はい、お菓子やざ
クレヨン
第1話プロローグ
私の住む町
福井県福井市、県庁所在地、戦国時代には朝倉氏がこの地を治め、江戸時代には松平家が治めた歴史のある町……
うーん、歴史はあるのだけれど、華のない町なのよ。
福井市の特徴は、方言に騙されやすいらしい。
独特のアクセントからは想像がつかないくらい、狡賢いとのこと。
本当かどうか?
まあ、前置きはここで、止めよう。
ふうー
さて……本編にはいるでの……方言堪忍しての。
私、こう見えても、この町で生まれ育ったんやでのぉ。
疲れたら、ごめんやざ。
あっ、挨拶おくれてごめんのぅ。
私、桜井 早苗 と言います。
えーとぉ……よろしくお願いします。
挨拶って難しいって!
今、私は店の軽ワゴンで、配達の途中やったんや。
何の?
まあ、後で教えたるって。
福井市久喜町、駅前から微妙に離れた場所があるんやって。
その場所は方角で言うと、福井駅前から北西辺り大きな道路がほぼ一直線に続くんや。
その一直線の道を、道なりにクルマで走り信号機に捕まらないとして、十分くらいやろか? うーん、ごめんの、確認しとらんわ! 十分としといて、そこで信号機のある三俣に分かれる道に出くわすんやって。
三つに分かれる道、正面からみて左側に行くと、九十九橋がある、なかなか立派な橋なんやけど……今回この橋全く関係ないんやった。
本命は正面の道や、ここの信号機を境に小さな道になるんや。
その道を目指して走ると、桜並木が見えてくるんや。
そういや、今は三月終わりや、そろそろ桜が芽吹き始める。
この通りの桜、知る人ぞ知る桜の名所なんや。
枝が車道まで伸びるように咲いとる。
それが、いくつもいくつもあるんやわ。
その道を道なりに行くと、また信号機に出くわすやけど……その信号機を右に曲がると、スーパーマーケットがあり空き地があり、民家があり、その民家の横に古い木造の建物があるんや。
まあ、半世紀は時間を刻んでるやろか?
この木造、看板があっての名前が、「さくらい」って書いたるんや。
そして、のぼりが恥ずかしそうに玄関横にある。
のぼりは、ピンク色をしているわ。
内容は……「さくらもち」とだけ書いてあるのう。そして、その下に「さくらもち」の絵があるんやけどおー……
もうわかった?
私、和菓子屋「さくらい」の娘なんやって!
改めて、私の紹介します。
私は、桜井 早苗 です。
今年二十四歳になるんや。
仕事は、家の菓子のレジ兼配達なんやって!
まあ、金沢で和菓子の学校に行っとったで、作れることはつくれるんやけど……
さて、車を駐車場にいれるわ。
ちょっと、待っといて。
民家、さくらい、その向こう側に駐車場があるやけど、店に近い手前のは業務用として、軽ワゴンを置かしてもろとんや。
駐車場は全部で四台まで停められる。
よほど大きいクルマ以外なら、すんなり入るんやわ。
余談やけど、ここは私が小学校の頃は民家やってん。
だけど……時代の流れか、ここのおばちゃん、息子頼って県外出てったんや。
その空き家をたて壊し、駐車場にしたんはじいちゃんらしいんや。
私はクルマを置くと、駐車場の入り口から、町を見渡す。
……寂しい。
なんや?
また、寂れたみたいや。
福井は寂しい町なんや。
地味で味気ないんや。
学生んと気は、いつかこんな町出て行ったるわ。
何回、考えたかわからん。
でも、結局はここにいるんやってなぁ。
「早苗、おかえり! お店お願いや」
オカンの低い声がするわ。
紹介するの。
桜井 祥子 年齢不詳……オカン怒るんやって!
ちょっと太目、見た目……ちつてと! なにが抜けてるかわかるぅ? ポンポコ!
朝は菓子を作ってる。
店にも立つけど、まあ少しだけやな。
「ハイハイ、さいなら」
私が覇気ナシに言うと、「今年も取ってくれんざ」と意味ありげな無しげな……
べーだ!
「よう、おかえりぃ」
家の中から、顔を見せたのじいちゃんや。
次はじいちゃんの紹介するでの。
桜井 喜一郎 確か七十五歳
元福井市役所、生活活性課やったけ? 訳わからん取って付けた所にいたんや。
えっ、菓子作らんのか?
うん、菓子作れんのや!
「早苗、じいちゃん、今から少し出るわ。夜は食わんでな」
「どこ行くんや?」
私の問に家の中から「市役所のOB会兼、酒飲みらしいざ」と出て来るばあちゃんがいる。
三人目の紹介すっざ!
桜井 香奈 年齢不詳……一応保険
香奈……婆ちゃんの世代にしては、綺羅ネーム?
ようわからんけど。
さくらいの菓子職人、菓子はばあ
ちゃんも作るんや。
「ええやろ、香奈! また、聞いて来るで」
「はいはい、お願いや!」
じいちゃん、ばあちゃんにタジタジや。
まあ、仕方ないんやけど、養子さんやで。
後は……今の時間はこれくらいやな。
また、後で紹介や。
「ごめんくださーい」
あっ、お客さんやって!
「いらっしゃい」
もうすぐ、桜の季節や、あったかくなるわ。
また、今日も頑張って行こうの!
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