第21話 海賊達の虚栄心
「あんたが、内の末端共を手際よく返り討ちにしたっていう新人海賊団?」
俺は末端戦闘員に案内され、現頭目の下へ通された。中背で上下とも黒のレザーに覆われ手元にはぴっちりと黒い手袋が嵌められて、肩まで掛かったミドルヘアーの女、彼女は妖艶な雰囲気を纏っていた。
彼女の名はキュケル、マクダウェル一家の間ではミセスで通っている。
海賊王の願いは二つ。
彼女の無事の確認と、自分を殺した犯人に復讐を与えることだった。
前者は今目視で確認したが、後者は俺なりに解決させてもらうとしよう。
さぁ、では本題に入ろうか。
「初めましてミセス、自己紹介は省略して一つ、尋ねたいことがある……海賊王マクダウェルと言う名に聞き覚えは?」
「……あぁ、何とも懐かしい名前を聞いてしまった。懐かしい響き、懐かしい思い出、それらは全て闇に葬られた」
海賊王は報酬として、彼の秘宝の在処を教えてくれると約束した。
みんなには迂闊な行動は取るなと伝えてあるけど、それは無理だろうな。
「ミセス、俺達にこの絵画的で神秘的な岩窟、
俺は船の代表として、みんなの気持ちを代弁し、この島の頭目である彼女に滞在許可を出すよう要求した。
俺は彼女の前で極めて、弱気に映らないよう努めた。
「そうか、じゃあしばらくゆっくりして行きな」
「お言葉に甘えてそうさせて貰おう。なあミセス」
――海賊王のこと、愛していたか?
「もう行きな」
「あぁ」
ミセスに海賊王の想いを、愛を伝えかったけど、有耶無耶にされてしまったな。俺は海賊王が亡くなった当時を、彼の証言だと約十五年前のことを調査しないとならない。
再度思うが、マクダウェル一家のアジトである海賊島は神秘的だった。
絵画に描かれるような海賊達の理想郷。天井にぽっかりと丸い穴が開き、まるで徳利の形をした岩窟では酷い野心を抱えていた海賊達が性分を忘れ去り、長閑な日常を過ごしている。岩窟に射し込む陽光が淡い残滓を置き、海賊達の情景に溶け込んでいる。港にある桟橋と、下に敷き詰められているのは碧の海。自然的な景観と不自然な背景が融合しているように俺は思えた。
「いらっしゃい」
ミセスの住居から下り坂になっている海賊島のメインストリートを辿り、軒先に店を構えていた喫茶店に立ち寄る。主に情報収集のためだ。
「お姉さん、ちょっと海賊王についてお尋ねしたい」
カウンター越しには、Yシャツの胸元が開けている女性が佇んでいた。
首には彼女をよりセクシーに映えらせるシルバーネックレスが輝いている。
「海賊王? それならこの海賊島に万とおるよお兄さん」
「海賊王マクダウェルについて訊きたい」
「あぁ、あの人か……せやね、お兄さん滅法色っぽいし。どやろ、私と一晩だけでも甘い関係になるなんてえぇんやない?」
自然くらっと、立ち眩みを覚えるが、それは俺のほんの冗談。
あえて過剰に振る舞うことで相手の気分を盛り上げるハニートラップだ。
「ほんま、私のタイプやわ」
「情報は何でもいい、特に彼が誰からか恨み妬みを持たれていなかったか教えて欲しいんだ」
「ん~、私もよう知らんけど、それなら海賊王の旧友を当たったらどう?」
海賊王の旧友か。海賊王にも人との絆があるらしい。海賊王マクダウェルはその絆を糧にしていたみたいだが、だが彼にだってそれは人間のクズがすることと言う自覚はあったのだ。
「シドーさん言うお人がおるから、その人に訊きな」
「その人はどこに居る?」
「惚れた弱味やね、えぇで、私が案内してあげる」
「ありがとう、君の名は?」
「ミヤビ、そう言うお兄さんの名前は?」
「俺の名前はエース、海賊王エースだ」
喫茶店の店主のお姉さん、ミヤビに案内されてメインストリートを一緒に歩いたが、ミヤビは軒先に構えている家を口々に「海賊王○○さんの家」「海賊王××さんの家」などと教えてくれた。生憎、海賊王の旧友であるシドーという人物は不在だったが、この島に居る海賊達の虚栄心だけは窺うことが叶った。
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