第4話

午前中 配達 産業会館ビル


  

 駅前正面から大きな交差点二つ、私の住む町側の方向に、産業会館ビルがあるんや。

 産業会館ビル……県が経営するビルなんかなあ?やけに、堅苦しい呼び名やわ。

 雑居ビルではあかんのか?

 そのビルに今日は、用事や。

 このビルに、菓子の配達やって。

 そして、都会人にあって、希望の菓子についてのヒント貰わんと!



 相も変わらず、難しい駐車場やってるなぁ。

 やっとこせやわ。

 さて、これは六階か。

 エレベーターに乗って……

 「あっ、おはようございます」

 ん? 誰やろ。 

 あっ、昨日のお客さん!

 「それは?」

 「あっ、他のお客さんのやよ」

 「なるほど、私の方は……」

 「そのことで、少し教えて下さい」

 私は正直に言うたって。

 嘘はつけんやんけ!

 「……わかりました、では来られる際は電話下さい。名刺、お渡しします」

 名刺もろたあ……和田 忠 さんですか!

 ええ名前やあ。

 肩書きは……○○商事、福井流通部門管理課長さんか。

 ……結構な肩書きやなぁ。

 「では、また後で!」

 そういうと、和田さんエレベーターを降りたわ。

 さてと、配達配達!




 配達を終わると、スマホで和田さんとのコンタクトを取ったんや。

 いま、近くのカフェに居るわ。

 変わったカフェで、地下に店があるんやわ。

 地下を降りて行くと、なんやら凄い石像モドキがあって、店の中は中世ヨーロッパ風らしいんやけど、なんやろなあ……

 変な趣味やって。



 今、二人掛けテーブル席に私と和田さんは、向き合っていんや。

 「お仕事いいんけ?」

 「いいんけ?」

 「お仕事大丈夫ですか抜け出して?」

 わかるように、私は言い直したって。

 「はい、大丈夫です。少しくらいなら」

 コーヒーを飲みながら、和田さん言うた。

 「ここのコーヒー、好きなんですよ」

 よう考えたら私、男と二人きりやわ。

 少し心臓バグってるて!

 なかなか、ええ男やし!

 左薬指の指輪さえなかったら……はあ

 「どうしました?」

 「あっ、大丈夫なんけ?」

 「え? 何がなんけ? ですか?」

 和田さん頭を捻る。

 ここはハッキリと!

 「男と女、二人きりやって」

 「なるほど、大丈夫です。そんな気ありませんし」

 真顔で笑顔、オマケに目笑っとらんわ。

 ホッとしたんやけど……女の魅力はないんか? わたし!

 「さて、本題に入りましょう」

 和田さんが言うた。

 あっ、そやった。

 本題に入らんと!

 「えー、どのような印象ですか? 福井は! その印象でお菓子を決めてみたいんで」

 私は和田さんに、聞いてみたんや。

 「福井ですか……正直、人間はめんどくさがりで、盛り上がりに欠ける所があります。なんだか、楽しまないと言うか?」

 和田さんハッキリ言い切ったわ。

 私も福井人なんやけど、私にはズバズバ言う感じやなぁ。

 私、言いやすいんか?

 「なんだか、冷めた人たちに見えまして……」

 冷めた感じかあ。

 当たってるわ。

 福井人はどこか冷めてるわ。

 変な反骨心があるんやってな。

 もちろん、私もあるわ。  

 知っていながら、どうにもならんのやわ。

 福井人は自分勝手なんかなぁ。

 「正直、福井の人は、封建的です」

 「そうけ。まあ、誉め言葉やね」

 私は、ズゲズゲ言ったった。

 いいやろ?封建的なんも!

 「誉め言葉ですか?」

 「はい、都会の和田さんにはわからんでしょうが、封建的な社会もありやと思います。だって今は、物騒ですやろ?」

 「都会、都会って言ってますが、私は下町の生まれで下町の育ちです。江戸っ子なんですよ」

 和田さんは、どこか嬉しそうに言ってるなぁ。

 下町ですか……

 「下町って、田舎とどうちゃうん?」

 私は、言ったわ。

 「えっ、下町は田舎です」

 「周りに、田んぼあるますか? 人は、少ないかぁ?」

 「田んぼがないと行けませんか?」

 和田さん、少し声のトーン変わったわ。

 どうやら、同じことを言われたんかもなぁ。

 「これは、会社のみんなにも言いました。田んぼがないと田舎とならないのか? って」

 「はい、そうです……これが、答えやろ! みんなの」

 私は、言うたわ。

 「……はい」

 和田さん、声が小くなった。

 和田さんの田舎は、福井では通用せんわ。

 下町は観光地や、それで稼げるやろ。

 本当の田舎って、そんな文化があっても認めてくれん場所なんやって!

 一応、福井はかなりの歴史がある。  

 歴史に関しては、都会にも負けんのや。 

 それでも、日の目を見んのや。

 少し、嫉妬心があるんかもやなぁ。

 「和田さん、福井の歴史とか知ってますか?」

 「いいえ、あまり知りません」

 目を反らして言ったって。

 なんだか、知りたくない! そんな感じやぁ。

 しかし、これだけはわかった。

 「和田さん、福井は嫌いやね。正直、二度と足は運ばんやろ」

 私は、素直に聞いた。

 「はい、どこか受け入れてくれませんから」

 和田さんは、ため息をつきながら言ったわ。

 カップのコーヒーは、飲み干されてるわ。

 カップの底が、コーヒーのシミが付いているなあ。

 時間はかなりたっとるわ!

 正直、ヒントはないなあ。

 「そう言えば、もうすぐ桜です。私は、桜餅が大好物なんですよ」

 ふと、和田さんが言うわぁ。

 何なんやっていきなり!

 いきなり、桜餅なんて……ん?

 まてよ……

 「和田さん、桜餅は福井では食べたことありますか?」

 「福井でですか? ありませんよ。福井に桜餅なんてないですし……」

 和田さん、少し失礼やって!

 しかし、これで和田さんの菓子は決まったわ。

 この菓子で、和田さんと、仕事場の人達の間に割り込んだるんや。職場のこと、そして和田さんのことをや。

 「和田さん、失礼しますわ。いい菓子を送れそうな案が浮かびました」

 「本当ですか!」

 「はい、任せて下さいや」

 私はそう言うと、明細書を取り上げたんや。

 「お金は……」

 「いえ、私出すって」

 福井人はワリカンなんてセコいことを嫌うし、何よりも奢りグセがあるやってな。

 全員がそうではないけど、ほとんどの福井人はお金には寛大やでなぁ。

 「……お願いします。私に払わせて下さい」

 「……ダメや、結構菓子買うてくれるお客さんに、金だして貰おうなんてプライドが許さんよって!」

 「何ですかそれ?」

 和田さん、変な顔しとるわ。




 結局、ワリカンになったわ。

 やけに律儀な人やわ。

 別に、こっちが払っても、いちゃもんはつけんのやけど……

 さて、家の職人達に相談やって!

 和田さんの菓子についてや。

 和田さんの菓子は、コレに決まりやって。

 季節もぴったりやん。

 よし、そうとなれば、ばあちゃんとオカンに話をつけるって!

 よし、帰るかぁ。 

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