第23話

 夕方 ご飯後

 

 卓袱台にてみんなに報告中や。

 咲裕美は、洗いもんしとる。

 「亮ちゃんかあ、咲裕美の惚れたんは」

 オカンが言うたわ。

 「あこの次男坊やな。いずれは、支店継ぐんやろ?」

 ばあちゃんも、言うたって。

 へえー、次男なんかあ。

 大変そうやあ。

 「ところで、亮ちゃん来たやろ」

 オカンが、笑てる……オカンと女将さんは同級生で仲がええ。

 ……なんかしたな!

 「オカン、何企んでんや?」

 「別にぃ、由美子ちゃんが亮ちゃん連れてきただけやろ、気まぐれで」

 お茶を飲み飲み、笑てるわ。

 間違いない、何かしたわ!

 証拠はないけど……タヌキはやりかねん!

 


 咲裕美が洗いモノ終わって、沙織以外勢揃いや。

 え? 沙織は何故いないって?

 クラスメートとお泊まり会やて、青春しとるわ。

 「今回、桜井のために勝ちたいんや」

 咲裕美が言うたわ。

 私を含めてみんなが白けとる。

 「何で勝ちにこだわりたいん?」

 オトンが、珍しく発言や。 

 オトン、沙織の心配しとるんやな。

 心配事があると、積極的に発言するんや。

 この前、私が孝典さん時みたいになった時と、同じなんやわ。

 クラスメートとは言え、他人の家へ泊まるなんて……そんな感じに心配しとったなぁ。

 自分が教師やから……これは関係ないかな。

 教師の面子を重視するくらい、薄情な人間ではないのは知っているから。

 「ええやんか!」

 咲裕美が頬を膨らますわ。

 「咲裕美、亮さんやったか? まあ、三人でなんとかせいや。今回、年寄りはその指示にしたがうでな」

 オカンが言うたわ。

 ……ん?

 「オカン、三人て?」

 「この天然があ、早苗アンタも入るんやざ」

 えー!

 私も数の中なんかぁ。

 「そう言うわけやから、早苗、咲裕美、気張りなや!」

 ばあちゃんまで、プレッシャーをかけるって。

 「早苗お姉ちゃん」

 咲裕美が真剣な顔して、私を見るって。

 「お姉ちゃんの、年の功見せてやざ」

 「私、アンタとあんま変わらんざ!」

 大声が出たって!

 全く……




 夜中 オカンが会話


 「ん?携帯鳴っとる……もしもし、あ! 由美子ちゃんかあ」

 「……」

 「あはは……そやけど、亮くん気があるようや言うたんやろ? だから、面倒臭がる、息子強引に引っ張ったんやろ」

 「……」

 「へえ、家の次女、咲裕美は惚れたようやざ」

 「……」

 「あはは、亮くんも男やね。さて、明日どうなるやら!」

 「……」

 「じゃあ明日待っとるで、おやすみ」

 「……」

 「はあ、寝よ」

 


 次の日  夕方


 私と咲裕美は、息子さんを待ってるわ。

 夕飯時と言うことやけど、ご飯は用意しとらん。

 これは桜井と高塚屋さんとで決めたらしくて、用意いらんに鳴っとるんや。

 沙織が私ら二人につきまとってくるわ。

 顔に、興味深々と書いてあるって。

 「ねえちゃん達、ええ男襲ったらあかんざ」

 沙織がニタニタと笑っているわ。

 「襲うわけないやろ!」

 咲裕美が呆れとる。

 「じゃあ、襲ってもらいや」

 沙織、アンタなあ。

 「何言っとんや、こんな所で襲われても意味ないやん!」

 咲裕美が、言うたわ。

 …………ん?

 何か引っかかるざ。

 沙織も頭捻っとる。

 「何やの、お姉ちゃん! 沙織、アンタは二階行きや!」

 咲裕美が顔真っ赤にしとる。



 「ごめんください」



 玄関先から声が聞こえるざ。

 この声は……

 「はい!」

 ちょっ、咲裕美が飛び出してったわ。

 こら!

