第28話 水着回?
俺達はその後しばらく海賊島と、海賊王の財宝が隠されているという噂の海域を行き来していた。乗組員の一部は諦めて先を目指すべきだと、正論で俺を納得させようと試みてくる。
『しもしも?』
母の方から掛かってきた電話に対応したら、彼女の声がぐずっている。
『――っ、実はなエース』
「母さんもしかして泣いてるのか?」
『あぁ。ちょっとな……実は環が死んだらしい』
こんな日はどうしたらいいんだろう。
その日、俺がずっとその背中を追い続けてきた彼の訃報が届く。
冒険王と音に聞こえた環さんが亡くなった。
酷い虚無感を味わい、父の時以上にこの世に取り残されてしまった虚しさを覚えた。
彼は俺の――夢の体現者だ。
彼に憧れを抱いたのが冒険家になった切っ掛けなのは今も鮮明に覚えている。
「ふぅーん、死因は?」
――ラウンジにて、環さんの訃報を受けたルドルの第一声が死因を探ることだった。
ジギルとレオポンを除いたメンバーがここには集っている。
「それがよく判らない。恐らくだが、環さんが亡くなった地域はここから行けそうなんだ」
それも推測でしかない。希望的観測でしかない。
しかしその訃報が誤っていたとしたら? 彼はまだ生きているんだ。
「だから、
「私は異存ありません」
俺の打診に、小雪さんが賛同した。これはもう決定的だろう。
女帝とは一番偉いお方なのだ、今一時だけは小雪さんの独裁政治の片棒を担ごう。
「ルドルお姉さんも賛成だよエース」
みんなで小雪さんを祭り祭るのじゃー!
これが俺の空元気なのか、先程までの悲しみとハイテンションでグッバイ。
酷い男だよ。
「んねぇねぇねぇ、今は暗い話は、置いといてさ」
環さんの遺体を聖地に持って帰る必要がある。は置いといて。
鼻に掛かった呼び掛け方は最近のルドルの口癖だった。
「んふっふぅ~、ルドルお姉さんの、水着回ッ!」
ルドルは喜色満面から迫真な顔付きになって――ダーン! とテーブルの上を勢いよく叩いた。世の中には、主に二次元の異世界には『水着回』というワードがあるらしいのだ。ルドルは水着回とは何ぞやを豪語する。
「水着回っていうのは視聴者へのサービス、つまりご褒美なのだっ!」
「ルドルさんが言っていることは
そんなルドルの
それが水着回の真相だと確信するには容易いことだと俺はサムズアップして了解を伝えると。
「つまり、私達じゃあ真なる意味での水着回が出来ない。と言うことだエース、残念です」
ルドルが自分の水着姿では永劫的に不可能だと仄めかしていた。
アゲアゲの雰囲気からの肩落とし。
なんか、環さんの訃報同等の哀愁が込みあがって来た。
「確かにこの船のメンバーの水着は見飽きた感がある」
「だろ?」
俺の失言に誰も突っ込まない。
失言と言うか俺達は年がら年中海を渡っている、すると自然的に水着姿になることが多かった。
失言ではなく正解。何ポインツ?
その時俺はある映像がフラッシュバックした。小雪さんから「小僧」とのご褒美を頂戴し、ルドルから「いやらしいんだよ!」と手が触れちゃったのノリで目を潰されていた俺のアミーゴ。
「はいと言うことでこれがその水着回!」
ルドルが手を退けると、見目麗しい水着姿の女性達が一枚の写真に写っていた。
中央にはミセスの姿まである。
「この人達は誰ですか?」
チュンリーが眼鏡のブリッジをくい、と持ち上げ、ルドルに訊く。
「海賊島の女子達だ。私がエースのために頼み込んだんだ。褒めて褒めて、ルドル褒められると濡れるよ」
それよりも俺はこの写真とアミーゴとの関連性が知りたい。
「ルドル、この写真を撮影した奴って、あの子だろ?」
「うんうん、お察しのいいことで、ルドルお姉さんもそんな乙女のツボを心得ているア・ナ・タ、が、ダ・イ……嫌いじゃないけど、べ、別にエースのことなんかす、好きじゃないんだから、ね」
そこで俺は思った。
「海賊島には売り物になるものがここに収まっている。要は人材力こそが、海賊島最大のビジネスだ」
「海賊兼アイドルですか?」
「小雪さんもそれならいけそうって思いません?」
「そしたら向こうも悦んじまうな。俺が俺がって我先にと海賊されたがる」
ルドルが口にしたこのビジネスの展望は正に最高だと思えた。
でも俺は真剣に考えていた。このビジネスって法的にアリ、それともナシなのか。
「そもそも海賊島は法治国家なのでしょうか」
「……あぁ、やっぱ真剣に考えて」
チュンリーの疑問を鑑みた俺は「いけるな」と呟き嘯き。
改めて写っている海賊島の美女達を鑑定していたら。
「そう、皆さんもお察しの通り……この写真に写ってるミセス以外は男の娘なのら!」
していたら、ルドルの口から衝撃的なトリックを打ち明けられる。
俺はその場で仰け反り、「男かよ」と呟き心中では(男かよッ!!)と心の声を荒げ再度写真を見詰めては「男? これが?」と首を傾げ心中では(男かよッ!!)と胸騒ぎが止まない。
チュンリーが蛍光色フレームの眼鏡を鈍く光らせていた。
「この写真要らないのなら貰いますね」
チュンリーに取っては需要があったらしい。
彼女はまごうことなき隠れヤオラーだ。
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