Disposal
@kurozatou55
序章
ジャンクは夜の町を逃げていた。まさしく、脱兎の如くという言葉がふさわしいようなすばしっこさで。
「薬を少し拝借しただけじゃないかっ...!マフィアって連中は!!」
そう、彼が逃げているのはこの自治区で一番大きなマフィア組織『イディロ』である。ジャンクの白衣の白と対比するかのような黒の塊が彼を捕らえまいと後方からついてくる。
そもそも、ジャンクはこの貧相で騒然とした区域に『安楽死専門』の闇医者として趣味の劇薬の扱いを見込まれやってきた。しかし、その趣味が祟ったのであろう、彼はイディロの薬に興味を掻き立てられた。肺を腐敗させるような猛毒性があるにも関わらず、強力な依存性で区の人間を虜にする不思議な『それ』に。
そして、彼はイディロの船に侵入。サンプルを採取して脱出するところを発見され、今に至るといったところである。
「大通りでは直ぐに見つかる。ならば、路地裏は!」
暗闇へと身を翻そうとしたジャンクの目に飛び込んで来たのは、すべてを隠す闇ではなく、ツナギを着た男のオイル臭い雄々しい胸板だった。
「え?」と言葉を放ったのも束の間、ガスマスクにぼさぼさの黒髪にツナギという奇妙な風貌の男に衝突し、身がバネでも入ったかの如く弾け飛んだ。
ジャンクは受け身を取る暇もなく地面に頭を打ち付けた。意識が途切れる間際、ツナギ男の「やべぇ」というガスマスクでくぐもった声が聞こえ、軽率なその口調に殺意を覚えた。ふざけるな、貴様のせいでこちとら人生の終わりだ。
彼が言葉を紡ぐ間もなく意識の糸は完全に切れてしまった。
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