第12話 -休日のデート?邪魔者が混ざってました-

「まだ時間に余裕はあるかな……」


 まだ太陽が真上に昇り切っていない午前11時前。俺は矢丘の繁華街にある十字架のモニュメントがある広場にいた。

 他の市と繋がる鉄道も走っている中心街ということもあり、周りを見回すと俺の他にも待ち合わせであろうか人で溢れている状況だった。


 待ち合わせの時間までまだ少しある。

 微かに見える前髪を指先でいじり、再度自分の服装がおかしくないかチェック。

 女の子と休日出掛けるなんて早々ないことなんだ。いつも以上にしっかりしないといけないよな。

 ドキドキする胸の高鳴りを抑えて深呼吸を行う。こんな時まで陽伊奈に考えていることを知られたくないし……


 4月18日の土曜日。俺は高校生になってから初めてとなる女子とのお出掛けイベントに挑もうとしていた。

 相手はもちろん麻衣さん。先日の小テストによる赤点からの補習を二日前の追試にてギリギリだったが何とか突破することが出来た麻衣さんと約束した通り週末である本日、矢丘の街を案内することになっていた。

 案内といえど休日に同じクラスの女子と二人っきり。正直これはもうデートといってもいいんじゃないか?

 真白とは散々出掛けることはあっても同じ歳の女子と休日まで会って出掛けるなんて初めてだしなぁ。何というか、年齢=彼女いない歴の俺にしたらこんなことでも浮かれてしまうわけで。

 まぁ、そうはいっても今日の目的は遊ぶことじゃなかった。そこを履き違えては元も子もないことくらい分かっている。

 麻衣さんの言う街の案内。それは魔女探しが当然含まれている。だからこそ今日は普段遊ぶような場所じゃなく矢丘特有の場所の案内をするつもりだった。


「けど、この街ってあまり目立った珍しい場所ってないんだよなぁ……」


「何がないんですかぁ?」


「何がって珍しい場所――って」


 声がした方に振り替える。まさかもう麻衣さんが来ていたのか!?だが、その予想は全く違う意味で裏切られることとなり、そこには大き目のパーカーを着た――


「なっ……なんで――」


「あはぁ。アタシがいちゃまずかったですかぁ?」


「……(ぱくぱく)」


 ポニーテイルの小柄な少女。森羅がニコニコとした笑顔で立っていた。何でこんなところにいるんだよ……

 突如現れた森羅に対して言葉を失ってしまうも森羅の表情を見るに偶然俺を見つけたんじゃない気がした。

 だからこそ、ここにいる理由を聞こうとしたのだけれど、俺が喋る前に運悪く本来の待ち人たる人物が現れてしまう。


「あ、二人とももういたんだ!遅れてごめんね」


「麻衣さん……?」


「零二君どうしたの?汗びっしょりだけど今日そんなに暑いかな?」


「いや、あの……何で森羅がここにいるの?」


「え?零二君聞いてなかったの!?」


 もう俺が待ち合わせ場所にいることに気付いて小走りでやって来た麻衣さん。いつもと同じ髪型のセミウェットヘアが軽く風に揺れていた。

 ボーダー柄のカットソーの上にデニムジャケットを着こみ、白いプリーツスカートを穿いた麻衣さんは俺だけじゃなく、森羅に対しても声を掛けてくる。何その、さもこれから3人で行こうねっていう感じは。

 何も知らないからこそ思うがまま答えたわけなんだけども、俺の答えにびっくりした麻衣さんがそのまま森羅の方へと振り返る。え?言ってなかったの?っていう目をしてるけどたぶん合ってる気がする。まさか、こいつ……


