第26話 霊安室・不審者・容疑者の娘
辺りが真っ暗闇になっても、ウェンディの超人的な能力で船は航行し続けている。
船が暗闇を照らし出す光景は、時に情緒を感じれば、時におぞましい。
「気にするな、ウンコの方が不透明じゃからの」
「止めろよ迂闊なことを口にするのは」
唐突に目の前にウンコの山が現れてそのまま――ずぷっ。
俺達の船は世界で唯一ウンコが原因で
「お、おう、気を付けねーとな。ウンコ塗れにされるど……ウンコ塗れにされるど」
この様に、俺は一日に一度は操舵室に様子を見に来るのだが、大抵はウンコの話しばかりだ。他の乗組員はウェンディの発言に気分を害して時々食事を抜く。身体は清潔に保てても、心はウンコ塗れにされてしまった。
その後俺はラウンジに向かい、退屈そうにしていたミセスにこの話しを聞かせた。
「ふぅん」
ミセスは興が乗らないと言った様子で鼻を鳴らした時……――船内に不審者の気配がしたのだ。昼食を摂りにラウンジに集まったみんなは顔を合わせた後、フラッシュじゃんけんをして誰が見回りに行くのか決定した。
「ぎにゃにゃ」
ルドル、何故かお前はじゃんけんが弱い。たぶんあいつはくじ運が悪い。
――数分後、ルドルがばたばたとセクシーコマンドーしながら慌てて帰って来た。
「無理無理無理っ、誰か頼むっ」
「どうした?」
冷静沈着な小雪さんがキモチ浮かれ調子でルドルに何が
ルドルが慌てふためく様相が愉快らしい。
「だってそいつ、霊安室に入って行ったんだものっ」
ルドルはなまじ超人的な運動神経のため、幽霊には滅法弱い。
「……マクダウェルの亡霊だったりしてな」
ミセスが邪悪にも煽れば、ルドルは白目を剥く。
「俺達が出逢ったのは幽霊島って言う所だからな、幽霊の一匹や二匹出てもおかしくない。小さな孤島に、一つの洋館が存在していて、その島にはある英雄の御霊が眠っている」
そして、父はそこで殺された……父、壬生沖田は今でもあの島で英雄と共に復活の時を待っている。俺は何を思って彼女にこの話しを聞かせたんだろうな、同情でも買いたかったのか。
「またその話しか。今度は英雄と来たもんだ……幽霊とかさ」
「しょうがない」
俺は俺の話しを信じられない彼女との会話を切り上げて重い腰を上げた。ミセスと噛み合っていた視線がぷつりと途切れて、彼女は首を上げて目で俺を追っていた。
俺が男の甲斐性を見せ、勇んで霊安室の扉を開けると、冷ややかな風が喉元を浚って行き、――唐突に現れた人影に俺も口から心臓が飛び出る思いだった。
「貴方、一体どう言うつもりなの?」
GJ小雪さん、俺もそう言いたかった。
霊安室に隠れていた不審者は、今度は俺の背に隠れ、バツが悪そうにしている。
「あー、駄目、だったかな?」
「えぇ駄目ね」
小雪さんは彼女に対して冷徹だった。
「あー、私の、母親が風祭門松でも?」
しかし彼女はある一枚の切り札を提示する。
霊安室から飛び出て来たのは海賊島の喫茶店のお姉さん、ミヤビだった。
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