第25話 血なのだろうか
「ウンコに向かって出発じゃ」
ウェンディは何かあるたび、ウンコを代名詞にする。だからウェンディにとってウンコとは『こそあど』なのだ。今回はある海域を彼女はウンコと言い張った――海賊王マクダウェルの財宝が隠されている海域だ。
「……」
そんなウンコ聖女をミセスが見詰めていた。失意とも関心とも取れない表情で。
これからミセスの案内で財宝が眠っているとされる海域に出向く。
「お前らも目的地に辿り着くまでウンコは我慢するんじゃぞ」
「ウェンディ、目に余る奇行は控えろ」
「ウンコみたいな指示じゃ」
案の定、ミセスが
「お前以外は全員女か?」
「俺達は元々小さな海賊団だからな」
「それで内の海賊船を
「俺は世界の果てを目指している。そんな暇はないよ」
「馬鹿な真似は止して、あの海賊島でその力を存分に披露しろよ」
聖人が海賊行為をした場合、ある機関が動く。ルドルが所属していた
「しかしこの船、海賊船にしては立派過ぎやしないか?」
ミセスは船内を見渡し、機動性ではなく
現状ではミセスは外部の人間、それも海賊団『マクダウェル一家』の首領と言う悪名高い肩書を持つ女だ。彼女が
「霊安室とかな、必要か?」
「まぁ心配せずとも、一度も使用したことないですよ」
「まるで一見豪華客船、私らのいいカモだな」
船内の案内を一通り終えた後、俺達は甲板に向かった。
甲板ではルドルと小雪さんが談話し、ジギルが日課である日光浴をしている。
ルドルは俺達に気が付くと、堂々とした面持ちで歩み寄って来た。
「ルドルお姉さんの、下世話タイム。お前らもうセックスした?」
「体で繋ぎとめられるような男じゃないだろ」
彼女達に気付かれない程度には
ミセスが一見は豪華客船と称したこの船にも、船長室という他とは一線を画した
コックのマオが、自分こそがこの船の生命線だと主張すれば、
女帝の異名を持つ小雪さんが他メンバーを
そしたら、マスコット的な存在のチュンリーが殺伐とした討論を
「陽気な連中だ、羨ましいぐらいに」
そんな与太話をミセスは羨んでいた。
やはりあの島は財政難に見舞われているのだろう。
「その昔、およそ二十年前、旅立って間もない頃は船長室を当番制で循環させていた。半年と経たない内にそれが面倒になり、船長室の用途を倉庫代わりにすることでその議論を終着させた。貴重品の類は全部船長室に保管されている」
不意に、ミセスは
「海賊のお頭にぃ、内のトップシークレット言わないでぇ」
「危機感がなさすぎて呆れてしまいますよ」
ルドルと小雪さんの指摘に俺は一瞬頭が真っ白になった。自分の
べらべらと喋り過ぎてしまったようだ。
『おうお前ら、ウンコしとるか? 現在目的地に向かってウンコ超特急じゃ』
「彼女はあぁでも内の大事な操舵手だから、重宝されている」
船内放送を使ってのウェンディの奇行もこれで何度目になるだろうか。
最早数えるのも馬鹿馬鹿しい。
『到着予定時刻に付いてご説明します、現速度で向かえば恐らく明日の明け方には目的地に到着します。おう、ウンコども、今の説明で腹肥やしてウンコせい。以上ですドアホぉ』
ウェンディのアナウンスを耳にし、ミセスには再度「あぁでもな」と伝えた。
「後は時々みんなで雑魚寝して、話しながら時間を潰しているけど」
するとミセスは俺の話しに耳を貸さず、
「……今向かってる場所に、本当にマクダウェルの財宝があるかどうかは不明だ。唯一、その財宝の在処を知っているシドーって男がそこに執着している」
「そう言えば海賊王は誰かに殺されたんですよね?」
GJ小雪さん、俺もそれを訊きたかった。
「ある日、いつものようにあの人の帰りを待っていた。だけどあの人が乗っているはずだった船には、あの人は居なかった」
海賊王は犯人以外には気付かれず殺されたらしい。
「何も可能性は身内ばかりじゃない……外部の人間の犯行、その可能性も残されている。が私はあの人の死を、目を瞑ってやり過ごした。マクダウェルは殺されても、別におかしくないさ」
それは父にも当て嵌まる、まるで父が殺された状況と同じだ。
俺達も内外の犯行の可能性を疑った。
「今日は気持ちのいい日だな」
それが彼女の皮肉なのか、彼女の
耳には潮騒の音が届き、肌には海上を横断する海風が吹きつける。
甲板では今、ジギルが愛聴している朧ブルースが流れていた。
「……」
ジギルはティアドロップサングラスを掛けて、甲板のリクライニングシートに仰向けに寝そべっている。身長およそ一七五センチで、レオと背格好、年恰好が大体一緒、二人は俺の頼もしい兄達だった。あぁいや違った違った、ジギルは俺の姉だった。
ジギルが余りにも凛々しく、
「お前も朧ブルースに酔いしれろ、
ジギルは朧ブルースを耳にして
聖地朧町の市民権を得られない者の、せめてもの郷愁の念だった。
「いい曲だな」
「お前は分かってるみたいだな。朧ブルースの良さと、愛しさ儚さを」
ミセスはジギルに話し掛け、二人は握手を酌み交わしていた。
そんなジギルの背後に、レオが忍び寄り、手はジギルの胸を揉もうとしている。この二人は大体こんな感じ。ジギルが朧ブルースに恍惚として、彼女の胸をレオが揉もうとする。
そしてレオはジギルから肘鉄を貰い、海に叩き落とされる。
今船上では軽い失恋と、故郷を歌ったブルースが心地好く流れていた。
「ぷはは、カワイソっ、ぷははははは、もう、レオポン振られるのこれで何度目?」
「殺す!」
ルドルが今日も振られたレオを
俺はジギルとレオの二人を見詰めては、血って奴を感じる。
それともこれは人間において普遍的に言えることなのだろうか。
この二人はずっと、同じことを繰り返す。
単純に飽きないのか? と思うのだが。
俺にもそんな惰性的な所、あるなと思い、そこに血を感じる。
「エース」
俺の視線に気付いたレオは端的に殺気を向けてくる。
彼は視線でその意思を明示して、彼の口から「殺す」と出ればお前はもうすでに死んでいる。レオはジギルに近づく悪い虫には手っ取り早く殺意を向けて牽制する
ジギルは彼をパートナーとして傍に置き、賞金稼ぎを生業として生きて来た。
「よしよし、いい子だからエースはルドルお姉さんとこっちおいで」
ジギルはミセスと談笑し、レオは彼女達を背後に据えて護衛している。
「ルドルお姉さんの、疑問」
ルドルは三人から距離を取ると、俺に耳打ちしてきた。
「レオポンはジギル以外どーでもいいの?」
「そう言うことなんだろ」
「ふ~ん、誰かさんとは違って一途だなぁ~」
ルドルは俺に皮肉を言いたかったらしい。
俺も『レオポン』の愛称で慕われている彼の一途な性格には感服するばかり。
血、なのだろうか。
ジギルもルドルも、巨乳だった。
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