第9話
午前中 店番
さて、どう出てこ?
変な外出は、よまれてまうし……
かと言って、堂々とは出れん。
連休中で、家には私を始め家族がみんな居るんやって。
うーん……
「早苗、ええか?」
オカンの声がする。
オカンが顔を見せると、手に袋を持っているわ。
「配達や! 頼むでな」
……チャーンスやわ
「わかったわ、配達行くわ!」
袋を持つと一直線にクルマに乗り込んだって。
それにしても、なんか海苔臭いお菓子やな。
まあ、はよ行くで!
「母さん、行きましたわ」
「ああ祥子、早苗行き先、聞かんとはなぁ」
「あの袋、大丈夫なん? ねーちゃん、どっかの店入ってまうかもやで!」
「まあ、そん時はそん時や。ただ、間違いなくそこまでは行っとらんて。外で喋ってるだけやろ」
「母さん、スマホに何しなはったん?」
「G……Sや」
「ばあちゃん、ハイカラやなぁ」
「便利な世の中や、男は店番として…… ワテのスマホで追跡開始やど!」
足羽川河川敷
クルマを降りると、昨日の場所を探してるわ。
埃っぽい暖かい風が、服に靡いてるわ。
いつもは、私服に「さくらい」の名前の入った白い法被(はっぴ)みたいなモンを着て、簡単な帯留めして、頭は髪の毛が落ちんように頭巾みたいなモンを憑けとるんやけど……
そう憑けとるんやど、漢字間違うとらんから。
今日は何故か私服のままや!
しもた、オカンらにどう言い訳しよ?
……その前に昨日、松浦さんに喋ってた時は法被に頭巾姿やったわ。
今になって恥ずかしなったって。
あっ、荷物…… クルマに、まっ、ええか。
時期的に腐るもんでないし……
その前に、どこに配達や?
しもたわ。
聞いとらんって。
「今日は私服やね」
少し向こうから、声がする。
こ、この声…… っあ、松浦さんや。
白いパーカー、デニム、スニーカー…… 決まり過ぎやって。
……あれ、何なんや?
変なんや、何が変なんなんか?
河川敷には何人かの人がいた。
河川敷には、何人かの人がいたんやけど……
昨日と同じ人が、また居たんやって。
別に同じ人が、いても不思議でないけど。
でも、なんで? すごい違和感があるざ。
「どうしたん?」
松浦さんが気付いたって。
「えっ、なんか…… なんやろ」
訳わからん解答してもたわ。
「……気にしないでな。仕事しとるんや」
「え!」
私、驚いたって。
松浦さん、私の雰囲気の違和感に気付いたようや。
松浦さん、あんた何モン?
「ごめんや」
松浦さんが、弱々しい笑顔を見せたわ。
……ええわぁ
違和感、そっちのけにしとこ。
しばらく、松浦さんと話をした。
いい天気やね。
それから始まったお喋りが、いつしかたくさんの話をしていたんや。
松浦さん聞き上手で、私が勝手に口をパクパクなんか言っとる。
天気のこと、私のこと、五月は良い季節と言ったこと…… それを、優しい笑顔で聞いてくれるんやって。
「俺のこと、聞きたいか?」
「はい」
私は返事をしたわ。
松浦さん、アナタを教えてや。
「……俺は、病人です。今は、治療のために入院してるんや。昨日、今日は外出許可が出たんや。天気が良いこと、暖かいこと…… それが理由やったんや」
風は相変わらず、吹いているわ。
埃っぽい風が、松浦さんの長髪を靡かせているわ。
私は風上にいるから、髪が肌に触れることはないわ。 ……とはいっても、風下にいても長髪が私の肌に触れることはないけどな。
つまり、私と松浦さんには、少しの距離があるんや。
正直、距離を詰めたいわ。
でも、嫌われるのがコワいし。
「俺のことは、あまり教えられんのや。ここではや」
松浦さん、そう言うと少しコクんと頷き、意味ありげな目で私を見てる、んか?
えっ、えっ?
「少しよって来てや……」
えっ? う、うそ!
「いいから、大丈夫や」
優しい目やぁ。
コレはいかないと!
