第11話 ハイウェイモンスター
3人の怪人を前にヒーローは臆することなく、真っ直ぐに歩いてくる。
「こっちは1人、お前らは3人。数じゃ圧倒的にお前らが有利だ」
怪人たちは隙をうかがうようにじっと近づいてくるヒーローを凝視していた。それでも、そのヒーローは話を続けた。
「だがしかぁし!お前らはゴミではない、ガラクタだ。今この場の空気を作っているのが誰だか、お前たちは知っている。だから簡単には動けない。首元に縄がかかったような気分だろう。この俺に会っちまったのが運の尽き―――」
ヒーローの話に割り込むように怪人たちは張り詰めていた弓を引くように、一気にヒーロー目がけて走り出した。
また、それを支援するべく1つ、2つと光の弾丸がヒーローの背中から飛んできた。正面には3人の怪人、後ろからは光の弾丸。一見、詰んだかのような状況。
しかし、かのヒーローはマスクの奥で、ニヤリと笑っていた。それは怪人たちには見えず、一瞬とも言える出来事、回避不可能の攻撃にヒーローは。
潰された。
光が身体を貫き、象のような怪人の剛腕で地面に叩きつけられ、灰色の怪人の手刀で首や胴を切られ、絶命した。
道路へ叩きつけられた衝撃が振動となり、音となり、土煙を上げ、攻撃のすさまじさを感じさせた。
周囲には再び静寂が戻り、怪人たちは緊張が途切れたように、深く息を吐いていく。
それまで離れたビルの屋上にいた大和も合流し、やがて彼らはトラックの貨物扉を開けようと近づいた。
その時だった。
怪人たちは地面へと倒れた。そして、自分たちの首に何か異変を感じた。
急に呼吸が出来なくなったのだ。まるで縄で絞められているかのように、首を締めあげられているのだ。
「な・・・んだ、こ、れ!?」
「なに、が・・・どう、な・・・って!」
明らかに、誰かの攻撃を受けている。そう考えた灰色の怪人は辺りを見回した。そして、信じられないものを彼は見た。
それは死んだはずのあのヒーローが何事も無かったかのように立っていたのだ。
しかも、先程の攻撃の傷が一切見当たらなかった。ヒーローは無傷だった。いや、本当に目の前のヒーローが倒したはずのヒーローと同じヒーローなのか、見た目が似ているだけの別の人間なのか。それとも新手のヒーローに何らかの幻術のようなものをかけられているのか。
消えていく意識の中、ゆっくりと眼前のヒーローが近づいてくるのが見え、やがて考えることもできず、怪人たちは完全に沈黙した。
緑色の光がヒーロースーツの所々から漏れ出す。それは徐々に一つ一つ小さな粒子のように空中へと飛散していった。
「こんなものか。ずいぶんと手を焼かせていたみたいだが、相手が悪い悪い。俺は“サーカス”の一員、そこいらの雑魚共とは場数が違うんだよねぇ」
倒れていた怪人たち、その頭目とおぼしき灰色の怪人に近づこうとした、その時。
「―――――ッ!!」
ヒーローの後ろで大きな音と共に瓦礫が宙を舞い、土煙が辺りを覆った。
(まだ、残りカスがいたのか・・・?)
後ろを振り返り、煙の中をじっと見ていた。そして、ヒーローは見た。
ゆっくりと土煙の中を掻き分け、おぼろげな輪郭は徐々にハッキリとしていき、人の形、否。それはまさしく、悪夢。
ヒーローの勘がささやく。その異質感に。その足音に。その空気に。
勘はささやきから徐々に音を大きくしていき、警鐘となり、彼の視線は目の前の影に釘付けになった。
ただ振るうためだけの刃の腕、逃亡者を捕まえるかのような長い尾、肉だけでなく骨をも溶かしてしまうような唾液を垂れ流し、触れるものを切り裂くように突き出た背骨、玉虫色の瞳が街灯に反射し鈍い光を放つ。
―――人類が生み出した怪物。
人を愛することなく、慈悲もなく、無残な死を送り、すべてを拒む。
「ヒーロー、お前をいますぐに殺す」
―――彼は復讐者。
彼の過去は誰も知らない。彼の過去はもう無い。彼を奮い立たせるのは、目の前に立つヒーロー。ヒーローという存在。ヒーローという概念。ヒーローというモノ。
―――全てのヒーローを。
「おいおいおいおい!コーイツはまたずいぶんと侵化が進んだ失敗作だなぁ!!えぇ??どうしたどうした!!自分がもう誰かもわからん廃棄物がぁ!!やられに来たってのかよぉ!!なぁ!!」
ヒーローのスーツの各部がまるでエラのように開く。エラの奥から先程と同じ光を纏った粒子が辺りに拡散した。溶けるように空気と同化していくのを見て、ヒーローはまたも笑みを浮かべた。しかし、その目にはわずかに不安の色が浮かんでいた。
―――殺す。
「UUUUUUUUUUUUUUUUUUUGaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa―――――!!」
一直線に駆け近づいてくる復讐者を前に、ヒーローは構えるまでもなく立っていた。恰好の餌と言わんばかりに、復讐者の拳が彼の心臓を抉り取ろうと、
ずぶり、と。音を上げる、はずだった。
虚空を突いた復讐者の拳。玉虫色の瞳には、ヒーローの姿は無い。
「無駄無駄、意味のない。やはり所詮は廃棄物。人間性を失い、知恵までも消え失せたか。なんの捻りも無い一撃。実に。実に!!……意味のない一撃、最早徒労でしかない、ご苦労様。出来損ないの―――」
「ばけ……ッ!!」
(言葉が出ない。なぜだ?何が起きた。俺は今確かにポイズンミストを起動させたはず……!なんだ、これ…。おかしいな、嘘だ。これは悪い夢だ!疲れてるんだ、そうだ!こんなはずじゃ……ッ!!)
頭だ。緑色の粒子に照らされた身体の一部は綺麗に放物線を描くと、グシャリという音と共に地面へと落下した。そして、それまで繋がっていた身体は公園の噴水のように鮮血をまき散らし、空気中の粒子が緑の斑点を紅い花に添えた。
***
夜風を受け、紅い花は黒く枯れていく。緑斑もどこかに消え、無残な肉塊と3体の怪人だけが取り残された。深夜のせいか肌寒い風が吹き、意識を失っていた怪人たちは1人、2人と起き上がり、辺りを見回す。彼らにはどう映るのだろうか。
いつの間にか空になったトラックの荷台、真っ暗な闇を見つめる彼らの目には。
ヒーロー殲滅計画 蒼北 裕 @souhokuyuu
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