封印されてた記憶2

 その日、トゥーア領にある神殿に、私は赴いた。そう、念願のアコライトに転職するのです!

 長かったような短かったような感じで、私は今年13歳になり、転職するためのジョブレベルもカンストしたのです。ベースレベルは70に到達したので、その辺の雑魚であればソロでも余裕で倒せる様になりました。

 しかし、お嬢様家業の合間だったので存外に時間掛かってしまいました。

 首に掛かっているチェーンを、服の合間から引っ張り出す。銀鎖の先端にあるドッグタグの様に見えるプレートをちょんちょんと指先でつつく。

 すると、小さなプレートは約四枚分の大きさへ変化する。このタグプレートは、ギルドカードでもあり同時に魔法具でもあります。このカードは良く出来ていて、MMOやRPGによくある死に戻り(瀕死状態とかでセーブポイントに戻る)と言うやつに欠かせない物なのです。瀕死になった際に発動され、あらかじめ登録した場所へと強制転送される。その度に一回一回魔法を掛けないといけないのだが、使用されない場合は永続されるのだ。戦闘する度に、瀕死にならない様にするのが大変だったのは良い経験である。


 さて、目の前にある神殿は、中央の本殿、手前と奥、左と右の副神殿の5つで構成された建物である。

 本殿は丸いフォルムの天蓋屋根で、壁色は白磁色で、装飾の部分はクリーム色で配色されている。副神殿の壁と装飾は、本殿と逆の配色で構成されている。建物の造りは、ケルン大聖堂の尖塔の様にどっしりとした東塔、西塔、南塔、北塔で構築されている。

 内部の東西南北の塔総てにステンドグラスがはめ込まれ、見るだけでも圧巻の一言に尽きる。綺麗な物好きには眼福ものです。


 実際には、領内の神殿と言うものは美術的価値よりも、聖域とした価値の方が上であり、魔法と神々の守護により領地を守る要所にもなっている。トゥーア領地は、不死属性の魔物などから守る為に、管理神バルキリーと、聖癒神ケレス、戦神アーレスの三神を本殿に奉り、それを主軸に守護魔法を展開されている。各副神殿の奉神の構成は、東に商神ヘルメス、西は鍛冶神ヴァルカン、南に魔導神ミネルヴァ、北は盗神ロキとなっている。


「よし、アコライト転職だ~~ッ!」

 意気揚々と、荘厳で貫禄のある神殿入口を潜る。入口となっているのは、南塔で開け放たれている両開きのドアには、魔法陣が一面に描かれている。緊急時にはドアを閉じて、守護魔法を発動させるらしいが、使われたのは数回のみでその内の一回は、隣の領地の魔窟化の時だったと伝えてられている。それを横目で見ながら、中央の本殿に進んで行く。

 

 副神殿内部は、天井部分に四方のステンドグラス。中央には南塔の主神ミネルヴァの像と、祭壇が鎮座している。神像は二体あり、祭壇を挟む様に置かれている。そして、その奥の壁の中央付近には、本殿側に続く曲線を描くスロープ階段がある。本殿の祭壇は、二階にあるのでそちらへと向かう。


 そうそう、神殿内には神殿長や司祭が存在するが、転職に彼らは関わらない。何故なら管理するのは、神様が行うからである。神殿長や司祭は、神殿の管理者で、婚約、結婚、洗礼、緊急時の守護魔法などを執り行うのがお仕事である。基本的には彼らは神殿に詰めては居ないので、今も姿は見えない。


 転職するには、まず最初に管理神バルキリーに願い奉る事から行うのである。


「やっばぃ、めちゃドキドキするぅ~」

 私は手に持ったギルドカードと共に胸元をそっと押さえ、階段を支える白い柱に、鮮やかな青の装飾を施された階段を一つ一つ昇る。


 その時の私は、冒険者登録しにギルドに行った時の比にならない位に、緊張していたのである。

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