第14話
休日 県立美術館
県立美術館入口に私は、孝典さんを待っているんや。
今年の六月は、梅雨入りが早い。
昨日は晴れていたけど、今日は梅雨の雨の空やって。
アスファルトに梅雨の雨が、リズム感よく音を打ち鳴らしてるって。
……約束の少し前の時間や。孝典さんはまだや。
何気に美術館入口の外を見とると、一台のクルマが美術館の横にある駐車場に入って行ったわ。
私の視界から、孝典さんを確認したって。
やったぁ。
でも……
運転はしとらんかったわ。
おそらく、居るんやろ。
総務の人がなあ。
本日の美術館は、福井の縁がある画家の作品がたくさん掲げられている、「福井と歴史の芸術の歩み」これがメイン開催やった。
とは言っても、なんやろ? 美術館と言うよりも歴史民族資料館に近いんやって。
なんか絵とか陶芸とか……
うーん、なんか可笑しな感覚やわ。
そんなメイン開催のブースに、私と孝典さんは並んで歩いているんや。
相変わらずの、ええ男やぁ。
惚れ惚れするわぁ。
だけど……孝典さん、肌寒いんか? 温かい春先の上着を着ているわ。
まあ、今年は梅雨入り早い影響で、肌寒い日は結構多いのは間違いんやけど……
「どうしたんや?」
孝典さんが話かけてきたって。
「えっ、えっ……」
私、少し困ってもたって。
「べっ、別に、なんか歴史民族資料館みたいやなあって、思ってしまってたんや」
美術館への素直な気持ちを、口にしたわ。
「本当やってな。もっと、絵画が見たかったってな」
孝典さん、苦笑いや。
この顔も様になっとるわ。
「あの女の人、あのままでええんかぁ」
私は、孝典さんに聞いたわ。
あの女の人……総務のあの人や。
孝典さんのクラスメートの、名前は忘れたけど。
「仕事や、構わんなや」
孝典さんはため息まじりに言うたわ。
……そやな、ゴメンやわ。
この美術館のブースは、幾つかに分かれているんやけど、メインブースの三番棟には、たくさんの壺や花瓶、そんなものが沢山置かれていたって。
このブースには、「越前焼」と書かれてあったわ。
つまり、焼き物のブースやわ。
このブースには、私と孝典さんしか見物人はおらんもう一人、係員みたいなお姉ちゃんが、出入り口辺りにある椅子に座っていたわ。
少し薄暗いブースに、どこか重々しい壺や、花瓶は何だかこちらも重くなってきたわ。
「孝典さん、どう思う?」
私は、聞いて見たんや。
「越前焼やね。それくらいしかわからんわ」
ボソッと、私に言うたわ。
確かにや、名前だけは凄いけど……
「越前焼、侮りすぎやね」
私と孝典さんの話に、割り込んで来る声がしたんや。
声は女の人とわかったんやけど……一体誰やろ?
私と孝典さんが、声の方向に振り向くとそこには出入り口に座っているはずのお姉ちゃんが、私達の間近に居たんやって!
いつの間にやこの人は!
「越前焼きは六古窯の一つなんですよ」
いきなり喋り始めたって。
「六古窯、日本の中期、つまり平安時代の終わり頃から現代にまで伝わる歴史ある窯で、歴史があるんやが。
因みに、後の五つは瀬戸焼、常滑焼、信楽焼、丹波焼、備前焼、やでね。その中に、なんと越前焼もあるがいね」
……お姉ちゃん、ランランと目が輝いてるって。
なんなんや……
「あっ、すいません。私、秋本と言います……近々、名字変わりますけど」
ん?
名字、変わる?
……まさか!
「ひょっとして、変わる名字、山下ですか?」
私、聞いたって。
「え! どうして、知ってるんですか?」
秋本さん、驚いてるわ。
まあ、当たり前やね。
「なるほど」
孝典さん、笑顔や。
材料は私が、メールの話題としてた話題が、こんな形で明らかになったからやな。
……プライバシー保護の立場から言うたら、私は犯罪や。
秋本さん、許してや。
「早苗ちゃん、キミの家のお客さんやね」
孝典さんが言うたわ。
「え?」
「私、桜井 早苗と言います。家が和菓子です。さくらい、ってお店なんです」
「あっ、だからですか」
秋本、納得してるわ。
「ここでの立ち話はなんやで……私もうすぐ、お昼休みですから、美術館のカフェで話せんがいね?」
秋本さんが提案したわ。
えっ、どうしょ。
私が困惑しとると、孝典さんが……
「俺も付いてきますが、いいけ?」と、言うたわ。
「構わんよ」
秋本さんは、笑顔で言うたわ。
……なんか、私をそっちのけで、話がまとまったみたいや。
うーん。
「早苗ちゃん、俺少し座りたいんや」
孝典さんが言うたって。
あっ、そうか。
だからなんか。
ゴメンの、孝典さん。
私、気がきかんの。
「わかりました、先に待ってるで、良かったら来てや」
私はそう言うと、孝典さんとブースを出たんや。
秋本さん、笑顔で送ってくれてるわ。
さて、カフェで一休みや。
ところで、秋本さんは隣の人やな。
つづく
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