第2話 定例会議

 ここは日本の首都、東京にあるヒーロー本部。通称、ヒーローホール。そこでは3か月に一度行われる定例会議が行われている。

 今日もまた日本の平和を脅かすものたちと戦うヒーローたち一同が互いの状況について報告、確認をしていた。


「では、次に中国地区担当よろしく頼む」


「はい、今回の報告は私、アルキミスタからご報告させていただきます。前回の定例会議と一変して怪人の出現頻度が増しております。他地区で目撃情報のありました者たちが数体確認されておりますが内2体を駆除、残りは現在捜索中です。推測通り、我が中国地区に奴らの拠点が存在するものと思われます」


 アルキミスタと名乗った声の主は高さ3m近くある巨大な岩石を思わせる鎧に身を包んだ人物だった。その声色からして女性であろうか。

 また、会議に出ている者、全員が生身の姿ではなく各々のパワードスーツを着込んでいた。その光景はまさに圧巻であり、日本の都市、地方を守ってきた守護者たちから放たれる気は常人では立つことすら困難にさせるようなまでに重く、厳粛な空気となって充満していた。

 彼らはヒーローの中でも上位の存在にあたり『英雄の神』、『God of The HERO』の称号を持つ守護者たちであった。この通称『GOTH』と呼ばれるヒーローたちは北海道、東北、中部、関東、近畿、中国、四国、九州、沖縄のそれぞれに割り当てられ、各々が各地を守護している。

 

 「それにしても、中国地区の担当であるフレアスター殿はいかがされた?あの御仁が定例会議を欠席することなど今まで無かったことですが、はて」


 時代劇の登場人物のような喋り方をした男性が声を上げる。パワードスーツというよりは侍に近く、その腰部には刀のようなものが帯刀されている。陣笠を被った頭部からは答えを待つかのように赤い光を帯びたモノアイがじっとアルキミスタを捉えている。


 「それは、私から答えるとしよう。以前からフレアスターの報告には不明瞭な点があった。それはとある怪人に関するデータだ。

 ・・・この際だ、皆にも伝えておこう。日本を9地区に分割し守護しているのが現状だ、君たちには各地区で起きた問題については各自で処理してもらっている。また、この定例会議での報告も君たちに一任している。しかしだ、己の欲を優先し報告内容を改ざんして他地区の介入を妨げようとしていないかなどを確認するために私の手の者を潜り込ませていた。これには謝罪しよう。すまない、これも日本の安全を守るためだ、仕方のないことだと思ってくれ。なぜこんなことをするかと聞かれれば、君たちの実力は信用している。が、君たち自身を私は信用していない」


 守護者たちの中でも圧倒的な気を放つ、フードのついた外套に身を包み、凛とした声は貴族を思わせながらもどこかで獣めいた本性が見え隠れする、まるで獅子のような気高さと力強さを兼ね備えたような印象を受ける男性が椅子から立ち上がり、宣言するように言い放った。


「そして、とある怪人の話に戻るが、一言だ。たった一言で君たちの顔がいわゆる顔面蒼白になるような事実を告げよう」

 


「・・・奴は、だ」



 それまで他人事のように聞いていた守護者たちの態度が、空気の流れが、変わった。それまでに元被験者の怪人というフレーズは危険なものであった。

 被験者、数年前怪人を生み出す元凶となってしまったとある細胞を生み出すために選ばれた人間たち。科学者たちがその細胞の危険性を発見してから実験は中止、被験者は全員闇に葬られた、というのが現在の歴史で教えられていたことだった。そして、被験者と呼ばれる者たちには細胞を持っているだけでなく、もっと恐ろしい能力を発現させてしまっていたということである。それは、


 『他者への感染』


である。

 感染方法は不明、治療方法も無く感染したが最後、怪人として破壊活動をし人々の生活を脅かす存在となってしまう。そして純粋種と分類される被験者たちは無尽蔵にこのウィルスともいう細胞を振りまく、存在そのものがまさに『悪』であった。

 会議室には怒りや不安といったどよめきが起きた。


「・・・皆、静粛に。この私、ジャスティスが国民の安全を脅かすようなことに対して、何もせずにただ見ているわけではない。伊達に関東、この首都圏を守護しているのではないのだからな」


「私が動かない理由など簡単だ、かの被験者だが・・・」


 自身をジャスティスと名乗った男はたった1つの事実淡々と告げた。







 瞬間、重苦しかった流れは消え、会議室からは安堵の声、苦笑い、呆れなどが聞こえてきた。会議室中央にある大型モニターには証拠写真とも言える一体の怪人の死体が写っており、その頑丈そうな体は心臓に大きな穴が開いた状態で地面に転がっていた。


「ジャスティス殿もお人が悪い、某たちのことをからかっておいでか。全く、何を考えているのかわからぬ御仁よ」


 モノアイのヒーローはマスクの中で苦笑いしていたのか、そう呟く。会議室の空気がほぐれていくのを確認すると、ジャスティスは急に態度を変え、それまでの気高さがまるで嘘だったかのように少年のような話し方になっていた。


「いやー、このところこの定例会議も面白くなくなってきたでしょ。最近は各地区のヒーローの数も十分になって警戒時や緊急時でも動ける人員が増えてきたし、ちょっと緊張感を思い出してもらおうと思ったんだけど、ダメだったかな」


 ジャスティスは砕けた調子を少し戻し、一人のヒーローへこう言った。


「他地区からは一応、数名の派遣をお願いしたい。フレアスターのことだ自地区のヒーローだけで片付けたいと考えているだろう。だが怪人たちが複数集まると何をしだすかわからない。さしあたって近畿地区から数名の派遣を頼みたい。出来るかな、ムサシ」


 ムサシと呼ばれた先程の侍ヒーローはその赤く光るモノアイをジャスティスへ向け、答えた。


「無論、英雄殿の要請とあらば。フレアスター殿はああ見えて少し童子のような考えの持ち主、自己の利益だけを追求するだろう。であれば、非戦闘系がよかろう。彼の武勲を掠め取ったりしないようにな。なに、恩を売ったと思えば安い安い」


「頼むよ、ムサシ。では、各地区一通りの報告は終わったね。・・・それでは、今回の定例会議はこれで閉会とする。各自、己が守る大地へ帰還せよ!我ら、日の本の平和を掲げる者なり!弱きを助け強きをくじく、この身は民のため、笑顔のため!!」



「「我ら、英雄の神!全ての民を守りし者なり!!」」


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