第22話

 午前中 高塚屋支店 二階


 私と咲裕美は、二階のお茶室で高塚屋さんを待っているんや。

 詳しく言うたら、西地区のメンバーみんなが待っているんやわ。

 西地区は桜井、高塚屋を入れて四つの菓子屋があるんや。

 これは東西南北全てのグループが四店もしくは三店……つまり、大小入れて和菓子屋は十五店くらいがあることになるんやわ。

 因みに、北と東は三店舗らしくて、個人鞠しとるらしいわ。

 うーん、私らも個人鞠やりたいわ。

 「あら、今回桜井さんは二人なんかあ?」

 同じグループの、沢田さんが言うた。

 メガネのオッサンで、なんか笑えるんや。

 ええ人なんやけど……

 「はい、私、今回、社会勉強をしに来ました!」

 咲裕美が気合いれとるわ。  

 言葉も気合やけど、服も一人いいの着とる。

 スーツとまでは行かんけど、高そうな服やわ。

 化粧はうっすらしとる。

 私はスッピンや。

 あまり化粧は好きでないんや。

 だけど、孝典さんと会う時は別やで。

 ……咲裕美、息子来るかわからんのに。

 「高塚屋さん、遅いなあ」

 言ったのは、北倉菓子屋のオバチャンや。

 正直、菓子作り引退した人やざ。

 まあ、北倉さんも沢田さんも、適当に高塚屋さんの指示にハイハイと従うだけやな。

 自分らで動くことはないわ。

 まあ、私らもよう似たモンやけどな。



 「すみません、遅れました」

 女将さんが、階段を、あがってきたわ。

 ん?

 足音が、二人みたいなぁ。

 「あっ」

 咲裕美の声が漏れたわ。

 つまり……や。

 いたわ。

 「ほんと、すみません。渋滞に巻き込まれたんやわ」

 女将さんがため息をついてるわ。

 「……」

 咲裕美、相変わらずや。

 しかし、まさか二人で来るなんて……

 しかも、息子は作業服のままやし。

 なんか連れてかれた感が、濃いって。

 「かっこええ」

 咲裕美がなんか言うたわ。

 みんな、聞こえてるんやないか?

 沢田さん、北倉さん、咲裕美見て笑とるって!

 なんで私が、恥ずかしい想いせなあかんのや?

 私が顔真っ赤にしとると、女将さんが喋り始めたわ。

 「さて、今回の菓子フェアーやけど、ここにいる若店主……まあ、私の息子、亮に任せてみます。社会勉強と若い発想でええ評判を手に入れなあかんざ、亮!」

 息子に気合いれとるざ。

 「いきなり連れてきて、それは無いわ」

 息子さんが、イヤな顔をしとる。

 いきなり、決まった! そんな顔やわ。

 おそらく、今回の遅刻はコレに関係あるんやろうな。

 「あっ、あの……」

 ん?

 咲裕美がなんか言いよるみたいや。

 「息子さんと、私で今回任せてくれませんか?」

 ……

 ……

 えー! 咲裕美アンタ!

 「あら、ワテせんでええをか?」

 北倉さんが、喜び隠しとるわ。

 「北倉さん、そうはいかんやろ。ただ、若い発想に賭けるのも面白いなあ。ウラは賛成やざ」

 沢田さんも、興味本位やざ。

 「後は亮、アンタやざ」

 女将さん、脅してますざ。

 「……桜井さん、俺としたいんか?」 

 「べっ、別に、カッコいいからしたいんやなくて……地区のためや! 去年、散々やったんやろ!」

 カッコいいからしたいんやろ?

 まあ、言えんな。

 ……ここでも、ツンデレやって。

 あーあー、沢田さん、北倉さん、笑とるわ。

 オマケに女将さんも、苦笑いやな。

 ……ん?

 息子さんの顔、なんか想いつめたような……

 「もう一回言うざ、俺の力なるんやな!」

 キリリとした瞳やなぁ。

 うんうん……

 「なります。ならして欲しい」

 真っ赤な顔しながら、咲裕美が言うてるって。

 「わかった。頼むざ!」

 「決まったみたいやな。亮、明日仕事おわる夕方に、桜井さんの家いきね、そこで話詰めるやで。その話次第でみんなが動くをんやでな!」

 女将さんが、息子さんに言うたって。

 決まりや。

 咲裕美が息子さん見ながら、ヘナヘナと座るわ。

 腰砕けになったみたいや。

 「アンタ、名前は?」

 「へ?」

 「名前や」

 「咲裕美です」

 「亮や。じゃあ、明日や! 女将さん先帰りますざ、俺かて忙しいんや。帰りはタクシーでお願いしますわ」

 息子さん、さっさと帰ったわ。

 咲裕美、ポーッと見送ってるだけや。

 


 その後、咲裕美が変になる一方やざ。

 仕方なく、引っ張るように連れて帰ったって!

 明日、夕方に話合いかあ。

 どうなるんやろ?

 まずは、オカンらに報告やな。

 知恵をもらわな、咲裕美アンタ恥かくざ!

 ……もう



                 つづく


 

 



 


 

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