第5話 始まりⅢ
俺は彼女と分かり合えた。それだけで十分だった。そして彼女に呑み込まれそうになってしまった。
あの透き通るような瞳。ドキドキした。そんな彼女を殺すには俺には出来なかった。
俺は焦るように組織の幹部と連絡を取った。
「俺たちは戦ってはいけないんだ。相手にも分かり合う準備はできてるハズなんだ。これ以上血を流し合う必要はない。」
俺はその旨をはっきりと伝えた。が、幹部の人間の回答は冷淡なものだった。
「やつらが滅びるまで戦い続ける!」
おそらく今までならこのセリフを聞いて戦意高揚していたのだろうが今は違う。彼女のために俺は戦う。銃を持たずに。
「お前・・・・・・・あの女に何か吹き込まれたな?」
電話越しに聞こえるその声は人に恐怖を与える声色であった。何度も聞いた声だが今はただ畏怖を抱き、生命の危険すら感じる音であった。
「俺は彼女に出会って変わりました。もう俺は人が死ぬのも、殺すのもごめんなんだ!」
この言葉の回答に電話からは笑い声と電話越しからも殺気を感じた。
俺は怖くなり、電話を切った。
これで繋がり切れるとは思わなかった。だがしかし、俺にとって新たなスタートになると思っていた。今までの俺はあまりにも悲しすぎる存在であった。
数日が経った。俺はふと街に出てみることにした。彼女に会いにいく為に。
この数日のうちに俺の命を狙われた。実際に不審な男が俺の周りをうろつくこともあったが俺自身何も用意してないわけではなく、奴らが想定していた俺が動くであろうと思っていたポイントからは俺はいなかった。そして俺はその数日の間に俺は隣町に部屋を借りて拠点を移していた。
俺自身の命を狙われる可能性があったがそんなことより彼女に会いにいく事を脳が指示したのだ。
俺は走った。前に会った場所へ向かえば会えるかもしれない。俺はそう思い、ワクワクを胸に走り出していた。
あの角を曲がれば出会った場所だ。
が、俺を待っていたのはあまりにも悲惨な光景であった。
彼女が横たわっていたのだ。体中を赤い血で濡らして・・・・・・・。
「おい!どうした!」
俺は彼女の身体を抱いた。血まみれになったその身体はまだ暖かかったが、何を話しても反応は無かったのだ。
「返事してくれ!」
周りに誰もいなかった。俺はその亡骸を抱えた。
殺した犯人はすぐわかった。鋭い目つきが俺を見据えていたのだ。組織の人間に違いなかった。
その鋭い目つきをした男は去っていったのがわかった。本当なら復讐をしてやりたかったが俺はその場から動けなかったのだ。
奴らの計画はそれほどまでに完璧だったのだろう。急遽立ち上げ、彼女を殺す計画に移したのだろうが、急に考案した作戦にしては手際があまりにも良かった。
頭は冷静に動いたが、そこまでであった。
誰かが通報したのだろう。警察がやって来た。俺を犯人だと疑わなかった警察は俺を確保。パトカーに無理やり乗せられる・・・・・・。と考えたがもうその頃には無気力で何も抵抗する気がなかった。
パトカーに連れ込まれた瞬間であった。
全てが真っ暗闇に包まれた。それは新たな始まりの合図であった。
1人の少女が現れた。そこは真っ暗な空間。俺と少女の2人きりの空間であった。先程までいた警察官はそこにはおらず、まるで世界に2人しかいないという感覚すら覚えた。
少女は俺に語りかける。
「君はこの人生をやり直すチャンスを得た。このチケットを使うことによって。」
彼女はチケットの束を差し出してきた。そのチケットには何も書かれてなく、白紙であった。
「あんたは一体何者なんだ・・・・・・。」
俺の質問に彼女は答える。
「私?私は君たちが言うところの妖精ってものかな?」
彼女は言葉を続ける。
「このチケットを使えば時貞摩耶が生きていた時間に戻ることが出来る。君たちの世界で言うところのタイムリープってやつかな?決まった時間に行くことは不可能だが、彼女が死ぬ1~5時間前のどこかの時間にこのチケットを使えば行く頃が出来る。どこの時間につくかは誰にもわからない。」
彼女の説明は俺にとってあまりにも情報量が多すぎた。だがしかし、最低限の理解をすることはできた。だがその最低限の情報で十分であった。彼女を助けられるなら。
「だたし、デメリットもある。このチケットを使うたびに君の寿命が1年縮む。」
彼女は声のトーンを重くして、言った。
「わかった。さっさとチケットをよこせ。」
俺はチケットの束から1枚抜き取った。
白紙であった紙に文字が浮き出てくる。
「君は迷わないのかい?自分の寿命が消えて行くんだよ?」
彼女は心配するようにそう言ったが、俺には関係無かった。
「構わない。俺の寿命なんていくらでもくれてやる。」
俺はそう言ってタイムリープを始めた。
<時貞摩耶の生きていた時間>と書かれたチケットを手に持って。
「とまあこんな感じだな。」
俺はふと我に返った。これまでの始まりの事を話しただけで2時間が過ぎている事を
壁掛け時計が知らせてくれた。目の前にいる女も退屈せずに聞いていてくれたようだ。
「そういえばお前の名前はなんなんだ。聞いていなかったな。」
目の前にいる女に聞く。
「私?自己紹介してなかったっけ?フィフィでいいわ。」
女はそっけなく答える。
「まぁいい。十分休めた。チケットをよこせ」
俺はそう言い、またタイムリープを行う。
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