第5話

 午後 おやつタイム



 今日のおやつも、桜餅やって。

 続くなあ。

 「早苗、どうやったん」

 「相手、結婚してたわ」

 オカンに言うたった。

 絶対絡めてくるから、あん人は!

 「残念やなあ」

 ため息をついてるなぁ。

 「……で、お客さんの求めるお菓子わかったんか?」 

 ばあちゃんが、仕切るように言うたわ。

 「実はな、あの人、下町らしいんやって」

 「下町?浅草とかか?」

 「まあ、そやろな。っで、私は田舎の人間です!やって」

 桜餅を一口で食べながら、私は言うたって。

 家の桜餅は、一口サイズなんやって!大口ちゃうで!

 「大きな口やなぁ。さすが、早苗や!」

 オカンのツッコミを私は無視しながら、ばあちゃんに言うた。

 「実はばあちゃん、私少し和田さんにハッキリ言うたんやわ」

 「和田さん?」

 ばあちゃんは首を傾げてる。

 私、名刺を見せた。

 「へえー、こんな人なんかあ」

 「無視しいなや!」

 無視しいなや!は、無視するな!って意味や。

 もちろん、オカンや。

 「とにかく、和田さんのお菓子やけど……や!これでいこうと思うんや」

 「別々なあれを作るんか?」

 オカンが聞いてきたわ。

 「それを作ることで、なんかがお客さんに生まれ、なんかを感じれそうなんか?」

 ばあちゃんは、言うたわ。

 「和田さんが悪いか、他が悪いか、そんなんわからん。他の……同じ地元の意見は聞いてないからや。だけど、コレを和田さんに渡したいんやわ」

 正直言えば、コレが正確かはわからないんやって。

 だけど、季節物でもあり、福井にはない!と言い切った和田さんにあることを、違いを知ってもらうことが重要やと思うし、思たんや!

 さて、家の職人達の解答は……

 「母さん、もしコレ造るなら鉄板も必要や」

 「そうやな……よし、祥子、やってみようと私は思うわ」

 「わかりました。早苗、やるわ!時間もある。今から道具を出すで、手を貸しや!」

 よっしゃ、決まったって!

 「ただいまや!」

 沙織の声や、グットタイミングやって。

 店番頼んどこっと!



 夕方 餡職人!餡造登場……私は……



 さて、時間は夕方や。

 家族の性格なんか、決めたことにはばく進するんやって。

 まあ、明日は定休日で、仕事を持ち越したくないってのもあるし……

 「せっかくさっき洗たんに!これら使ったらまた洗わんと!」

 オカンのボヤキや。

 さっきは、やる言うたんにボヤキよるわ。

 ……とは言っても、気持ちわかるけどな。

 今、家の職人は静かにしとるわ。

 和菓子は餡

あんこ

が命や!

 その餡を練り上げるプロが実は家には、いるんやって!

 その名も、餡造さん!

 スイッチ一つ入れるだけで、文句一つ言わず仕事をしてくれる職人の鑑や。

 つまり、餡造さんは機械や。

 弱点は一つ、自分で風呂に入れん。

 つまり、お疲れ様になったら、一つ一つのパーツを洗ったらんとアカンのや。

 だから、オカンは嫌がるんやって。

 「……早苗、洗わせて貰える伴侶はおらんのかぁ?」

 ニタニタとした顔で、オカン言うなやもう!

 イヤらしいわ!

 ……おらへんし。

 「つまらん事言っとらんと、制服着てきいな」

 ばあちゃんは、白い羽咋にマスクと髪の毛を隠す帽子、手には業務用の薄いゴム手をして登場してきたわ。

 そう言われると、私はいつもの格好や。

 どうやら、今回はここまでや。

 「母さん、今から着替えて来ますで」

 オカンは身支度をしに、一度作業場を跡にしたわ。

 「早苗、お前にはまだここは任せられん!そろそろ、出てってや」

 「ばあちゃん、私、お菓子作りたい!」

 直談判や。

 「まだダメや、今回はワテと祥子と餡造さんに任せときや!早苗、必ずお前の腕も必要になる。しかし今はそん時でないわ。慌てない!」

 ……また、ばあちゃんに宥められた。

 私、アカンのかな?

 「早苗」

 声の方向を向くと、そこには準備万端なオカンがいた。

 「早苗、その気持ち!嬉しいよって……アンタもさくらいの娘や!」

 オカンが私の目を見て言ったわ。

 いつも茶化すオカンの目でないんや。

 私は、何も言わず作業場を出た。

 作業場をピシャリと閉められた……消毒をしてからお菓子作りに入り始めたわ。

 餡造さんの唸り声が聞こえきたんや。

 それが、全てなんやで。




 夕飯 



 ご飯はいつも通りの、惣菜や。

 今日は、刺身みたいや。

 じいちゃん、オトン、沙織が食べとるわ。

 だけどどこか不味そうにしとる。

 震源地は、私や。

 みんな、牽制しながら、無言で箸が動いとる。

 「ごちそうさまや」

 私は、夕飯を食べ終る。

 ううん、食べ終わらしたんや。

 私の雰囲気で、箸が進まんのはダメやで。

 元凶は去らにゃ行かんのやって。

 「早苗、わかるで」

 オトンが切り出した。

 味噌汁にご飯を入れながら、口にかき込んどる。

 「ウラも、悔しくてどうにもならん時がある。早苗、お前腐るなよ!堪忍してな、こんな事しか言えんで……」

 オトン、再び飯をかっこんどるわ。

 ……ありがと。

 私、腐らんでの!




 作業場廊下前



 私は膝を抱えて、待っているんや。

 夕飯はばあちゃん、オカン以外は済んでる。

 洗い物も済ませたわ。

 後は作業場次第や。

 「……」

 私の横には、沙織が何故かいるんや。

 私と同じく、膝を抱えて座ってる。

 夜の廊下は、正直寒いって。

 沙織が手にハーッと、息をかけてこすってるわ。

 「沙織、勉強せな!」

 「今、春休みや」

 「部屋帰りなって」

 「……」

 沙織は無言で、俯いてるんやわ。

 沙織、アンタがいようがいまいが……やめた、それなら私も同じやん。

 沙織、バカ!

 私、自分に情けないわ。

 私って情けないんや、一番下の妹まで巻き込んでる。

 頼んだ覚えはない。

 勝手に巻き込まれたんや。

 いい子や。

 昨日のやんちゃな姿と今の姿どちらがアンタかは知らん!

 だけど沙織、ありがとは言わんざ。

 お節介……

 ん?

 作業場の機械の音、止まったって!

 私は、とっさに作業場の扉に視線がいく。

 ……なぜか沙織も目かいってるで。

 しばらく沈黙が続き、いきなり扉か開いたんや!

 「お待たせや」

 オカンが作業服で身を固める中、私に声をかけてきたわ。

 目しか見えんけど、優しい目や。

 「早苗、これで勝負や!和田さんに持ってたり」

 ばあちゃんも完全武装しとるけど、目が笑ってるわ。

 「……うん、ありがとや」

 「……」

 沙織も笑って、静かに見とるって。

 「あははは、相変わらずの姉妹やって!」

 「祥子、アンタの子やろ?」

 「まあ、そうですけど」

 ばあちゃん、オカン、ありがとや。

 沙織は私の顔見たら、いつしか二階に上がってたわ。

 沙織……

 「早苗、後で味見や。二種類の出来映えをや!」

 ばあちゃん、食べるまでもないわ!

 美味しいに決まっるわ。

 よし、明日はこれを和田さんに渡すわの。

 ばあちゃん、オカン、餡造さん、ありがとや!


               


                  

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