◆第十一章-竜のごとき-
*刺す瞳
──その夜
集落の広場で炎を囲み、これからの事を話し合った。
「あれから予言は」
「だめじゃ。まったく見えぬ」
シレアの問いかけにユラウスは首を振る。
「これは厄介ですね」
アレサは小さく唸って腕組みをした。
「新しい仲間が見えないっていうのは、あたしが最後の仲間だったってこと? もしそうだとしても、他に何も見えないっていうのが解らないわ」
仲間で唯一の女性であるモルシャが、女性らしい仕草で溜息を漏らす。見た目が見た目であるため、色気があるのかはここにいる一同には解らない。
遺物を見つけ出すうえで古代の知識はかかせない。彼女も類に漏れず、高い知識を持っているようだ。
遺跡を調べるその延長線上に、必ず古の民が顔を出す。それほどにロデュウは古く、気高い種族だった。
「シレアのことが見える前に、なにか見えていたのですか?」
「もちろんじゃ。わしの体が炎に焼かれる様子がな」
あまり見たくない光景だなとモルシャは顔をしかめた。まずそれを初めに見たのならば、シレアの旅を止めようとしたのも頷ける。
「奴らが力をつけるために今まで隠れてたっていうのは解るとして、どうしてシレアが
「シレアの出生が関係しているのかもしれんの」
「どういうこと?」
「そうか、おぬしは知らぬのじゃったな」
「なによ」
意味深に口を開いたユラウスをいぶかしげに眺めた。
「いいか、今から話す事をしっかりと聞き入れるのじゃ」
念を押すように、ゆっくりと語り始める──
「シレアが!?」
ユラウスの説明に、モルシャは目をぎょろつかせてシレアを見つめた。
「うっそ、ぜんぜん分かんない」
シレアの周りを興味津々でぐるりと回る。
「これこれ」
率直な反応に、一同は苦笑いを浮かべた。シレアもこの件には吹っ切れたのか割り切ったのか、いつものように堂々と無表情にモルシャを見下ろしている。
「つまり、シレアの~で、敵が警戒してるかもってこと?」
言葉を濁して応えたが、シレアの存在をどう言えばいいのか考えあぐねた結果のものだ。
「シレアの旅を阻止してきているのだ、警戒どころではなかろう」
「それはそうと。本当に、先は見えないのですか」
アレサの言葉にユラウスは、「うぐっ!?」と声を詰まらせる。
「見えとったら言うとるわい」
隠す必要なんかあるわけないじゃろうがとすねて見せた。
「相手の出方を待つしかなさそうですね」
「いい加減、後手に回るのは喜ばしくないが仕方がない」
[奴らは、そなたらの結束を乱そうとしているのだよ]
のそりとヴァラオムが割って入った。
[空は重々しく闇を創っておる]
それに呼応するように、人々は心の暗い部分を引きずり出される。各々が持つ、ひび割れた心とささくれた感情は闇によって膨れあがり、争いが生み出される。
[そうなれば、敵はさらに優位となるであろう]
「最も数が多い人間の心を利用しておるのか」
「人間は欲望に弱く脆い」
「でも、こんなに沢山、増えたのは凄いと思う」
「そうね。欲望が大きな力になっているのは確かだわ」
[それを利用することこそが問題なのだ]
「うむ。そのとおりじゃ」
みんなの会話を聞きながら、シレアは険しい表情を浮かべていた。
赤く煮えたぎる鉄のような熱さと、北の大地のような極寒を併せ持つ怪異な視線が、どこからともなくシレアだけに注がれていた。
この視線は間違うはずもなく、闇の中で輝いていたカデット・ブルーの瞳のものだ。常に感じてきた視線はあれ以来、より強くシレアを見つめるようになっていた。
それが、憎しみや怒りだけではない、何かをも有しているように感じられてどうにも居心地が悪い。
何故こうも自分に執着しているのか。何がそうさせているのだろうか。
やはりあのとき、マイナイにしっかりと聞いておくべきだった。そうは考えても、何を問えばよかったのか、それが解らなかったのだ。
生まれた理由も、その方法も聞いてしまったあとに、他に何を質問すればよかったというのか。
敵が執拗に攻撃を仕掛けてくる理由が解らない時点では、質問の内容すら決めかねる。
「奴はこの世界の支配と言っていましたね。それにはまず、何から始めるでしょう」
アレサの言葉に、ユラウスは顔をしかめて唸った。
[シレア。おぬしならどうする]
それに皆はシレアを見つめた。この中心にいるのは、紛れもなく彼なのだ。
「まず配下を増やし、敵対するであろう種族の住む場所を少しずつ外側から攻めていく」
それぞれが同じような考えだったようで、シレアの言葉に小さく頷いた。
「アレサの集落を襲ったゴブリン共はどう見る」
「配下の動きを試したのではないだろうか」
「ふむ」
シレアの答えにユラウスは納得の声を上げる。
イヴィルモンスターをどれだけ支配し、従えることが出来るのか。それらは重要な事柄だ。
「いくらイヴィルが御しやすいとはいえ、多ければそれだけの力が必要じゃからな」
世界を掌握するための戦力を、上手く使えなければ意味がない。
「その中で、より強きリーダー格を支配出来れば、あとは鈴なりでしょう」
「そんなもんなの?」
「邪悪という存在は得てして単純なことが多い」
「そうね、確かにあいつらはバカよ」
「そうなの?」
小首をかしげるヤオーツェにマノサクスは、
「強い者には従う。それがあいつらだし、絶望とか希望とか、そういうのが無いから支配はしやすいんじゃないかな」
「ふうん」
「その代わり、すぐ裏切るのが奴らでもある」
「互いに干渉しない生き方すら奴らは認めず、他者を滅することにのみ思考を働かせている」
「根本的に共存や棲み分けが出来ないって難よね。熊や狼だって出来るのに」
[話が若干、逸れてきているように思うのだが]
眉を寄せたヴァラオムに一同は肩をすくめた。
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