第10話 TRUE WISH

俺は数分走った先で彼女、時貞摩耶を視認した。


「時貞摩耶!」


俺は声を切らしながらも彼女の名を叫び続けた。


「あなたは!」


彼女は振り向き、俺に対応する。


彼女が歩いている先からキラリと光るものが見えた。銃口か?


「伏せろ!」


俺は叫んだが、おそらく彼女は伏せる動作をしないだろう。なら!


「うおおおおおおおおおおお!」


俺は今持てるだけの力を振り絞り、彼女に突進した。


それはまるでラグビーのタックルのような風にも見えたかもしれない。


どしっ!重い音が響く。


「痛い!」


俺と彼女、2人の体重が地面にのしかかる。それと同時の銃声が空気を切り裂いた。


「何をするんですの?」


彼女の反応は至極当然のものであった。


「ワケは後で話す!今は俺と付いてきてほしい!」


俺は彼女を立ち上げ、手を握り、銃口がこちらを向ける前に走った。


「三日月さん?一体何を?」


「君は狙われているんだ!俺が元いた組織に!奴らはもうなりふり構わない!君の命を奪うためなら!」


俺は走りながらも必死に説明した。


「僕は何があっても君を守り抜く!俺はもう君の亡骸を見るのはごめんなんだ!」


彼女は困惑していた。そりゃそうだ。俺が何を言っているかわからないだろう。


走った先の廃工場に侵入する。


「ここまで来れば安全・・・・・・とは言えないが今までの経験からここが1番無難な場所なんだ。何を言っているかはわからないだろうが。」


俺の言っている言葉は彼女にとっては何を言っているかわからないだろう。でも俺は今俺にしか出来ない事をしているつもりだった。


「ええ。信じられないわ。」


やっぱりな。彼女の返答は俺が彼女の立場でも同じ事を答えるはずだ。


「でも、」


彼女は言葉を続けた。


「私はあなたの事を、あなたの曇りなき純粋な目を信じますわ。」


彼女は俺の手を強くぎゅっと握り締めた。


「ありがとう。」


今思えば彼女、時貞摩耶にも初めて感謝の言葉を述べたかもしれない。


廃工場に多くの車両が停車した。何故ここに、どのような奴らが来たのかはわかっていた。組織の奴らだ。あまりにも彼女の殺害にミスをしまくり業を煮やしたのだろう。総戦力と呼べるだけの人数を用意してきた。


「君は逃げて。」


俺は彼女の握った手を放した。


彼女は頷き、その場を離れ、走り去った。ここから先は一方通行だ。彼女が巻き込まれる事はないだろう。だが彼女もこの状況に何かを感じ取ったのだろう。


「生きて、帰って来てください。私はあなたと話したい事があります。」


とそう言い残し去っていったのだ。


多くの車両から車両の4倍以上の人数の武装した人間が降りてきた。


体が震える。武者震いというやつだろうか。身体が逃げろと叫んでいる。だが逃げる訳には行かない。ここで退く訳にはいかないのだ。ディクテイターの残りの弾数に余裕はない。だが、それでもやるしかない。


「俺は、生きる!」








音がうるさかった。何か機械の電子音が鳴り響いていた。


あまりにも重すぎる眼を持ち上げる。広がった世界はどこかの部屋の天井であろうか。自分の体が仰向けになっている。そして今いる場所はおそらく新築ではない。なぜならシミが多く見受けられたからである。


「俺は・・・・・・・?」


自分の瞳から見える世界を少し広げてみる。少し首を落とし、手を見つめる。


手は包帯で巻かれていた。そして息をするたびに自分の息が跳ね返ってくるような感覚がした。酸素マスクでも付けられているのだろう。口に違和感があったからおおかた間違いはない。


「三日月さん!」


どこからか声がした。女性の声だ。三日月とは誰の事だろう。


ダダダ!と走る音がする。声の主は髪の長い少女であった。


「無事だったんですね!三日月さん!」


髪の長い少女は三日月と言いながら俺を抱きしめたのだ。


「三日月・・・・・・?何を言っているんだ?」


俺にはわからなかった。何が起こっているのか。そしてふと思い浮かぶ。



俺は一体何者なんだ・・・・・・・?


「三日月さん・・・・・・、もしかしてあなた、記憶が・・・・・・・?」


記憶・・・・・・・?確かに何も思い出せなかった。だけど二つ、覚えていることがあった。


目の前にいる少女とその少女の名を。


「時貞摩耶、俺が今思い浮かんだ名前です。俺が今分かる全ての情報です。」


俺がそう言うと彼女は俺のことをもう一度強く抱きしめた。





俺が目覚めて数週間が経った。


どこか後遺症を遺したようで車椅子による生活を余儀なくされた。


彼女は俺に何があったのか聞くが俺は記憶をゆっくりと思い出している途中であった。

組織の事は思い出した。が、彼女は「あなたのおかげで組織が壊滅したんです。」と言っていたが俺は記憶を思い出せないため、とんちんかんな事を言っているようにしか思えなかった。


だが強烈な事を覚えていた。激しい銃撃戦のことだ。廃工場で俺は銃を手に持ち、銃撃戦を行なっていたのだ。


そしてもう一つ思い出した。銃撃戦を終えた後、生き残れば彼女に伝えたいことがあったのだ。そのために彼女を呼び出す。なんでもない事なのに緊張が止まらない。


「ずっと君に伝えたい事、いや、伝えなきゃいけない事があったんだ。」


「ええ。なんですか?」


「好きです。」


俺は言葉を伝えた。告白でもなんでもない。ただの宣言だ。


「ええ。知っています。」


彼女はにっこり笑ってそう答えた。そういえば昔から彼女には全てを見破られている、そんな感覚も思い出した。


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純粋なる願い 山本友樹 @yamaki

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