでの。 

 暁美さんは結婚して、今は山下さんになった。

 六月の一件から、仲良くなってん。

 「……どうかした?」  

 暁美さんに、言われたわ。

 心、読まれたかぁ。

 ここは相談や。




 「なるほどやが、夏らしい菓子ですかあ」

 暁美さん、金沢訛りと福井訛りの半分になっとる。福井の空気に馴染んできたかあ?

 それとも、山下家かぁ?

 まあ、どちらでもええけどな。

 「……果物を使うとか」

 暁美さんが、言うたわ。

 これは私も考えた。

 そやけど、アカンなあ。

 「夏の福井の果物って言うたら……思い浮かばんわ」

 私はアッサリ、ギブアップや。

 「例えば、梨とか、桃とか」

 暁美さんが、続けるわ。

 だから、梨は秋やし、桃は初夏やろ! なんては、言えんなぁ。

 梨は金津町の梨を、拝借して売り込むにしてもまだまだ無理があるんや。

 福井県坂井市金津町の梨は、地元では知る人ぞ知る果物やけど……おしいなぁ。

 まして、桃はない。

 福井で桃は作ってないしなぁ。

 桃の甘い香りと、菓子は合いそうやって。

 はあー

 「まあ、深く考えないでな」

 暁美さん、励ましてくれるわ。

 「ありがとうや、ところでお義父さんは?」

 「お義父さんか? 仲間と釣り行ったがや。なんでも鮎釣りらしいわ」

 「へえ、鮎かあ。私すきやぁ。美味しいわぁ」 

 私、イヤらしく笑たかも。

 「あはは、お義父さんは鮎の匂いが好きらしいですよ。鮎の匂いは、夏の匂いとか言ってます。夜は期待してろ! やそうです」

 暁美さん、ニコニコしながら、言うたわ。

 どうやら上手くいっとるみたいやな。

 「ごめんなさい、もう一件配達あるんや。今日はここまでにしてや」

 私はそう言うと、クルマに戻ったんや。

 「気いつけて!」

 暁美さんが、手を拭ってくれた。

 ありがとう!

 さて、配達を続けるざ。もう一カ所の配達や。

 場所は山本さんとこや、ここには優衣さんがいるんや。

 ……そうや、あの孝典さんの、お目付役のあの人のんや。

 聞いた話では、アパートに新婚ホヤホヤの旦那と二人暮らしらしいわ。  

 山本さんは、結婚した後の名前らしいざ。

 へえー……負けられんなぁ。

 ……私、一生独身はゴメンや。

 ええ人と、地面に根を下ろしたいって。

 さて、アパート目指すざ。

 


 おしゃれなアパートの二階、約真ん中あたりのドアを目指す。 

 

 ピンポーン


 「はーい」

 聞き覚えのある声がする。

 間違いなく……

 「桜井さん、お久しぶりや」

 あっ、優衣さんやわ。

 普段着、ラクな姿しとる。

 それでいて、オシャレやわぁ。

 「中入って」

 「え? でも」

 「ちょっとならええやろ?」

 ……そやな、この配達終わったら、帰るだけやでな。

 今は咲裕美に会いとうないしな。



 狭い部屋や。

 失礼かもしれんけど、それが第一印象や。

 日のあたりはええんやけど……

 二人で暮らすには、これくらいのスペースで十分なんやろな。

 「狭いやろ! いずれ、ここ出るんや」

 優衣さんお茶入れながら、言うたわ。

 旦那さんは仕事、同じ職場の違う課なんやよ。さっき教えてもらったわ。

 「ま、まあ……」

 私はしどろもどろ、そんな感じでいるわ。

 「この部屋、二人なら十分なスペースやけど、三人やと狭いんやなぁ」

 優衣さん、言うた。

 ……ん?