「あれ~?零二君に言ってませんでしたっけ?あは?」


 あは?じゃねぇよ。絶対に確信犯だろこいつ。


「えーっと……実は佐奈ちゃんから夜に連絡が来たんだけど。ほら、あの時部室でワタシ追試受かったよー!って叫んだじゃない」


「あぁ、うん。合格ギリギリだったみたいだけど」


「それは言わないでよぉ……。んんっ、でね!あの時、佐奈ちゃんには隠してたわけじゃないからこれで土曜日一緒に出掛けれるねって言っちゃったじゃない」


「言ったねぇ。で、それを聞いた森羅が一緒に行きたいと言った訳か?」


「その通りですよ~!夜になってアタシも行きたくなっちゃって。もしかしてアタシお邪魔でした?」


「邪魔つーか、俺にも事前に教えろよ……」


 陽伊奈との件もあるし、極力会いたくないんだよ。


「え、でも佐奈ちゃん自分で零二君に知らせるって言ってなかった?」


「あはぁ。伝え忘れちゃってたみたいです。ごめんなさ~い」


「それ絶対わざとだろ?」


 事前に言うと俺が渋ると分かったから黙ってたに違いない。ったく……


「えっと、佐奈ちゃんも一緒にいいかな?」


「ここまで来て駄目だとは言えないだろ。森羅も街案内に貢献しろよ?」


「さっすが零二君です!もちろん分かってますよ~」


「良かったぁ。じゃぁ、集まって早々だけど移動しよっか?」


「そうだな。とりあえず、周る場所決める為にも近くの店に入ろうぜ」


「うん!」


「りょ~か~い!」


 来てしまったものは仕方がない。森羅が何を考えているか分からないが、この際だ。さすがに麻衣さんの魔女探しの邪魔はしないだろうし、街の案内含め存分に手伝ってもらいますかね。


―――…


――


 どの街にでもあるチェーン店形式のコーヒーショップに入った俺達は空いていたテーブル席へと座り込む。


「昼前なのにそんなの頼んでよく飲めるなぁ」


「え~?美味しいですよ?零二君も一口飲みます?」


「いやいいわ……」


 俺は無難にアイスコーヒー。麻衣さんは抹茶フラペチーノを頼んだのだが、森羅が頼んだのは何だ?バニラだのクリーム、キャラメル、チョコ等既に頭から森羅が何を頼んだのか分からない程の長い名前の奴だった。見るだけで胸やけしそう……


「あはは。ワタシも頼んでみたいな~と思うんだけど、あんなに長いメニュー言うのちょっと恥ずかしくて言えないんだよね」


「え~もったいないですよぉ。今度また一緒に行きましょうよ!!アタシのおススメ教えますから!」


「佐奈ちゃんがいるなら頼んでみようかな。うん、今度お願いね」


「是非是非!もちろん零二君も一緒ですよ?あは?」


「俺もかよ……女子だけで行って来いよ。つか、それよりも、だ。だらだらしてても仕方ないから行先早く決めるぞ」


「は~い。それで何処行くんです?」


「そこなんだが、麻衣さんちょっと聞きたいんだけどさ」


「うん?何かな?何でも聞いていいよ~」


 抹茶フラペチーノのクリーム部分を混ぜていた麻衣さん。意図しての事じゃないと思うけど仕草が可愛いな。

 その点、森羅はあざとすぎて逆に引きそう。ホイップが口に付いてるって指摘した方がいいのだろうか。まぁ、いいや。


「今日のそもそもの目的を聞きたいんだけど、麻衣さんがこの街を知りたい理由って魔女探しの為なんだよね?」


「ん……さすがに言わなくても分かっちゃうよね。……うん。零二君の言う通りかな。ワタシなりにこの街に棲む魔女のことは調べたつもりなんだけど、その居場所も姿も何も分からないんだよね。だけど、ワタシは一歩づつでも先に進まないといけない。だから、ごめんね。街の案内っていっても零二君が言う通り魔女がいそうな場所を知りたいんだ」


「謝ることなんてないさ。実際そうなんじゃないかって思ってたんだし。だから念のために聞いたんだよ」


「あはは、有難う。手伝ってくれるって言ってくれたもんね」


「へぇ。お二人は魔女探しをしたいんですか~」


 俺達の会話に混ざって森羅がさぞ今知ったかのように混ざってくる。どう見ても元から知っていたにしか見えないんだよな。


「その通りだからお前もどこか手がかりになりそうな場所知ってたら教えてくれよな」


「分かりましたぁ。まぁ、そんな簡単に見つかったら苦労しませんけど」


 そもそも陽伊奈が棲むあの乱れ桜が舞う世界は俺達が済む場所とは違う場所だと思う。あそこに入るための条件は分からない。

 実は陽伊奈には内緒で陽伊奈の家に行けないか試したことがあった。陽伊奈に案内された時は矢丘神社の先の何の変哲もない場所で世界が一変した訳なのだが、あの辺りを歩いてみたもののその時は全く移動する気配がなかったのだ。

