第4話

 ちゃんとストーリーがある、私以外の攻略対象者は四人。

 平日決まった曜日に特定の攻略キャラとデートをすると、好感度が上がりやすい仕様になっている。

 私は金曜日に好感度が上がりやすいキャラで、思い起こせばいつもデートは金曜日だった。

 人を金曜日の女にしやがって……許せない!


 胸がチクリと痛んだが今はそんなことを気にするより、やれることをやろう。

 沈んでしまいそうになる心を奮い立たせ、行動した私だったが――。


 私の乙女心は見事に打ち砕かれる結果になった。


「神楽坂葵め……絶対ハーレム目指してやがる……!!」


 行動を監視したのは、全てのキャラの好感度が上がりやすい日曜日。

 好感度パラメーターの調節には重要な日と言える。

 朝から彼の家の前で張り込み、後をつけ回して目撃した光景に絶句した。


 接触女性数:三人。

 攻略対象者二人。デート要員一人。


 午前中から攻略対象者の子と映画を見て、ランチを一緒に食べたのを見た。

 お洒落なカフェで、映えるランチを食べてとても楽しそうだった。

 だが、食べ終わると分かれたので、案外あっさりしているなと思っていると、すぐにデート要員の子と合流。

 二時間ほどショッピングを楽しみ、夕方から朝とは別の攻略対象者の子と遊園地のナイトイベントを楽しんでいた

 追跡するために遊園地のチケットを買った私の気持ちを考えて。

 メリーゴーランドとか、コーピーカップとか……。

 イチャイチャしながら乗っていましたね、クソが!


 そして、当たり前のように、全員と手を繋いでいた。

 もはや私は虚無である。

 二人の攻略対象者の空き時間をデート要員で埋める徹底っぷり、天晴れである。


「おめでとう、ゲス認定です~!!」


 ここまでくると見事で拍手をしてしまった。


 ナイトイベントが終り、攻略キャラの子と別れ、一日楽しんだとホクホクしながら帰って行くゲスの背中が見える。

 暗闇に隠れつつ、私はそれを見送っている。

 思っていた以上に最低最悪だった。

 女の敵、と言っていいだろう。


「私の純情を……女心を踏みにじりやがって!」


 許せない……絶対に許せない、許せない!

 私の中で先輩への恋心は死んだ。

 完全にお亡くなりになった。喪中である!!


「この恨み、晴らさでおくべきか……」


 握った拳が怒りで震える。

 唇も強く噛みすぎて、血が出ているかもしれない。

 視線で刺し殺すことが出来たらいいのにと睨んでいると、驚くべき呟きが彼の口から漏れた。


「……あれ……あれ!? 黄衣たんの好感度が……消えてる!?」


 自分の名前を呼ばれ、尾行がバレたのかと焦ったが、そうではないようだ。

 ……というか、今「黄衣たん」って言った!?


 う、うわあああ……!

 一瞬で怒りが悪寒に変わり、全身にゾゾゾと鳥肌が立った。

「たん」呼びきついよ~!

 裏でずっとそう呼ばれていたのかと思うと、更にゾッとした。


 悪寒に震えながらも、身を隠しつつ奴に目を向ける。

 クズはまだ街灯の下で立ち尽くしている。


「な、なんでだ!? パラメーターはMAXになっていたはずなのに! 分岐も間違えてないはずなのに……! 台詞、間違えなかったよな!? 黄衣の好きなものも合っている!」


 スマホを見ながら、こういうことを言っている、ということは……。

『私の好感度』や攻略情報をスマホでみることができる、ということだろう。

 そして、『分岐』や『台詞』という言葉を使っているということは、最悪の予想が当たって、ゲームのように私達を攻略していたということに違いない。


 私達に言っていた言葉は、スマホから得た情報だった?

『あなたの本心の言葉』じゃなかったの?


 手作りのお菓子を「美味しい」と言ってくれたのも、頑張っていることを褒めてくれたのも、間違ったことを叱ってくれたのも、可愛いといってくれたのも、全てあなたの『言葉』ではなかったの?

 『攻略情報』を、そのまま口にしただけだった?


「……ははっ、思い通りに動く私を見て、きっと思っていたのだろうな。『チョロい』って……」


 真面目に恋愛していた自分が馬鹿らしくて、目頭が熱くなってきた。

 でも、ここでは泣きたくない。

 あのクズに気づかれたくない。

 だから、私の前から早く消えて!


 電柱の陰でしゃがみ込み、先輩がいなくなるのを待つ。

 遠ざかる足音を聞きながら、泣いてしまわないように呼吸も止めた。


「…………」


 暫くすると気配が消えた。

 もう、誰もいないだろう。

 立ち上がり、家路を必死に駆ける。


「……うっ」


 暗い夜道に人の姿はない、誰もいない。

 それが分かると、堪えていたものが溢れだした。

 それでも、全てを解放してしまわないように我慢しながら進む。

 口を押さえても嗚咽は漏れてしまうけれど……拭っても拭っても、涙は止まらないけど……緩めちゃ駄目だ。

 自分の部屋に入るまでは……!


 絶対に許さないわ、神楽坂葵。

 お前の好きにはさせない。


 何が運命の羽だ。

 あんなもの、不幸の羽だ。

 ハーレムなんて、私がぶっ壊してやる!!!!

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