 「……っと、沙織、部屋帰りや」

 一応、沙織に釘を刺して……

 


 私 咲裕美 亮


 三人が卓袱台にいるわ。

 息子さん……面倒やから、亮さんと呼ぼう。

 歳的に私くらいやで。

 さて、改めて卓袱台には、私と咲裕美と亮さんがいるわ。

 亮さん、部屋の中を物珍しそうにしとる。

 「歴史のある部屋やなぁ」

 少し落ち着きがないわ。

 仕事着の時の、落ち着きが嘘みたいや。

 亮さん、普段着やしな。

 なかなか、様になっとる。

 咲裕美……意識が、どっか行っとるわ。

 私が、咲裕美を揺らす。

 「……ん、な、何や、お姉ちゃん!」

 ……大丈夫やろか?

 まあ、先に進めな!



 三十分後


 「涼しい菓子で大名閣は勝負らしいですわ。そして、南地区も冷えた菓子になったらしいわ」

 亮さんが情報をくれたわ。

 なるほどや、いや、コレが普通やな。  

 夏の菓子、冷たい菓子となるのは。

 「大名閣、アコはぜんざいらしいわ。店に情報が今日入って来ましたわ。南地区はくず餅や」

 亮さん、お茶を一口飲んだわ。

 咲裕美は、その口元を見とるような……

 止めとこ。

 「に、西地区も冷えた菓子で!」

 咲裕美が、言うた。

 声が少し高いざ。 

 「いや、手遅れやな」

 亮さんは首を振り言うたって。

 「早苗さんでしたっけ? アナタはどう思う?」

 亮さん、私に意見を求めたわ。

 えっ、私かあ。

 私は……よし!

 「夏に冷えた菓子は当たり前や、違うもので夏の演出した方がええと思うざ」

 私は、そう言うた。

 正直、大名閣さんが涼しい菓子になるなら、こちらはそれに代わるモノでやらなあかん! 南地区は今回真似したようやけど、西地区は違う夏で勝負や! 

 「早苗さん、なんか考えがありますんか?」

 亮さんが、私に笑う。

 その顔は、咲裕美に……咲裕美、私を睨むなや!

 「高塚さん、私に考えがあります!」

 咲裕美が言うたわ。

 咲裕美、アンタ!

 「私自体、まだ菓子は作れません。だから、作って貰います。明後日には高塚さんに行っていいですか?菓子作って持って行きます。これでどうか、吟味して下さい!」

 咲裕美が、言い切ったざ。

 「……明後日ですか。わかりました、それでは三人、高塚屋支店で菓子を決めましょうや。時間はこの時間くらいにや。俺は任せますわ!」

 「はい、任せて下さい! 絶対、高塚屋さんに認めて貰いますで!」

 咲裕美が、気合いるとる。

 ……そこまで言うなら、咲裕美に任せてみるわ。

 咲裕美、やるやんけ!

 「わかりました……早苗さん、妹さん、期待してますで! 今日はこれで」

 


 亮さん帰宅後


 「咲裕美、離せ! はなして!」

 咲裕美が私にしがみついてるをや。

 この娘、この娘は! アホちゃうか!

 「お姉ちゃん、私を助けてやぁ」

 つまり、咲裕美は惚れた男に、見栄はりおったわ。

 この娘は!

 「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」

 涙いっぱい落として泣いとるわ。

 咲裕美、私が泣きたいざ。

 そこに、オカンが来た。

 オカンに、助けてもらお。

 「オカン! 助けてや、咲裕美が見栄はりおったわ」

 「……早苗、なんとかしたり」

 「へ?」

 「その時、咲裕美を確かめんかったアンタの落ち度やざ! 咲裕美は社会勉強やったはずやろ、そう言うた時に、確かめたらそこで終わったんや」

 オカンが、厳しく言うたわ。

 ……嘘や。

 なんで私が、咲裕美の尻拭いなんや?

 可笑しいって。

 「早苗お姉ちゃん、お願いします。私を助けてや! 桜井 咲裕美 一生のお願いやぁ」

 ……アンタの一生は、少なくても百回くらいありそうやな。

 実際、あったしな……

 はあー……

 オカンに責任あると言われ、咲裕美に泣かれ……よし!

 「わかりました! 咲裕美、何とかしたるわ」

 「本当に、本当に! ありがとうや! 流石にお姉ちゃんや」

 コイツ!

 ……止めた。

 今は、夏の菓子を考えな。

 それとオカン、アンタ厳しいわ。  

 タヌキが化けてきたなあ。

 さて、どうする私!



                  つづく

 

 

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