第8話 time

それから何度も失敗した。彼女は何度も凶弾に倒れていった。時には刃物で彼女が抉られていくところも見た。


「またここに戻ってきたのか。」


戻ってくるたびに同じ事を言っている気がする。


「チケットをよこせ。」


この言葉も何度言ったことだろうか。


そしていつも通りにチケットがもらえるはずであった。が、彼女の答えはいつもとは違った。



「もうあなたにチケットを渡せないの・・・・・・。」


俺には何を言っているかわからなかった。


「バカを言っている場合じゃない。さっさとよこせ。」


俺は彼女からチケットを奪い取ろうとする。が、彼女はチケットを持ってはいなかった。


「なぜだ・・・・・・。何故チケットを持っていない?」


「だからチケットはもうないの。チケットの枚数はあなたの寿命に関係なく、枚数に限りがあるのよ。」


その言葉を聞いた瞬間俺はフィフィの胸ぐらを掴んでいた。


「今更そんな事が聞けるかよ・・・・・・・!」


俺はあまり感情を押し出すタイプではないと思っていたが今このとき怒りという怒りが滲み出ていた。焦りと自分へのやるせなさ、その他もろもろが積もり積もって今この瞬間をもって吐き出していたのだと思う。


「はやくチケットをだせ!チケット!バカやってる場合じゃないんだぞ!」


「いや・・・・・・。1枚あったわ。」


フィフィの顔色が変わった。


「本当か?なら早く・・・・・・」


俺は催促するように手を伸ばしたが彼女はいつも通りにチケットを渡してはくれなかった。


「今までは君の寿命を1年削ってタイムリープしてきたが、今私が持っているチケットは寿命を5年削って君をタイムリープさせることになるんだ・・・・・・・。」


フィフィの言葉は進むほど言葉が重くなっていたが、俺には関係無かった。


「だったらどうした?さっさとチケットをよこせ」


俺は迷わなかった。


「ねえ?なんでそこまで彼女が大切なの?」


彼女の質問はいきなりであった。感情も激情するかのように変わっていった。


「ああ。大切だ。俺の命なんかより何倍も、何十倍も価値有る命だ。」


俺がそう言い放った瞬間、俺の頬に強烈な何かが走った。


「いい加減にしてよ!」


フィフィの言葉と共に気づいた。フィフィは俺の頬をぶったのだ。


「あなたはあなただけの命じゃないの!あなたはこれからも続いてく命の連鎖の一つを担わなきゃいけないの!」


これまでのフィフィの言葉はどこか自分勝手で俺のことなんてあくまで他人、そして俺自身を面白がってるようにも見えたのだ。それが今になって感情的になっているのである。


「いきなりどうしたんだ・・・・・・・。」


俺は困惑した。


「あたしだって平気でチケット渡してないわよ!このチケットを渡すたびにあなたが1年死んでいくのよ?分かる?この重さが?」


彼女はこれまで抑えていた感情が爆発したように俺に言葉を押し付けてきた。


「・・・・・・・。」


俺は黙り込むしかなかった。


「そしてこのチケット1枚を使い切ればあなたは・・・・・・・あなたの寿命は・・・・・・!」


フィフィは言葉を言い終えることなく、号泣し始めた。


「すまない。それでも俺はいかなければならないんだ。」


俺は彼女のポケットからからチケットを取り上げた。


チケットはいつものように表示が切り替わっていく。


俺の体は光に包まれていき、タイムリープが始まる。


「ありがとう。」


俺はここまでしてもらったのに感謝の言葉すら述べていなかった。今更ながらこういう時でないと感謝の言葉が出ないというのは人間の心理なのかもしれない。


俺は光となって消えていった。救いたいものを救うために。




「うう・・・・・・うう・・・・・・」


彼女は泣いた。こうなるくらいならはじめからしなければよかったと後悔すら覚えた。


「私もタイムリープしてきたのに・・・・・・!あなたを救えなかった・・・・・・!ごめんなさい・・・・・・!」


私はポケットに入ってあるペンダントを取り出す。そこには1枚の写真が貼られていた。病院の病室のベッドで寝ている1人の男性の写真だった。



「でもあなたは言ったわね。<俺の選んだ事に俺が後悔しない選択だったのなら多分それが最良の選択だったんだと思う。だから気にやまないでくれ>って。」


「あなた」と思い浮かべた1人の青年の顔が浮かぶ。それは写真の青年だった。


「ごめんなさい・・・・・・。あなた・・・・・・。」


その写真の青年の名は三日月悠也。先ほどタイムリープを見送った少年であった。


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