第3話
「ツインテールとか! 高校生になってツインテールとかっ!」
自分の部屋に飛び込み、ベッドの上に勢いよく倒れた。
転生したらギャルゲーの攻略対象になっていたことに混乱しているのもあるが……。
今はとにかく、羞恥心に耐えられず死にそうだ!
前世の私の感覚では、高校生でツインテールは恥ずかしすぎる!
「ああ、もう……やってられない~!!」
愚痴を零しながら机の上の手鏡に手を伸ばした。
起き上がればすぐに取れるのに、横着をしてベッドに横になったまま苦労して取った手鏡には、いつもの自分が映っている。
人懐っこい妹タイプの下級生、鳥井田黄衣。
金髪ツインテールに蒼色の瞳。
一年生カラーである緑のリボンネクタイに、ベージュの袖の長いカーディガン。
それが『攻略対象キャラクター』である今の私だ。
「ふんっ!」
髪を結んでいる細いリボンを引き千切る。
ツインテールだなんて、ランドセルとともに卒業するものだ!
頭をガシガシと掻きむしりながら、頭の中を整理する。
「ここ……ギャルゲー『花園学園 ~運命の出会い~』の世界だ」
ギャルゲーといっても、正しく言うと『スマートフォン向けソーシャルゲーム』だ。
学園生活を通して女の子達と仲良くなっていくストーリーを楽しむゲームである。
登場キャラクターとなる女の子は五十人と多いが、ストーリーモードがある攻略対象者は五人。私はそのうちの一人だ。
ストーリーがない女の子達は、『校内散策モード』というストーリーモードとは別のところで登場し、仲良くなると『女の子辞典』に掲載され、デートをしている小話が読めるようになる『デート要員』だった。
面白くてかなりやりこんだ前世の私は、この辞典をコンプリートしていた。
前世でも女子だった私が、何故ギャルゲーに嵌まったのかというと、それはこのゲームの『女性向け版』から流れてきたからだ。
女性向け版は、登場するキャラクターが女の子から男の子に変わっただけ。
ストーリーが五人、登場キャラクターは五十人とシステムは同じである。
同じ構造の『ギャルゲ―』と『乙女ゲー』、と言えば分かりやすいだろうか。
乙女ゲーが好きだった私は、最初は女性向けの花園学園をしていた。
一年ほど女性向け花園学園に没頭して遊び尽くした私は、今度は男性向けのギャルゲーに手を伸ばしたのだ。
女性向けとどう違うのか、男の子はどういうものに萌えているのか、と興味が湧いたからだ。
プレイしてみると面白かった。
そんな女子いないよ! というツッコミは常にあったけれど、それは乙女ゲーでも言えることなのでお互い様だ。
色んな面白さを感じながら、かなり没頭したのでよく憶えている。
今の私である『鳥井田黄衣』はあざとい妹タイプで、恥じらいながらも『あなたが好き!』というのをアピールする子だった。
良く顔を赤らめ、「かっこいい」や「素敵」を連発し、好意を聞こえる声で言っておきながら「聞こえちゃった!? 私ったら! 恥ずかしいですっ」が常套手段な子だった。
カーディガンの長い袖からちょこんと出た指にもあざとさが滲み出ていた。
……さっきまでの私がそうでした。
「無理~! 『私』が無理すぎる~!」
両手で挟むように頭を殴る。
このまま記憶も飛んでくれたらいいのに!
だが無情なことに昨日までの愚行は黒歴史として、私の脳と心に深く刻まれてしまった……。
一生忘れないと思った『素敵な思い出』も、ただの悪夢でしかない。
「ジーザス……」
思わず天を仰ぐ――。
きっと本当に死ぬまで消えることはないだろう……消えたい!
……でも、昨日までの私も確かに『私』だ。
どうして生まれ変わっているのかはさっぱり分からないが、確かに私は十六年間『鳥井田黄衣』として生きてきた。
両親も友達も、周りの環境も鳥井田黄衣として築いてきたものだ。
先輩への恋心も、確かに私のものだった。
先輩の何気ない仕草や一言に一喜一憂し、育んできた私の一部だった。
けれど……私は気づいてしまった。
「恋は盲目」と言うが、昨日までの自分には見えていなかったことが……。
「先輩……なんてクズなんだ……」
『主人公』である神楽坂葵は、『私以外の攻略対象者』とも親密な関係を築いている!
彼女たちの持ち物や態度、言葉から、攻略キャラの全員が『付き合う手前』の状態だと悟った。
恐らく、みんなから告白待ちになっていると思う。
実際、私はしようとしたね!
ゲームでは一週目で攻略——つまり付き合える女の子は一人だ。
でも二週目では、一週目で攻略したキャラ+もう一人攻略することができるようになる。
つまり、二股ができるというわけだ。
三週目では一、二週目で攻略したキャラ+1で三股。
四週目では四股。
最終的には五股——『ハーレム』を完成させることができる。
今の神楽坂先輩の状態は、どう考えてもこれと同じだ。
現実に五股しようとしているのだ。
ゲスい。ゲームでもゲスいと思うが、現実だとエグい。
二次元に帰れ!! と言いたくなるエグさだ。
「とんだクズに初恋してしまった……」
彼はナチュラルに五股している生粋のクズなのだろうか。
もしくは……。
「私のように転生していて、ゲームの記憶があるから攻略している、とか?」
どちらにしても、傷ついた私の心が癒えることはないけれど……。
「……『ゲームキャラ』として攻略されていた方がつらいかも」
今後彼とは関わりたくないと思っていたけれど、どちらなのか気になる。
それに、ほんの少しだけ……「ハーレムだなんて私の勘違いかも」なんて、彼を信じたい気持ちがある。
だから……。
「確かめよう」
どうか、何かの間違いでありますように……。
望みは薄いかもしれないけれど、そう祈らずにはいられなかった。
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