第1話 I have a circuit.

夜になった。

 この自治区の臨海部にあるガレージ「hub」。まだまだ浸透こそしてないが修理してやった客は皆、鼻唄を響かせながら上機嫌で金を積んでいく。まぁまぁ腕は認められてるんじゃないかな。修理師「ハブ」として一儲けしたいもんだ。

 それにこのガレージは人通りが少ないところにあるから凄く静かで寝るには最高だった。仕事も今日は無かったから昼から眠って、夜に起きた。鉄臭さのベットリと染みたベッドから起き上がると、昨日脱ぎ捨てた作業用ツナギを全裸の上から羽織った。オイルとエンジンの燻った焦げのような臭いがツナギから漂った。


 ガレージからサンダルを履き、外へ出た。右ポケットに入っていたキャンディを口に放り込むと、街の仄かな寒さに肩が小さくブルリと震えた。小さな街頭すらないこの自治区は法律のような縛りもない。故に身寄りのない子は危険なのが当たり前だし、ギャングにとっては薬物の取引も当たり前。窃盗すらもな。

 そして俺は昨日、遊び歩いたから修理代金はもう一文もない。そして、腹が減った。

ここまで言えば分かるだろうな。ガスマスクを装着する。

 俺はその場にかがみ、両手を地面につける。左足を後ろに伸ばし、右足の膝を立てると市場に向かって、クラウチングスタートを決めた。

 

 光々と輝く市場の光は恨めしく揺れながら視界を明確にした。

「ヘイ、らっしゃ......」

八百屋のおっさんの前を勢いよく駆け抜けながらトマトを片手に掴み取る。

「いただくぜ。」

おっさんの怒号を後ろに聞きながら、素早く魚屋へと滑り込み丸々と太った青魚を尻尾を掴んで引く。ヌメリで、一瞬手から魚を落としかけたがしっかりと掴み直す。

続いて、精肉店、パン屋、最後にミルクを手に取ると港の方まで駆け抜けた。

 牛乳をグイッとあおると喉に新鮮な甘みとコクが染み渡った。喉を潤し、満足感を得た俺が帰ろうと振り返ると、魚屋のおっさんが300mほど先に見えた。こちらに迫ってくる。まずい。非常にまずい。

「おっさーん!!また盗まれてんぞ!!」

振り返ったおっさんを尻目に裏路地へと体を滑り込ませる。暗い裏路地はいつも身を隠すには最高だ。ジメジメしているところを除けば。

 

 港の方まで走り抜けると、視界に男が飛び込んできた。焦った表情で汗をかきながら目の前に来て俺に衝突した。俺は体格のせいか無傷だし微動だにしなかったが、相手の白衣の男は激しく床を跳ね、険しい目付きで俺を睨んで首を降ろした。

「やべぇ、殺っちゃった?」

男を裏路地へ引き摺り入れると、男の後を「イディア」の野郎共が追っていった。


.......あれ?俺、とんでもないやつ拾っちゃった?

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Disposal @kurozatou55

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