Ⅲ.導入問題
人工知能を導入するとして、構想から普及、常用に至るまでにはかなりの時間がかかるものと思われる。そのため、政権の変化によって状況が変わるのは避けなくてはならない。官民共同による開発はここに主眼が置かれる。最も懸念すべきことは政権や情勢の変化によって予算が削られることだ。
従って、問題の解決には、①少数による安定した長期政権をとること、②一定の期間にわたって人工知能の運営が可能な環境であること、③予算が潤沢であること、④常に人工知能を開発し続ける技術があること、が必要である。
上記のような日本はどのような状態であるのか。人工知能の導入を加味しないとなると、自然災害の発生しない自民党政権下、というのがこれまでの近代日本で最も近いだろう。最も適合するのは小泉政権だろうか。それは置いておく。だが、安定した一つの政権が必要というのは間違いないだろう。
ただし、現在でも医療の現場では人工知能による画像診断が行われており、人以上の能力を発揮する場もある。女子高生AIりんなやSiriなど受け入れられているものもある。人が気づいていない、もしくは人の業務だと判断していたものでも人工知能が担っているものはある。
ではシンガポールと日本の比較である。日本の政権は自民党が与党であり、今回の参院選で明確になったように野党への評価は低い。しかし与党・野党双方の政権は安定しておらず、党内分裂も起こり得る。このような状況では、人工知能の導入が与党から提案されたところで即座に建設的な議論へと発展するとは思えない。
導入のための資金も問題である。平成28年度における国家予算は約96.7兆円であるが(http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/002.htm)、そのうちの主なIT関連項目(下1表)の総計は534.2億円であり、全体の0.05%ほどである。導入するとなれば予算は文教及び科学振興費、あるいは公共事業や社会保障費から出るだろう。ただ、それにともなって他の歳出が削られ、他分野に補償が行き届かないこともあるだろうが。それに、年間ごとに人工知能のメンテナンス費用と管理費用も発生してくる。その歳出を賄えるだけの変化が人工知能の導入で訪れるのだろうか。それか、変化が起こるような人工知能の導入方法をするのか。
主となる開発者はどの組織か。国家事業であるので最上位には国家的機関が存在すべきだが、官民主導で行うべきだろう。現在、AIやIoTに取り組んでいるものとしては高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)と国立研究開発法人である産業技術総合研究所(AIST)と理化学研究所が存在する。これらに加え民間企業の参入を図ることが必須である。
また、シンガポールは海外企業を積極的に誘致しており日本もGoogleなどの海外企業と提携することが求められる。特にデータ収集において日本は海外のものに頼っているため、積極的な関与を求めるべきである。
表は2016年度予算概算要求における主なIT関連項目である。
(http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/346926/091800344/)
これによればシンガポールと同じ用途での導入は経済産業省と文部科学省が最も近い。マイナンバーに関連した項目は今後縮小していくだろうが、他は増やしていかなければならない。
上述したようにシンガポールは公営住宅で情報収集が行えるが、日本で同じことをしようとすれば多額の支出が必要だろう。建設会社と提携する方法はあるが、現在建てられている建築物には適用できない。特別法案を出して国会で可決させるか。公共の福祉として行動を起こしてもいい。もちろん、いきなりそんなことをすれば野党の総辞職に続き国民投票でも次の政権をとれなくなるだろう。では何をすればいいのか。国民の理解を得ることが最優先事項である。
求められるのは情報の透明性である。それと、マスコミがどのように政府の提案を発表するかである。マスメディアの発表と発表する内容は異なる。テレビ朝日が恣意的に報道を真逆に伝達したように(後に訂正をしたが)、日本の報道は放送局の自由によるところが大きい。メディアが情報を改変する悪例だ。都知事選挙でも候補者を同列に取り扱わず、国会中継の不自然な終わり方やその後の報道など、平等性には大きく疑問が残る。新聞も新聞ごとに同じ事項を異なった切り口から説明している。
それが社説ならまだいい。問題は、放送・報道において事実を誤認させる表現が見受けられることである。国民が複数のメディアから偏向を読み取り、検索を合わせて一次情報を能動的に知ろうとしなければならない状況が発生する。日本の場合、情報そのものに対しメディアが自身の情報を付け加える要素が大きくなっている。報道する自由と報道しない自由、自由な意見は異なる。情報を開示するのは国民のためであり、国民が正しい情報と認識を得ることに意味がある。
放送法より抜粋
(目的)
第一条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。
つまるところ放送には偏向があってはならない。自社の見解を加えることはあれども、事実に対して各放送局で異なる事実があってはならないのである。これは見解にあっても同様と考える。見解を示す場合はその事実すべてに対して検証を行うべきである。シンガポールにおいて、公的発表はすべて、改変はおろか恣意的な意見の追加も許されず国民に報道される。違反すれば法律によって罰せられる。政府圧力と見ることもできるが、日本の放送法と理念は変わるだろうか。それにインターネット上での発言は自由である。
現在はSNSやインターネットによるメディアがその補填をしているが、能動的に動き自ら情報収集と選別を行わない限り、またそのためのリテラシーを持たない限り望む情報は手に入らない。しかも、選別を行っているので自らが偏向するかもしれない。そのような偏向が続けば人工知能に対しても正しい知識が得られないかもしれないし、人工知能が偏向する可能性もある。それは人工知能が導入された後も考え得る問題であるため後述する。
話を変える。日本が人工知能を国家運営へと導入する場合、人の脳をモデルとした人工知能が主流として挙げられるだろう。現在AISTが開発している(http://www.aist.go.jp/aist_j/dept/dithf.html)人工知能であり、より人に近い判断を下せるものと推測している。さらに人工知能を動かすコンピュータは量子コンピュータが望ましいと考える。現在のノイマン式コンピュータでは日本全土に京を超えるスーパーコンピュータを配置することは不可能だろう。そのためにはこれまで以上の技術の発達が必要である。
導入された人工知能を運用するにあたり、どの程度の普及率か、何の目的で運用するのかを細かく設定しなければならない。もし日本国民全体が人工知能による恩恵を享受する社会の場合、人工知能が制度として組み込まれてからそれなりの期間が経過していると考えられる。その場合、人は人工知能が存在する状況を多少なりとも受け入れているのであるだろう。そこには人工知能に対する信頼があると言っていい。
導入された当初の第一次世代は抵抗があるかもしれないが、パソコンが導入されスマホが万人に受け入れられていることを見ると、人の適応力は高いものと思われる。デジタルネイティブという言葉が生み出されているようにAIネイティブが誕生する可能性は高い。その世代にとって人工知能は忌避すべきものではなく道具として利用するものである。
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