怪談少女

うすたく

夏は暑いので怪談を

 夏休み真っ只中。暑い日が続いていた。


「あちぃ・・・」


 赤髪の少女・鏡歌きょうかはテーブルに顔を擦り付け、ぐったりしている。


「鏡歌、今は家だから良いけど、外ではそんな事やらないでちょうだい。だらしない。」


 緑の髪の少女・冷鳴れいながそう言うと、


「お前は親か。暑いんだから仕方ないないじゃーん・・・。」


 と、ダルそうにそう言った。


「そうだ、冷鳴さん。アイスとかないんですか?」


 淡い青髪の少女・華矢かやがそう言うと。


「人の家に急に押しかけて来た癖に、随分と生意気な事で・・・。」


 と、冷鳴が少しキレ気味に言う。そう、今日は鏡歌が華矢と思夢を連れて、冷鳴の家に押しかけたのだ。


「怖い話なら、涼しい気持ちになれるんじゃないんですか?ひとつありますよ?」


 ピンクの髪の少女・思夢しゆめがそう言うと、先ほどまでぐったりしていた鏡歌が体を持ち上げ、乗り気になる。


「え、あ、怖い話?いや、私は皆の世話で忙しいし、そうだ、アイス買ってくるよ。」


 冷鳴は突然焦り出す。それに反応した華矢は


「まさか冷鳴さん、怪談が苦手なんですか?」


「ままま、まさか、そんな事はないわよ・・・。」


 動揺しまくりの冷鳴。突然口出ししてきたのは鏡歌だった。


「ホラー番組見た後、夜中に私を起こして、一緒にトイレついて来てって上目遣いで言ってたのはいい思い出だなぁ。」


 すると冷鳴は鏡歌を本で叩く。


「わ、私は克服したの。だから怖い話なんて怖くないもん。」


「じゃあ参加してってくださいね。」


 思夢がニコニコしながらそんな事を言う。


「い、いえ、だから私は3人のお世話を・・・」


 すると鏡歌が「良いから座れ!」と言って、冷鳴を黙らせる。ちなみに、冷鳴の顔は青ざめていた。


「さて、始めましょう。これは私が小さかった頃の話────。」


 小学生の時の私は、今とは打って変わって活発な子だった。四季問わず外で遊ぶ毎日。夏休みの終わり頃、私は公園で友達5人と遊んだ。仮にA子とB子とC太とD太にしよう。


「今日は何して遊ぶー?」


 私は皆にそう言った。その場にいた私を含めた5人は声を揃えて「かくれんぼ」と言った。しかし、遊んでいた公園にはとてもかくれんぼが出来る様なギミックはなく、近所の神社でやることにした。


 最初の鬼はA子だった。私とB子とC太とD太は隠れ場所を探した。私は階段の下に隠れた。


 A子の「もういーかーい」という声が神社中に響き渡る。隠れた4人は「もういーよー。」と返す。A子が探し始めたが、案外見つからないもので、かくれんぼは10分程続いた。


 その後も何回かやり続けた。本日最後のかくれんぼで、鬼となったのは私だった。


「もーいーかーい?」


「「「まーだだよー。」」」


 この当たり前のやりとりが5〜6回続き、私がもう一度「もーいーかーい?」と尋ねると、突然4人の声は途絶えた。聞こえたのは、小さい子のすすり泣く声だけだった。疑問を感じた私は神社中を走り回った。もう陽は姿を隠そうとしていた。


「C太君みーつけたっ!」


 やっとの思いで1人見つけた。でも、対して広いわけではない神社にしては時間がかかり過ぎていた。私はC太と共に他の3人を探した。15分程度かけて、A子とD太をみつけられた。しかし、B子はどこを探してもいなかった。


 元々体が小さいB子だったから、小さい隙間にいるのかもしれないと、私達は考えた。しかし、30分かけても見当たらない。ついには大声でB子の名前を呼ぶ。しかし、反応はない。周囲はもう真っ暗で、視界も悪くなってきた。


「ぐすっ・・・」


 誰かの泣き声が聞こえてきた。それには他の3人も気付いた様で、B子かもしれないと、その泣き声の方へ3人で歩いた。怖かったのか、足元はプルプルと震えていた。そこにいたのは、髪の毛を長く伸ばし、目元が隠れた男の子だった。


 男の子は言った。


「目が砂に入っちゃった・・・。」


 男の子は泣き止むことなく喚き続けた。おそらく、先ほど聞こえたすすり泣く声の主なのだろう。


 私達4人は2人組に分かれ、男の子のお世話とB子捜索に分かれた。私は男の子のお世話をC太と共に担当した。15分くらい経っただろうか、A子とD太は帰ってこない。


「ぐすっ・・・。」


 男の子は泣き止む気配を出さず、ただ、がむしゃらに「砂に目が入った。」というばかり。しかし、泣いている男の子が涙を流す事はなかった。でも、泣いているのは事実。放って置くわけにはいかなかった。


 そこから10分が経過したくらいで、A子とD太が帰ってきた。しかし、そこにB子はいなかった。もう8時を回っていたので、男の子を交番へ送り届け、B子を置いて帰ろうとした。男の子は泣きながら言った。


「置いていかないで」


 深い意味は無いのかもしれないと、当時の私は思っていた。


 そこから3日くらいが経っただろうか、夏休み最終日になったが、あの日からB子とは遊ばなかった。今思えば、男の子の言っていた「置いていかないで」とは、B子の思いだったのかもしれない。


 夏休みが終わり、B子の行方を知らぬまま、学校が始まった。やはりB子の姿はなかった。先生は言った。


「今日から転入生が入ります。」


 そうして入って来たのは、B子だった。


「昨日引っ越してきたB子さんだ。遠い所から来たそうだから、わからないことがたくさんあると思うので、皆仲良くしてやってくれ。」


 先生のその言葉にはいろいろ疑問が生じた。「昨日」「遠い所」。じゃあ、私達がこの前遊んだB子とはなんだったのか・・・。


「置いていかないで。」


 突然その言葉が4人の脳裏を過ったのだった────。


「これで、お話はおしまい。」


 思夢がにこにこしながら言った。しかし、冷鳴と鏡歌と華矢は黙っていた。


「そんなに怖かったかな?」


 思夢はそう言う。しかし、3人はB子の存在なんてどうでも良かった。


 冷鳴は鏡歌の服を引っ張り、「トイレついて来て」と言う。


 果たしてこれは思夢の経験したノンフィクションなのか、はたまた思夢の作り話なのか、それを問いただした者はいなかった。ただひとつ、3人はB子以上に恐怖を感じているモノがあった。それは、男の子の事だった。



「砂に目が入っちゃった。」

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怪談少女 うすたく @usutaku

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