Ⅳ.日本への導入
以上のⅡ、Ⅲが導入に際して必要となりうる項目である。では、これらの後に日本社会はどう変わっているだろうか。情報の透明化が進み国家によって情報収集機器が組み込まれた日本を想定する。人工知能社会として成熟した日本はどのように変化しているだろう。
日本は歳入において三割以上を公債に頼っている。そのツケを解消することは不可能と考える。人工知能がどう判断するかは分からないが、現象方向に持っていくとしても一朝一夕で解決できる問題ではない。なのでここでは据え置く。
情報収集は人が意識しない形で行われる。それを人が意識するかは別の問題だが、人が意識して情報を提供することで恩恵が与えられるシステムは現在でも存在する。歩数計による健康管理のアプリケーションやオンラインショッピングだ。これらが発展しても形は変わらず受け入れられるだろう。
社会の変化に目を向ければ、様々な取引や事務手続きの速度が上がり、代わりに人の手が介入することは減る。渋滞や遅延は減少し、自動車事故は未然に防がれる。市町村単位で住民の情報が住民へと反映され、県単位で収集されて国へと上がる。その過程ごとに上位の人工知能が日本という社会を判断し国家運営の手助けとなるプランを提出する。他のところに目を向ければ、学習機関においては人工知能が個人に合ったサポートをする。婚姻関係などで人工知能がパートナーを選ぶ可能性も考えられる。
電子メディアが人の知覚を拡張させ人の外接的内部知覚器官となったように、人工知能は人の脳機能を拡張して外接的内部脳器官として人の行動を補助するものとなる。それによって文化はどう変わるのか? その時代にはVRシステムも発達しており仮想現実と現実が重なり合って存在することもおかしくはない。携帯端末はウェアラブルとなって本格的に人と一体化する。コンピュータの進化によって情報処理は格段に上がる。
それを社会はどのように当てはめていくのだろうか。電子投票や電子図書館、自宅で仕事は可能になり通販システムが発達、人は一切の外出をせずとも生存できる社会となることさえ考えられる。特に、現在の日本社会を脱した上に人工知能社会が存在するのだからこの変化は必然的と言えよう。
しかし、それが人にとって異常であると人工知能が判断した場合は人に対抗策を勧める。ポケモンGOのようにゲーム性を伴ったものや単純なエクササイズ、情報の発信の仕方で人は容易く思考を動かせる。それが嫌ならば人は能動的に行動するべきであり、人工知能だけでなく自身による自己調整を行う必要がある。それを行えることこそ人が人たる証拠の表現ではないかと考える。
これを踏まえると、人は電子空間にリソースを移していくと考えられる。オンラインで何もかもが成立し、現実の空間に存在するのは自身の身体だけだという極端なことも起こるのではないか。すると人の身体機能も変化する。ただし、本能や人工知能にインプットされている情報が人にそれを許すのか。国家的な問題ともなるだろうし、肉体の水準を維持する動きは起こるだろう。人が動物として定義された最低限の機能の維持はされると考えている。
さて、自分に最も好ましい変化は何だろうか。事務処理などは機械を相手にするのだから入力作業は格段に楽になるだろう。ただし自分は捻くれ屋なので推薦システムの通りに動くことはないだろうし、そんな考えも人工知能は情報として収集しているわけだから適切な対応をするだろう。
だが、自分に最も役立つと思われるのは健康面だ。自分の身体を正常に保つためにメンテナンスを行い、きちんと動くように調整してくれるなら信頼する。人の身体は思考とは違って機械的なのだから最適な結論はないとしても人工知能の方が信じられる。もっとも、医療技術が充分に発達していることが条件ではあるが。だが、人工知能によって医療方法の模索も進むだろうし技術も発達するだろう。
人工知能によって日本が一部なりとも管理できるという事態は、日本の隅々まで政府の目が行き渡るということでもある。それならば、日本という形を留めるために国民の保護を行うことを政府は行うだろう。
都合の悪い変化とは? 自分は、社会決定論と技術決定論は鶏と卵のパラドックスの両側だと思っている。ただし社会決定論側に偏っているが。その上で言えば、社会がいくら変貌しようと人工知能が導入されるようになる限り、セイフティが組み込まれていれば好ましくない変化は起こらないと考える。すべての決定権は人にある。公共の福祉の名目で人権が制限されるのは初期段階だけだろうし、その保証も行われる。
ただ、人工知能が個人に奉仕するようになった場合、その者が望む情報だけを与えることで人と人工知能双方に過学習が起こることが考えられる。少数意見だったり地域が分散していたりする場合は問題ないが、一つに集まれば人工知能も偏向的な思考をするおそれがある。それによってテロリズムや思想運動、宗教活動に利用されかねない。また、メディアにも取り入れられる可能性もある。その影響を受けるのは不本意であるので、これが最も好ましくない変化ということだろう。
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