 「優衣さん、授かったんか!」

 私が驚いて聞いてみた。

 「うん、いるざ」

 恥ずかしそうに、言ったわ。

 「おめでとうごさいます」

 「ありがとう」



 少し話をしてる。優衣さんと世間話や。

 なかなか、この人面白いわ。

 「ええの? 仕事」

 優衣さん、言うたわ。

 大丈夫、スマホで知り合いの人に会ったから、帰り遅なる言うたから安心してや。

 優衣さん、お茶菓子かいに少し近くのコンビニへ行った時に、電話しといたんや。

 ……とは言え、私の家、菓子屋なんやけどなぁ。

 なんか不思議な気持ちやったって。

 優衣さん、面白い人やわ。

 仕事のスイッチオンの時とは、えらい違うわ。

 そこで色々話聞いたわ。

 だけど、私の話の中心は……孝典さんがメインや。

 他に話したいけど、孝典さんになるんやわ。

 優衣さん、笑いながらきいとる。

 「孝典さん、何人兄弟やあ?」

 私が聞いてみた。

 いろいろ知りたい、その興味の一つはコレや。  「男ばかりの四人兄弟やね。ノリは四人兄弟の、たぶん三番目やなあ」

 「多分?」

 「ノリ、実は双子の兄なんやざ」

 「え!」

 私、驚いたわ。

 だって、驚くやろ。

 「双子なんやけど、学校は別でな。初めて幸隆さんに会った時は、ビックリしたわ。見た目は同じ、そやけど性格は全く違うんやわ。ただ、ええ人やよそこは、いっしょやって」

 優衣さん、教えてくれたわ。

 他の兄さん二人は、そっちのけや。

 「……早苗さんて呼ぶざ」 

 「優衣さん、ええざ」

 「早苗さん、ノリは八月から入院します」

 優衣さんが、言うた。

 私の笑い顔が、一瞬で消えた。

 「早苗さん、アナタには教えておく。病院は……それと、私の携帯番号な。なんかあったら、相談のるざ」

 優衣さん、いろいろ教えてくれた。

 私、嬉しかったけど……複雑やった。

 「早苗さん、笑顔! ノリ、笑顔の早苗さんが好き言うてたざ。笑ってや」

 優衣さん……そやな、私は笑顔にしてよ。

 笑顔が、私の……うん。

 「そろそろ、おいとましてや。ごめんな! 昼から旦那の母さんくるんやわ。わざわざ、美方町から来るんやよ」

 「美方……嶺南の人?」

 「そや!」

 嶺南なんかあ。

 ……少し説明や。

 福井県は大きく、二つの地域に分かれるや。  

 金沢よりの地域、そして関西よりの地域、分かりづらかったら、地図で福井県の位置を見てみるとわかるざ。  

 福井県は北陸と、関西の県境に位置しているんや。 

 その位置で、北陸……金沢近くの地域が、嶺北と言うんや。

 そして、関西よりの地域が、嶺南と言うんや。

 実は私ら、福井市の人間から言うたら、嶺南との繋がりはあまりないんや。

 つまり、嶺南の人間は、私らと少し違うんやわ。

 「旦那の母さん、またたくさんの梅もっくるんかなあ」

 優衣さん、言うたわ。

 「梅ですか?」

 「そや、福井梅や。なかなかのブランドや! 自慢しとったわ。まあ、私はそうですかぁ程度やけどなぁ」

 ケラケラと、優衣さん笑てるわ。

 ……梅!

 使えるざ!

 「なあ、お願いがあります」

 「なんや?」

 「実は……」

 私、切り上げたがる優衣さん捕まえて、少し話したわ。

 菓子フェアーのことや!

 一つ、閃いたざ!

 「菓子フェアーかあ、アレやな。早苗さんとこは西地区なんかあ」

 「はい、嶺南の梅が欲しいんです。それを西地区のメインにしてみたいんです」

 「なるほどやざ。私の旦那の実家なあ、梅農家なんやて。頼んだるざ! さしあたって今日は、ある分だけ後で上げるから、取りにきてや。それと、職場の知り合いにな……」

 優衣さん!

 ありがとう。

 「そっちも、私が話つけたる。後で電話したるで!」

 優衣さん、面倒見ええなあ。  

 でも、助かる。

 優衣さん、感謝します。 

 さて、私は見えて来たざ。

 これで、勝負にいけそうや……と思うんや。うん、思う。

 さて、後で優衣さんの電話待ちや。そこから、菓子づくりや。

 さて、まずはオカンに相談や。

 オカンらに、試作品作ってもらわんと。 

 帰るざ!

 

 ……咲裕美、アンタはしばらく、蚊帳の外やでな!

 仕方ないな、この知恵でなんとかしたるわ!

 感謝せいや!



                 つづく 

 

 

 

  


 


 

 

 

 

 

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