冒険譚
第40話 Apnea5
「いつかそのマドカとやらに会ってみたいな」
「まず貴方よりは先に会っておきたい」
今俺はミセスの許に居る、財宝代わりのお土産があるとしたら実兄、マドカの土産話だけだ。
「――、そうだな、じゃあ勝負しないか?」
握り拳で合槌を打つと彼女は一本指で俺を差し、ある賭けを提案してきた。
高潔高徳な聖人に賭け事は許されざる項目なのだろうか?
「いいぞ、何を賭ける?」
「私が勝ったら、お前は私のものになれ」
俺は女に困ってない。相互的に俺の勝算はあっても、彼女を要求したりは……。
「……俺が勝ったら、貴方の口からこの島に『あること』を宣誓してもらおうか」
「勝負は勝負だ、だが結果はどうなるか……エース、そろそろ退屈してきたんじゃないか?」
「退屈?」
ミセスからそう言われ、しばらく考え込むが。
「そうかもな、俺はいいけどこのままじゃ、他のみんなが辟易とするかもな」
「だろ」
かも、という不確定ではなく、確実に俺以外の皆はこの島に辟易しているだろう。つまり今の詭弁はミセスへの励まし、海賊島を愛する彼女への配慮だった。ミセスは短いため息を払い、悩みを打ち明けてきた。
「ならここに住んでる私達なんかもっとそうだよな? どこへ行っても、私の配下どもは苦言を漏らす、退屈、どうにかしてくれ、苦しい、いっそのこと死にたい……だってよ」
海賊達の苦言を挙げる彼女は、口にしたその言霊に感化されたのか苦渋の表情をしていた。だが自業自得だと思う。自ら国交を絶ち、保守的な政策を彼らは敢行しているのだから。
ここは国としての形も保たれてない、形骸化した海賊の残党だ。
「お前、なんとかしてくれないか?」
そうしてやりたい、それが俺の責務で、聖人としての立場だ。計十二年間に亘る苛烈な経験で俺は教官から諭され、その志を説かれ、困難を打破する術を教わっていたはずなのに。
「特にな、特にだ、この島で小規模な問題になってる連中が居る、つっても単なるガキの集いだけどな、奴らは皆等しく孤児だ、親に捨てられ結託し海賊島の一角を占領してる」
不幸指数で言えばこの島の皆は全員、かつてのチュンリーと同じだ。
ミセスからの支援要請を俺は一旦船へ持ち帰った。孤児の存在を話してやると、ルドルは項垂れ、小雪さんは紅茶を口に運び、マオは無表情を保ち、唯一チュンリーだけが真剣な表情をしていた。
「仕方ないよそんなの」
マオは頬杖を突きながら薄情な発言をする。
彼女の母国もまた貧困問題を抱えているからか。
「はぁ……じゃあいつになったら、ここから出立出来るんだよぉ~」
「……旅を始めて二十年、時が経つのは本当に早い」
ルドルが嘆息を吐けば、小雪さんはこの旅を感慨している。
俺は、この船に戻るがてら例の孤児達が占領している街の一角の様子を見に行った。何でも海賊島にはこんな
「それで、その子達の様子はどうでしたか?」
チュンリーにそう訊かれれば、有りの侭起こったことを言う。
「血気盛んで威勢が良い、余所者の俺を見かけるなり光物を突き出して、有り金全て置いて行けって
彼らに聖人の超人的な身体能力を披露すれば、臆したかそれとも判断力が的確なのか素直に退散するのだが、具合は良くない。俺の試算では長期的な対応が必要になる、そこでだ。
「この船に居る聖人は四人だよな? 壬生エース、壬生ルドル、壬生ジギル、壬生レオ」
全部壬生家じゃないか、まぁいい。
「この四人の内の一人、か二人を海賊島へ置いて行こうと思う」
丁度余分なお荷物が約二名居るしな。その二人は最強のパートナーという自負の元、二人で一つ、常に一緒で何かと応援してあげたい、二人きりにしてあげたい、と言った兄姉だ。
「エースお前……」
ルドルは儚い表情をしてはこう言う。
「お前は……何て……何とインテリジェンスでセクスィーなのだろうか」
ルドルも目から鱗が落ちる、俺の提案に感嘆していた。
「
そして二人は小雪さんに雇われている、これでこの問題に都合が付いた。
この策を『海賊王エースのパーフェクトプラン』と呼んでしまおう。
早速その案件をレオポンに打診すると、彼は意外中の意外にも二つ返事で了承した。レオポンは「船旅に飽きが来た」と言いサムズアップ、何でも彼曰く「俺に取ってはバカンス」と言いまたサムズアップ、終いには。
「俺とジギルのタッグはこの世に於いて最強」
「嫌だぞ」
ジギルに秋波を送っては呆気なく振られる始末。あ、
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