ルドル

第38話 ルドルのヒストリー その一

 その後もだが、俺は財宝探しを継続した。

 ミヤビの情報から海域を移し、海賊達が目星を付けている眉唾な噂を頼りに行動を起こしている。


『エース、それは見過ごせない愚だぞ。お前はいつになったら世界の果てに辿り着きそして奴を甦らせると言うのだ』


 母に電話すれば父さんの件で催促されたが、殊更言えば環さんの件もある。それらを蔑ろにしてる訳じゃないが、この船にちゃっかり便乗しているカメラ小僧のアミーゴにピースサインを送る。


『おうそうだそうだー、奴よりも環を優先しろ……はてはてな? 環はどこで朽ちた? それはルート上に在るのかはてな?』


 環さんの訃報は聖地に届き、ニュースで報じられたようだ。彼の相棒であるリンリンは無事らしい。あのチームはリンリン無双で環さんは脆弱だからな。そこに読者はハラハラドキドキし、冒険王の最期を読むのだが、私的には冒険王の活劇に終わりなど要らなかった。


 あの人にはずっと生きてて欲しかった、父も同様だが、彼らには生きて、童心さながらに俺に夢と希望を灯して欲しかった。


 本日は生憎の悪天候に見舞われ、雷鳴が先程から鳴りやまない。アミーゴも危ないから船内へ戻れと伝えよ、アミーゴ! ア、アミーゴ! 何てことだアミーゴが雷に打たれたぞ! しかし彼はその後無事快復した。不死身過ぎるぜアミーゴ。


「嫌やわ、あの子実は私の妹なんよ」

「ミヤビのイモウト?」

 腹違いの妹弟にはこの様な伏線と拗れた関係が付き物だ。

 つまりアミーゴは門松の娘だった、父親は壬生沖田ではないらしいが。


「エースくん、あの子の父親は海賊王マクダウェルやで」

「……ふーん、って妹? アミーゴの性別は女だったのか」

 俺は今までずっと十五、六の好青年だと思っていた。

 そう言うとミヤビが失笑を零し、真顔になっては。

「エースくん、今結構あの子にそそられてへん? エースくんって中性的な女性に弱いんやろ?」


 ここでミヤビと気になる異性の傾向と分析、また攻略法を根掘り葉掘りしててもいいが、誰得なんだ。であるから一旦、一旦話を打ち切って、激しい雷雨の中に居る船の安全を確認しにウェンディの許へ向かった。


「ウォオオオオオオオオオ!」

 ウェンディは操縦桿を手繰って雷鳴に負けない咆哮を吐いていた。


「破ぁあああああああああ!」

 この船は意味も無く近海をぐるぐると回っている。

 確か過去に『ぐーるぐる事変』なる出来事が遭ったから、既視感がパネェ。


「クケ、クケケケケケっ、ワーオ」

「いつの間に」

 元スパイで聖衛官せいえいかんの出身だったルドルは音も無く出没することが多い。ウェンディは何しろよく分からない、分からないんだよ彼女は、それはこの二十年間でよく分かったことだ。


「――――――――っ! クケケケケケッ」

 ルドルが雷雨の轟音に混じって何かを叫んでいる。

 何か、俺にとっては不吉な内容を彼女は口にしている。

「壬生沖田を殺した犯人はっ! ――――だっ! クケケケケケッ」


 聞知完了、どうやら父を殺した犯人は小雪さんだったらしい。

「さすがは我らが鳳凰座小雪だぁ~」

 だけど俺は、俺はその事実を看過した。


「んっん~? エース、今何か聞こえなかった?」

「いいや」

 ルドルは気色の良い口唇を滑舌良く動かして一本筋通った声色で、随分と嫌なことを訊いてくる。


 知ってか知らずか、先日の小雪さんとの密談を彷彿してしまう。

「嘘吐きなって……本当は知りたいんだろ、真実って奴を」

 誰かが提言してくれたおかげで、俺はありきたりな建前を口に出せる。


「世の中知らない方がいいことだってある」

「詭弁だろエース」

「詭弁じゃない、俺の正直な気持ちだ」

 しかしルドルは人差し指を横に振っては、片目を閉じて執拗に俺の意識に食らい付く。


「ウソウソ、本当は知りたいくせに。いいのっかな、父親殺しをこの船に乗せてて」

 ルドルは沖田教ならではの挑発行為を繰り返す。

「なぁルドル、沖田教からもう抜けろよ」

「どうして? だって紛いなりにも沖田教は私達の父さんを崇める素晴らしい団体御一行様だぞ」


「お前は、その沖田教の闇を追って道連れになったんだろ? 一つ、当時に付いて教えてくれないか」

 ルドルは聖人の中でも聖人を取り締まる、聖衛官せいえいかん警邏隊けいらたいの出身だ。


 じゃあそんな彼女がどうして、今ここで俺と冒険しているのか。

 それは俺にも知り得ない深い訳がある。

 二十年前、幽霊島で聞いた話はほんの一部で、ストーリーの粗筋でしかない。

 ルドルの初任務で、最後の仕事。


 今から聞かされるのはその件に付いてだ。




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