第9話 終わりの始まり。

対策はもう済ました。もう何度も同じ事を繰り返した。もうごめんだ。好きな人が死ぬのは見たくない。


「これで終わりにする。」


俺は腕時計で時刻を確認する。事件が起こる5時間前。最高の時間だ。これだけの時間があれば次こそは彼女を助けられる。


メモ帳を開く。これまで組織の奴らがどの配置にどのメンバーを置き、彼女を殺害してきたかが記されていた。その地点に先回りしてメンバーを殺害する。


手持ちの銃のディクテイターの残弾を確認する。・・・・・・・いける。確信に変わった。


まず第一の地点を確認する。ここから遠くないマンションの7階の2号室だ。スナイパーで彼女を殺害した。13回目でのタイムリープのことであった。


7階にたどり着く。メンバーがたどり着くまでに先回りすることに成功した。ピッキングで鍵を開ける。


部屋の中で隠れるということはしなかった。数分後、スナイパーを持ったメンバーが侵入してきた。


あとは簡単であった。ディクテイターの引き金を引くだけであった。


数秒後には侵入してきた男は肉塊へと変貌していた。


次だ。


そしてそこから数件ほど先に潰しておいた。前のタイムリープで仕掛けてそのまま放置されていたトラップ(簡易的なプラスチック爆弾等)もうまく作動し、難なく事は進んでいた。


時刻を確認する。残り35分。このまま行けば全てが解決する。が、余裕を見せているほどではなかった。


俺は走った。あとは彼女の身柄を確保すれば全てがうまくいくのだ。


そう思いながら走っている途中であった。人影のない裏路地であった。


銃弾が俺の顔をかすめた。


「!」


内ポケットに忍ばせていたディクテイターを手に取り、俺は警戒態勢に入る。


「悠也ァ・・・・・・。久しぶりじゃねえか。」


後ろから声が聞こえて振り返る。組織のメンバーが10人ほど首を揃えてそこにいたのだ。


「お前、しばらく見ないうちに生意気な面になったな。」


メンバーの1人がせせら笑うように言う。


「何故俺の場所がわかった!」


過去のタイムリープでこのような事は1度も起こらなかった。組織のメンバーが俺を撃退しにくるなんてことは。


「なんてこたァねえよ。今日1日で殺された奴らの遺体に残った薬莢がお前の持っているディクテイターと弾と一致した。場所は俺の仲間が死ぬ時に決死の覚悟でオメエに発信機をつけたんだよ。それでわかった。なんてことないだろ?」


なんてことだ。手を少しまさぐる。そうすると触りなれない2ミリ程度の金属片があった。だが、ここで地団駄踏んでいる暇はない。


俺は逃げた。今までは一対一で、予測出来ていたから勝つことができた。だが今回は根底から違う。


ここ数時間の間息付く間もなく動いてきたツケが回ってきたのだろう。体が悲鳴をあげていた。


裏路上に銃声が鳴り響く。銃弾が弾け、物が破壊されていくのが分かる。


体が悲鳴をあげようが何が起ころうが俺は走り続けた。


角を曲がり、なんとか撒くことには成功した。が、壁が立ち塞がった。8mほどのそれは飛び越えるには時間がかかり、そのあいだに組織の奴らに見つかってしまう!


「クソッ!こんなところで終わりか・・・・・・!」


俺は絶望した。顔を下に向ける。


その時だった。


「そこの君!このロープをつたって!」


壁の上から女性の声が聞こえた。ビルの影が彼女の顔を隠し、見えなかった。


そして壁の上から1本のロープが降ってきた。まるで一筋の救いを求める蜘蛛の糸のように。


俺はそのロープにすがった。


すがったのを確認したのか引き上げが始まった。


なんとか何事もなく、壁を超える。


8mの壁から飛び降り、息を切らしながらも地面に着く。


「助かった・・・・・・。ありがとう」


そう言い、俺は顔をあげる。


「君は・・・・・・!」


俺は驚いた。なぜこいつがいるのかは分からなかった。


「フィフィ・・・・・・!」


俺はその少女を見間違うはずが無かった。


「何故だ!何故君がここにいる!」


俺は彼女の肩を揺らした。だが、その肩には少し違和感があった。俺の知っているフィフィよりも肩幅が狭い、少し幼さを感じたのだ。


「な、何よいきなり・・・・・・!」


彼女は俺の事をわかっていないようであった。それもそうかもしれない。俺はタイムリープしてきたのだ。そりゃ知らないのも当たり前かもしれない。


「いや、いいんだ。ありがとう。」


俺は2度目の感謝の言葉を残して俺は去った。そういえば彼女は俺に「私は妖精だ」というような事を。そしてもう一つ気になった事があった「何故俺を助けたのか」ということだ。いやそんな事はもうどうでもいい。今はもう今起きた事だけを噛み締めて彼女を助けにいかなくては行けない。


俺は走った。ただがむしゃらに走った。足がちぎれそうだとかそんなものはどうだっていい。俺は彼女を助ける。それだけであった。その純粋な願いのためだけに俺は走った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る