第12話
夕方 ご飯時
「ちょっと、少ないなぁ」
ばあちゃん、変な顔しとるって。
「本当や。餅は今回餅屋で買うらしいとは言え……」
オカンもため息まじりに、鮭のバター焼きを食べてるって。お惣菜コーナーの味付き、焼くだけオカズやけど。
「梅雨に万寿まき? 迷惑やな」
じいちゃんも、顔をしかめてるわ。
そや、まず「万寿まき」を説明しなあかんな。
万寿は饅頭のことや。
饅頭をまくんや……
簡単やろ。
え? そこはわかるってけ!
詳しく言えやってかぁ。
わかったわ。
まず結婚式の日、花嫁さんがクルマで、この場合花嫁衣装用のタクシーでくるんやけど……
ん? 花嫁衣装用のタクシーってなんやってか?
花嫁が文金高島田をつけて、白い婚礼花嫁衣装を付けて、嫁ぎ先に来るんや。
花嫁は衣装どころか、文金高島田……つまり、頭のあの飾りやな、あの飾りを外せないんやわ。
……っあ、この説明はここまでやよ。
この説明しとると、本題に入れなくなるで。
嫁ぎ先に来た花嫁は、新たな家に入るんやけどその時に沢山の人に顔見せせえなアカンのや。
理由は……その家の見栄や。
家にこんな嫁が来ましたよ!
皆さん、見てって下さいね!
そんな感じなんやろうな。
そして人が集まるやけど……
集まる人には、一つの楽しみがあるんやわ。
楽しみって、なんやと思う?
嫁の顔やないで!
万寿まき、コレが楽しみなんやわ。
その家の屋根から、まかれる万寿、餅、菓子、インスタントラーメン、これを拾いに集まるんやって。
まかれる万寿に、集まった人はみんな我先にと、それらを取り合い楽しむやわ。
そう楽しむやで、あくまでも。
「でも、こんな世の中でも、万寿まく家があるんかぁ」
沙織はご飯を口に運びながら、言うたわ。
「やらない家も結構あるな。世間の流れや景気なんかで辞める家も結構あるわな」
「あっても、規模を小さくする……今回の客みたいにや」
じいちゃん、オトンが言うたって。
……確かにや、今は大規模な万寿まきはないなぁ。規模が小さくなってきたって。
……え?
千五百個は少ないんか? って!
はい、少ないです。
餅とか菓子とかいくら用意するかはわからんが、全部合わせて約三千個が万寿まきの底辺……つまり、最低相場や。
今回の客は、その半分……良くても最低相場の七、八分くらいやろなぁ。
「とにかく、お客さんにはやる、言うたから材料の調達と用意をせなあかん。つまり、やるで!」
締めたのは、オカンやって。
いつも、美味しい所ばっかりや!
「しかし、なんで六月に嫁入りや?」
じいちゃんが頭傾げながら、お茶を飲んどるわ。
「ジューン・ブライドやって」
沙織が勝ち誇って言うとる。
「いや、そうでなくてな」
じいちゃんが笑てる。
「だから……」
「日本は六月は梅雨時期やど」
じいちゃんが、沙織を制すように言うたわ。
その言葉に、沙織以外はコクンと頷いた。
そう、梅雨の日本で、結婚式なんて訳わからんわ。
多分、ヨーロッパ辺りの真似なんかは知らんけど……特に福井ではやったらアカンなぁ。
さっき、万寿まき、屋根に登りまくとあったやろ、つまり足場が危険なんやって!
え? そんなに危険ならしないほうがいい。
……確かにやな。
だけど、やるんやな。
コレも見栄やろうか。
「少し、迷惑な結婚式やなぁ」
オカンのため息にもにた声が、食卓を包んだわ。
なんか、みんな変な表情をしとる夕飯時やったって。
「まあ、早苗、明日山下さんに行ってきてや、連絡と場所を知るためやでな」
ばあちゃんの言葉に、「わかったわ」そう答えて私はご飯を食べ終わったわ。
ご馳走さん。
さて、明日は山下のとかぁ。
クラスメートでも家は知らんわ。
まして、男やし……
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