第36話 小雪の選択 その三
「……マドカは、マドカの母親は壬生巴だ」
「じゃあ俺の実の兄なんですか?」
「そうだ。私の姉が壬生ネロだったこともあって、私はお前の両親と面識があった」
ならば彼女は今頃面識のない俺の兄と寄り添っているのが妥当ではないのか? 女帝の異名を誇って毅然とした小雪さんが居て、傍には俺の兄が仕えているはずで。どこでその歯車を狂わせてしまったのだろう。
「……っ、マドカの用意したその飛行機には、私が解雇した連中も乗り合わせていたのだ」
俺が拝聴していたこの物語は鳳凰座小雪の人生転落の話だった。
彼女が傲慢だからと言い、神は罰を与えるしかなかったのか?
「マドカとの電話が終わると、奴らは銃口を突きつけてきた、そして私の金品を奪い」
「それが本当に俺の兄だと?」
「だとしたらどうする? 話を続けるぞ。奴らは目的地に辿り着くと、私にパラシュートを背負わせ、飛び降りるように命令してきた。その時私は訊いたんだよ、一体誰の命令なんだと」
それが沖田教の人間だ。多面性を持ち、社会悪としての認識が強い。
だがそれでも人は沖田教へ入信してしまう。海賊島の連中なんかいいカモだ。
「奴らはやはりマドカの名を挙げた。マドカは沖田教の人間だったんだよ」
内心、そんな邪教に身を
その焦点に居たのが沖田教の教主、父の悪友でもある門松だ。
父は門松から幾度も裏切りに遭い、彼なりに闘ってきたのだと言っていた。
「そして私もまたあの幽霊島に不時着し、次第にお前がやって来るまで、胸中マドカへの復讐を心に誓っていた。だからなエース」
小雪さんは語り終わると席を立った。
俺に急接近して、彼女と肌が触れ合うまで、小雪さんは妖艶な雰囲気を放っていた。ただ近づいて来るだけだと言うのに、俺の目の錯覚なのか陽炎まで揺れているようだ。加えて小雪さんの口から出た言葉は、さすがの俺も女難の相があると捉える一言だった。
「ひょっとしたらお前との行為が、私の復讐でもあるのだろう」
「俺が彼の実弟であるが故、俺で復讐を果たそうと言うのですか?」
「……ルドルにはくれぐれも注意するようにね」
それが今日最後、耳にした言葉だった。
(小雪さん、なんであんなこと言ったんだ、どうして俺に兄のことを話した)
小雪さんの話には俺の実兄が登場して、彼女はその兄を呪っている。
兄の姦計で彼女もまた幽霊島に流された。
小雪さんはその後七十年の幾星霜を跨いで俺と出逢う。
俺と彼女が出逢った時、女帝と誇っていた獅子吼と信条、そしてプライドが形骸化してれば、今日まで小雪さんに、俺の実兄との繋がりと彼に裏切られた過去があるとは思いもしなかった。
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