襲われはしないやろし……
襲われても、ええやけど!
距離を詰めると…… 松浦さんの服から、無造作に折り畳まれた紙が手に握られてた。
その紙を私の手に、くれたんや。
ん? なんやろ……
開いてみよ。
……あっ! メールアドレスや!
「詳しくはこちらでや」
えっ、えっ、うそ!
こ、これって……
「騙されてんさじゃあないんか?」
へ? ……えええ!
「早苗、お待たせや!」
「ねーちゃん、誰その人」
「早苗、ええ男には注意やで、天秤に合わんざ」
ばあちゃん、沙織、オカン、なんでや?
「この人達は?」
「え、えーと!」
私がしどろもどろしとると……
「すみません! 私、早苗の母です」
「私は、妹の沙織」
「すみませんや、早苗のババですで」
三人が勝手に紹介したわ。
何なんや!
「あんた、早苗に危害加えたらアカンで!」
オカンが怒ってるわ。だけど、何を言うんや!
「オカン、失礼やで! なんで……」
「いや、早苗さんだったか? 危害はあるかもや。違和感の答えや。アコを見てみ」
松浦さんが言うた。
そしてアコを見て……
!!!
その先に堅物な中年男と、目を鋭くしとる若い女がいるんや。
カジュアルな服を着ている二人やけど、カップルには見えないって。
まして、遊んどる二人には全く見えへんわ。
「彼等は一応、僕の護衛です。会社の総務の人間で仕事してるんや。休みは明日からやろな」
松浦さんが、私らみんなに言うたわ。
「そろそろ帰るわ。さっきも言うたけど、入院してるんや」
そう言うと、スマホを取り出してまた電話をしとる。
「荒井、ゆーい、お疲れ様!帰るでな」
松浦さんが、護衛の二人に声をかける。
さほど大きな声をあげとる訳ではないけど、なんか辛そうやって。
声をかけられた二人が、こちらに近付いて来たわ。
「ボン!」
声をかけたのは、男や。
ボン?
ボンて……
松浦さん、かなりええとこの人かぁ。
「ノリ、少し体のことを考えんとあかんやろ!」
今度は女や。
……ノリ?
確か、松浦さんの下の名前は……
孝典やったはずやわ。
一応補足、漢字知っとんのは名前聞く前に、漢字読み聞いてたからやでね。
あん時はまどろっこしいから、スルーしたんやけど……
話戻すわの。
この女、どうしてそんな馴れ馴れしい呼び方や?それにさっき確か……
「ゆーいと俺は、中学、高校のクラスメートや。当時の呼び方を今し合ってるだけやでな」
そうなんか。
なんやって、余計な心配に……
待て待て、だからって今でもそんな呼び方をしていいんか?
なんかある! って思ても不思議やないやん。
「ボンから離れて下さい」
男が割って入るように来たわ。
「荒井、行くから心配なしや。スマンな」
「ノリ、クルマ来たって。河川敷上がろや」
「わかったわ」
三人が河川敷からあがろと、歩き始めた。松浦さんが私の近くを通った時……
「メール、待ってるでな」
耳元で囁いた……って!
私、いきなり顔が熱うなったやんか!
私、上の空で松浦さんを見送ってしもたって。
……
……
どうやら、行ってもたみたいや。
私は我に帰る。
ん?
オカン、ばあちゃん、沙織が変な顔しとる。
……そや!
「なんでここがわかったんや!」
私、ありったけの声を上げたわ。
「まあ、ご飯食べながら、教えちゃる」
ばあちゃんが言うたわ。
「ご飯? どっか食いに行くんか?」
「何言うとるんや、さっきの袋や。あれ、持ってこ!」
オカンが言うわ。
は?
「ねーちゃん、とにかく持ってきてや。なんなら、ついてこか?」
「そうやね沙織、ついてきねんや。そして早苗!」
ばあちゃん、指差しながら言わんと……
「紙、打ち込んでこ」
なっ!
ばあちゃん、みっとったんか!
「早よ、行け」
オカンがあしらうわ!
「……沙織、ついて来てや」
「うん、ねーちゃん」
つづく
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