第2話

 第一話 置き土産……地雷を踏み抜いた都会人



 配達から帰った私は、店番中なんやわ。

 正直、暇やって。

 さくらいの店中は、そう大きくないんや。

 ガラスケースに箱菓子の見本と、自家製菓子、ガラスケースの上は生菓子を並べている。

 少し前はガラスケースの上、ビスケットやってん。

 え?どうしてビスケット!

 ホワイトデーやって!

 和菓子屋さんのビスケットって、売りにだしたんやわ。

 イマイチやったけど……

 そして、今、ガラスケースの上にあるのは!




 「早苗、お茶や。少しこれ味見してくれんか?」

 ばあちゃんの声がする。

 そんな時間だったんか?

 「はよこい、お前の太鼓腹がなくなってまうって!」

 オカン!失礼言うな。

 こう見えても、ボン、それなり、ボンやって!

 ……さて、おやつの時間やな。




 餅粉と白玉、それを染色し桜色に色付けして、桜の葉で巻いた……桜餅!

 表の登りで来たかもと予想してたけど、来たなあ。

 今のガラスケースの上にある季節限定品やって!

 季節は春や。

 「しばらく、これやでな」

 ばあちゃんが、カレンダーを指差す。

 ……そうなんか?


 丸い卓袱台に、オカンとばあちゃんが座っとる。

 別名、お試し会って言うんや。 

 食卓は別にあるんやざ。  

 椅子に座って、福井のコシヒカリ食べるんやって!

 知っとるか?

 コシヒカリの発祥は福井やってな!

 ここ大事や!

 間違っても……そともんは、一発で村八分にされるんや。

 これ、気い付けて!



 「早苗、早よ座んね。桜餅、食われんやろ!」

 はいはい、オカンっと!

 「早苗、座りました。では、いただきます!」

 手合わせて、桜餅を一口で口の中へ!

 「はしたないって!」

 呆れ顔のオカンをよそ目に、もぐもぐ……うーん、塩味の後に甘さ控えめの餡が追いかけてくるわ。そして最後に桜の風味が絞めてくれとるって!

 葉っぱも柔らかく、塩漬けされとって粒のしっかりした餅粉もええんやって!

 ハアー、腑抜けてまうわぁ。

 ずずず……あーお茶、美味しい。

 「全五郎かあ、このお茶」

 「そや、全五郎で買うたんや」

 ばあちゃんが言う。

 「ネットでや!」

 ばあちゃん、笑いながら言いおるんやって。

 ばあちゃん、ハイカラやあ……私、あんま使えんから尊敬やわ。

 「全五郎、駅前に行けば売ってますやん」

 オカンが言うわ。

 「オカン!知らんの」

 「祥子!駅前の全五郎、閉店したの知らんのか?」

 私とばあちゃん、オカンを見るんやわ。

 だって、素っ頓狂なこと言うんやし、もう潰れて二、三年経っとるって。

 「あっ、そうやった。確か、オーナーと揉めて撤退したんや」

 オカンが苦笑いをする。

 「……早苗、早よ婿貰いや! 祥子の介護を……」

 「お母さん! 大丈夫ですから、でも早苗、早よええ人見つけなあかんざ!」

 オカン、話すり替えたって!



 「すみません、ごめんくださーい」

 ん?お客さん!

 「はい、早苗、行ってこいや」

 「早苗、しっかり売りつけてや」

 二人、いきなり組むなって。

 はいはい、行きますよ!



 「はーい、いらっしゃいませ」

 店に出ると、あらええ男やぁ。

 メガネをかけた背の伸びた、誠実そうやなあ。

 スーツ姿がヤケに似合ってるんやって!

 ええわぁ。

 「あっ、あの」

 「え? どうかしましたかぁ」

 「いえ、私の顔に何かついてるのかと」

 お客さんは、タジタジになって言うる。

 あっ、やってもた。

 もの珍しい顔になっとったかもぉ。

 「すみません、気ぃ、悪せんといてや」

 ここは笑顔やって。

 「いえ、すみません! 可愛い笑顔ですよ」

 お客さん、言ってくれる。

 キャー、嬉しいって!

