第6話 ラッキースケベ?

 今朝の俺と巨樹の剣の騒動はチュンリーとの二人だけの秘密になった。俺は別にチュンリーにその旨を伝えてない。けど彼女は姐さんと慕っているマオに話してない所を見るに、秘密にしたがっているようだ。


 そして俺達は館の居間でぽつんとした朝食を摂り終えた。

 精進料理の方がまだ空腹を満たせる。


「ルドルお姉さんの、今日の天気予報。今日は一日中過ごしやすい快晴となるでしょう。皆さんも、溜まった洗濯物があるのなら今日が大事な大事な、アタックチャーンス」

 ルドルの予報によると、今日は晴れだ。そんなの見れば分かると俺は反駁した。


「あら、意外と馬鹿に出来ないのですよ?」

 仕草や口調から怜悧れいりな印象を受ける小雪さんは、ルドルの天気予報を高く買っていた。

「ですからぁ、今日はぁ~、海日和ですよ」

 

 この館には衣服と、水着と、ワインがある。

 海水浴と言い皆で海に向かえば、ウェンディが相変わらず砂のお城を造っていた。


「聖地の英雄、荒儀あらぎれんって知ってるか?」

えた臭いのウンコする奴じゃろ?」

「俺は彼と瓜二つの容貌なんだ、俺は昔から英雄の生まれ変わりと持てはやされて」

「でしたら、貴方はここへ招待される理由があった」

 まなじりに捉えていたウェンディから、幽玄な空気が伝わって来る。

「ブラッディーは荒儀煉に固執していますから、彼女にとって彼が世界の全てです」


 ウェンディの言葉を耳に入れ、俺はしばらく無言で考えた――だから。

 だから、ブラッディーはあの時俺にあんなことを言ったのか。

 ブラッディーが口添えして来た内容と、彼女の媚態びたいに合点がいった。


「俺は、これでも夢がある。お前に夢はあるか?」

「ボぉケぇ、何が狙いじゃ、カぁスぅ」

 俺は聖人として、ここに囚われた彼女達を助け出す義務がある。

 だけど彼女達を救って、家に帰して、それが何になる。

 彼女達との接点はもうなくなり、俺は彼女達の姿を水平線の向こう側でしか見ることはなくなる。


 ならばこの際、俺と一緒に世界の果てを目指すという話しにはならないか?

 俺はそう願いたい。


「俺の旅に一緒について来ないかウェンディ」

「まず現状を打開してからにしろ、ドアホぅ」

「そっちの方がまだ建設的なんだ、ここは地図に載ってない海域だから」

 昨晩、この砂浜から観測した星の位置でそれは判明した。


 俺は丸二年、たまきさんが掲載した『冒険王の黄金ルート』なる空路を辿って、その途中ブラッティーと遭遇しこの孤島に招かれたらしいが、ここは現在解明されている世界地図に載ってない座標だと思う。


「ルドルお姉さんの、ポロリもあったよ。うん、さっきね」

 ラッキースケベのエースと呼ばれていた俺、水泳大会があれば女子の誰かがポロリしていたな。俺はルドルの扇情的せんじょうてきな胸に視線をやり、口はすっかりれた話題の流れに乗っていた。


「聖人って、聖地で出生した新生児を差すんだけど、同期は俺を含めて二十名しかいなかったんだ。今聖地では出生率が激減しているらしい」

 ルドルは「ふーん」と鼻を鳴らし、濡れそぼった髪をタオルで拭いそして。

「なぁエース、実は私の出生地も聖地朧町だったんだ」


 彼女の生まれは聖地だと、告白して来た。生まれが聖地の時点で聖人としての義務教育は必ず経験するし、誰だって聖人の区分に入る。俺の視線は最早ルドルに釘付けになっていた。

「ルドルお姉さんは、父親、お前と一緒だよ」


 父は日に五回の自慰を欠かさないし、数多の奥さん達と淫蕩いんとうな生活を送っている。

 俺はそんな父の子供達を把握していなかった。

 兄姉がいることは知っていたが、まるで面識がなかった。

 加えて俺は壬生家の末っ子だ。


「ルドル、その話しは真実か?」

「ウンコじゃと思うど」

 ウェンディが無理やり入って来たが、回答も無理がある。

 父の子供達の詳細な人数は、彼自身も把握していない。

 ただ、彼の子供の生存率は高い。だから逆の兄姉達の話しなら聞かされた。

 大戦で戦死した兄姉達のことを――


「本当だもん、ルドルはあの人の娘。小雪は、義理の叔母おばさん」

「お前にとっての叔母は俺にとってもそうなるんじゃないか?」

「ウンコじゃな」

 この場合、ウンコという感想には何故か合点が行く。父の不義理のウンコ度合。


「だから私はあの家が嫌なんだよね」

 ルドルは俺達の父親である壬生沖田の浮気性を毛嫌いしているらしい。

「そりゃウンコじゃねーな、ウンコっつうもんは切れ味が悪ければ悪いほど、思い出深いものなんじゃ」

「ウェンディはウンコにこだわり過ぎだろ」


「それには黒歴史があるんだよエース」

 そう言い、ルドルが指差した方向にはポロリしたマオがいる。

「そうじゃそうじゃ、奴は食卓にウンコ入りの饅頭を出したんじゃ。饅頭怖い、饅頭怖い、つっとったらウンコ出して来たんじゃ」


「ショックだよね。そしたらウェンディはその日以来狂ってな」

 聖人が過去に辛酸しんさん舐めさせられた稀人って、一体何なんだ。


 マオはビキニのブラを完璧に波に流されたようで、桜色の乳首を隠そうともせず。

「……ジロジロ見てるんじゃねーよ」

 マオはその声がはっきりと聴こえる距離まで接近して、館へと帰っていった。

 マオが引き上げたので、彼女をねえさんと慕っているチュンリーも一緒に帰る。

 そこで俺達の海開きは終了、欠員を出した途端、その場の空気は悄然しょうぜんとなった。

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