 まぁ、薄々気が付いてはいたが陽伊奈が棲むあの世界は陽伊奈の許可がないと入ることが出来ない特殊な場所なのだと思う。

 それがどこからでも入ることが出来るのか、最初に案内された場所からしか入ることが出来ないのかは分かっていない状況だった。


「それぐらい分かってるさ。だから今日は麻衣さんに街のことを知ってもらうためにも珍しい場所に行こうと思ってる」


「珍しい、場所ですか?」


「うん。まぁ、自分で言ってそう珍しい場所ってあまりないんだけどね。とりあえず候補は矢丘自然公園とその近くにある鍾乳洞。それと森羅のとこの神社……かねぇ」


「わぁ、鍾乳洞なんてあるんですか!?」


「この時期じゃたぶん寒いと思うけどね。地元の人間にとってはあまり珍しい物ではないかなぁ」


「そうですねぇ。でもいいチョイスなんじゃないですかぁ?アタシは賛成ですよ?」


「よっし、じゃあ自然公園経由で鍾乳洞に行くことにするか。あ、でも……」


「どうしたんですか?」


 店内にある時計を眺める。針はまだ11時半を過ぎた辺りだった。

 ここから数十分程度とはいえ、自然公園は広大な森がトレンドである為かなり広い。


「いや、今から向かってると昼飯どうするかなぁと。公園の中に屋台も幾つかあったはずだけど……」


「ふふふ。それなら大丈夫ですよ?皆の分もお弁当作って来たんです」


「お、ぉぉ……」


「わぁ。さすがまいまいです。用意周到ですねぇ」


 やばい、女子お手製の弁当とか既にワクワクしてきた。


「わぁ、零二君の顔にやけ過ぎですよ?あはぁ。気持ちは分からないでもないですけど」


「あはは。あまり期待しないでね?」


「はは。楽しみにしておくよ。じゃ、お昼は公園の中で食べるとするか」


 残っていたアイスコーヒーを飲み干し立ち上がる。自然公園の中に陽伊奈に関する情報があるとは実際思えないけど、今日は観光だと割り切って案内しないとな。


  ◆◆◆◆


「ふぅ。結構距離あるんだね」


「街の外れだしねぇ。矢丘って他と違って自然を大事にしてる部分が多いんだけど、自然公園は特にそれが色濃く残った場所かなぁ。疲れたなら少し休もうか?」


「ううん、大丈夫。歩くの好きだしまだ大丈夫だよ?」


「隣の川も公園内の湖と繋がっていますし、あと少しだと思いますよ~。まいまい頑張ってください!」


 俺達は自然公園に向かうために河川敷を歩いていた。

 森羅の言葉通り、真横に流れている川は上流へと行けば自然公園内にある湖と繋がっている。


「そういえば、この時期だと丁度桜が咲いている場所は満開なのかもしれないな」


「わぁ!満開の桜見てみたいです!」


「ならお昼はそこにしよっか。たぶん花見で来ている奴等がいっぱいいそうだけど」


「あはは。ならワタシ達も楽しもうよ!」


 花を愛でるのは女子の特権というか、桜の事を話したら明らかにテンションの上がった麻衣さんを見て嬉しく思う。

 見せれることなら陽伊奈が棲むあの乱れ桜を見せたいなぁ。俺から見てもあの景色は素晴らしいと思う。あの世界に昼と夜があるのか分からないが俺が行った時は世界は夜に包まれていた。しかし、周りがはっきり見えるほどに明るく空に大きな月が桜を鮮やかに照らし出していた。まだ未成年だけどあの場所で月と桜を見ながら酒を飲めたら最高なんだろうな。


「お、見えて来たな」


「あそこが自然公園?」


「そそ。入り口に確か観光案内図みたいな奴が置かれてるはずだから持っていくといいよ。というか、持たずに下手に歩くと最悪遭難するから」


「え。そんなに深いの……?」


「深いと言うか普段人が入る場所は問題ないんだけど、森になってる部分ってかなり広いからなぁ」


「だから魔女がいてもおかしくないと思ってるんですよねぇ。でも、一人では入りたくはないですよねぇ。迷っちゃいそうですし」


 正直案内図は人が歩く場所しか書かれてないから迷うときは簡単に迷うんだけどな。


「怖い事言わないでよ~。絶対に一人にしないでよね?」


「分かってるって。ほら、早く行こう」


 俺たち以外にも森に入る人達に混ざって中に入っていく。

 予想はしていたことだったが、公園の中には人で溢れ返っている状況だった。


「あはぁ。人がいっぱいですねぇ」


「たぶんこの辺りと桜が咲いている周囲だけだろうけど。まずはお昼食べる為に桜が咲いてる場所にいくか」


「ふふ。お腹空いたもんね」


「アタシもお腹ぺこぺこですよ~」


 入口にある売店で飲み物を購入した俺達は人々の行列に混ざり、まずは桜を見にいくのだった。

 俺的には桜よりも麻衣さんの弁当目当てなんだけどな。

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