 …………話を少し変えるわ。

 「お客さん、福井の人ですかぁ?」

 「いえ、実は東京から単身赴任してまして……」

 お客さん、そう言うと頭を掻いてるわぁ。

 まあ、やっぱりや。

 しゃべり方、ちゃうんやって!

 なんだか……なんやろ?

 うーん、もどろいんやって。

 「今日は、お菓子を貰いに来ましたんですが……」

 そこまで言うと、しどろもどろし始めたざ。

 「実は私、昨年の今頃に東京本社から出向して来ました。仕事の関係で、地方周りもするんです」

 へえ、出向かあ。

 大変やあ。

 金沢迄やけど新幹線はあるとは言え、東京から福井は辺境に近いからなあ。

 関西は結構有名らしいけど、東京は本当に未知な地域やでなぁ。 

 「ここに来て、しばらくしたら、歓迎会をしてくれたんですが……実は大失敗しまして」

 「大失敗ですかぁ?」

 「福井の食べ物、お酒、全ておいしかったんです。私が、そのことを褒めるとみんな素っ気ない顔で

『そうなの』て、言うんです。どこか、受けが良くなくて……」

 お客さん、その気持ちわかるわの。 

 福井の人の特徴やって、大袈裟に褒めても冷めてる対応はまず皆、困るんやっての。

 でも、コレだけでないような気がするなぁ。

 「この話、続きありますか?」

 私、ズゲズゲいたるわぁ。

 「はい、実はその後に、〆のおにぎりが来ました。コシヒカリとあり福井産と書いてありました」

 「はい、もうわかるわぁ。お客さん、大変でした!」

 私、話を切ったんやって。

 ほとんどの福井人ならわかるからや。

 「……やっぱりですか?」

 「はい、逆鱗に触れますわぁ。コシヒカリでしょう」

 「はい、発祥本場新潟の味とあまり変わりませね……そう言った矢先、お開きになりました」

 あちゃー、地雷踏み抜いたって!

 福井人は他の食いもんには、美味いとわれたら疑いをかけるんや。けど、かけるだけで、別にあんま深く考えんのや……考えのやけど、コシヒカリの産地となると目の色変わるんやって!

 それもこのお客さん、発祥って、核爆弾級の地雷まで付けてるわ。

 コレは一発、アウトやわ。

 コシヒカリは福井が発祥、これは間違いないんや!

 そして、福井人はコシヒカリの本場も福井と信じてるんやって!

 このお客さん……どんな一年やったかわかるわぁ。

 「……はあ」

 大きな溜め息をついたって。

 「置き土産の菓子、いいの見繕ってくれませんか?」

 「はい?」

 いきなりの、注文にびびってもたやん。

 「いい、置き土産を見繕って下さい。最後くらいは洒落たことしろと……」

 「それ、脅されてますよ!」

 「いいえ、お返ししたいんですよ。正直、ギクシャクしてましたが福井の人は良く働きますから。こちらが、残業言わなくても残ってやってました。その所は嬉しかった。会社の仕事は、定時で切り上げることはほとんど出来ませんでした」

 お客さん、真顔で褒めてくれたって。

 聞いたことあるわ、福井人は長く働くの。

 なんか、取り憑かれたように働くらしいんやっての。

 私はようわからんかったけど、間違いないようやわぁ。

 「最後は、上手く〆たいんです。いい、菓子を見繕って下さい。納品は三日後、数は百個で予算はこれくらいで……」

 「……わかりました。家の職人と話して見ます。連絡先を教えてやぁ」





 都会のお客さん、言ったわ。

 ……さて、困る宿題やっての。

 上手く〆たい菓子か……

 まずは……相談せいなあかんやろな。

 さて……どうするんや?わたし!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る