第13話

 翌日 午前中


 私、今なナビ任せで、クルマ走らせてるんや。

 「さくらい」からは、近いほうやと思たんやけどちょっと遠いなぁ。

 まあ、遠い人が桜井(おみせ)を頼ってきたのは名前が売れてるんかなぁ。

 

 『ここから、目的まであとわずかです、案内を終了します』

 ナビが言うたわ。

 ……あっ、この家やな。

 ウーン便利な世の中やわ。

 


 「では十日後に合わせて、万寿を作りますんで」

 私、愛想振りまきながら、営業スマイル中やって。

 「わかったわ。お願いしますで」

 相手は昨日のオトンや。

 息子は仕事行っとるとのことや。 

 「ねーちゃん、なかなか別嬪やなぁ。相手はおるんか?」

 いきなりの雑談、いきなりのイヤらしい質問や。

 なんやって、このおっさんは!

 いやらしい、おっさんの笑顔に、孝典さんの爽やかな笑顔が駆け抜けていくぅ。

 孝典さん……おっさんさえおらんかったら。

 「まあ、それなりに……」

 私、本日にそれなりに言うたった。

 「あっ、本当はおらんのやろ。可愛い顔がもったいないざ」

 ……はいはいや。

 疲れるおっさん、そろそろ帰ろう。 

 「息子の嫁になる彼女なぁ、キレイやって! 確か美術館の学芸員しとるらしいんやで」

 おっさん、まくし立てるように言うてるって!

 ……ん? 美術館!

 福井で美術館と言えば、県立美術館か市立美術館なんやけど……

 「県立美術館でなあ働いとるんやわ。元々は福井人ではないらしいんやけど、息子が捕まえたんや!」

 捕まえたって、虫みたいな言うなや。

 ……とは言え、県立美術館は孝典さんとデートする場所やわ。

 うーん、福井は狭いわぁ。



 はあー、疲れたって。

 なんだか、パワフルと言うか、うざくるしいと言うか……変なおっさんやったのぉ。

 山下自体も変わりモンやったけど、あの親にしてこの子ありやって。

 だけど、結婚式するんかぁ。

 ……なんやこの、訳わからん敗北感は!




 「はーはーあーあーえーぇー」  

 ん?

 ガラス張りトラックが近くにおるんか?

 えっ、ガラス張りトラックって、何やってかあ。

 ……よし、私が教えたるわ。

 その前に、派手にスピーカーから流れる祝いの歌?みたいなのを流す、トラックを探すざ。



 

 二つめの信号を左に折れて、少し走り小さな十字路を右折した所に、探しモノがいたって!

 スピーカーから流れる、大音量の祝い歌にほとんどがガラス張りのトラックが沢山の嫁入り家具をみせつけてるって。

 このトラック別名、見栄張りトラックって言うんや。

 大音量で流れる祝い歌に、数々の嫁入り家具をこれでもか! ってな具合に見せる代物で、インパクトすごいんや。

 ……正直、私もアレは恥ずかしいって。

 それに中の家具、半分はハリボテに近いモンやしな。

 家の規模に合わん、大量の家具を積んでいるから、滑稽に見えるのは私だけでないはずや。

 現に他の見物人も、引きつり気味に笑てるわ。

 ……山下んとこも、こんな感じやったんかもなぁ。

 なんだか、恥ずかしいって。

 コレはどこかで、止めなアカンって!



 


 午後  おやつ


 今日のおやつは、婚礼万寿の紅白や。 

 つまり味見やね。

 白は粒餡、紅はこし餡……美味いわ。

 甘さ控えめ、お茶に合うわぁ。

 「……早苗、時代ニーズに合わんようになったんかもしれんわ。ガラス張りトラックも、万寿まきもや」

 オカンがお茶を飲みながら、言うたわ。

 「沙織が、ジューン・ブライド言うたなぁ。アレも仕方ないんやわ」

 ばあちゃんもため息まじりに言うた。

 「何が良くて、何が悪いか、今はわからん。だけど時代は変わる……まあ、ワテらは万寿まきの伝統は続いてほしいけどな」

 深いため息に、ばあちゃんはどこかやるせない気持ちだったみたいや。

 さっき私、トラックは止めなあかんて、言うたことからこんな話になったんや。  

 あんな派手なトラックは……で始まり、今はそれなら万寿まきも当てはまるになったんや。

 和菓子作ってる、オカンとばあちゃんも、なんか限界を感じてるんやな。

 古い式たりは、いつしか無くなるやろうか?

 



 私、ふと、カレンダーを見た。

 明日はお店休みやわ。

 孝典さんとデートや。

 待ち遠しいわ。

 ……孝典さんにも、式たりなんか聞いてみよっと!

 べっ、別に、深い意味はないざ。

 ただ、聞きたいだけやでの!

 「どないしたんや?」

 「何でもないんや。オカン、今日の万寿は美味いって」

 

                   

                  つづく

 


 

 



 

 

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