第3話 始まり
俺は反政府勢力組織であり、テロリスト集団の「EGOIST」というメンバーの工作員だった。
この国、日本は平和だと言う奴はいる。確かにそうだ。正しい。だが、それは他国と比べての事。
実態は違った、裏では多くの血が流れていた。そして血を流させていたのは俺でもあった。
日本にもギャングに似たような組織は存在したのだ。そして俺はその組織の元に生まれた。
それぞれの派閥で殺し合いが続き、子や孫の代まで血は流れ続けた。
親はその組織の偉いさんだった。トップではないにしろ、重要なポストにはついていた。だがそれは表立って出ることは無く、家の外見なんかは一般の家庭となんら変わりは無かった。
そして俺は物心ついた時には銃を手にとっていた。義務教育で習う出来事は生易しい嘘にも聞こえた。それほどまでに俺の住んでいた世界は乾ききっていた。
「なるほど。悲惨な世界だったんだね。」
俺がひとりごちていると隣の金髪の女が話の腰を折るように話してくる。ちょうどいいタイミングで会釈や相槌、言葉を挟んでくれる。いつもならウザったいと言って終わりだが今はそんなことですら嬉しかった。もしかしたら俺自身構ってくれる相手が欲しかったのかもしれない。
まあいい、話を続けよう。
俺は生きるために仕方なく人を殺していた。それが親の教えだった。そして殺した人間で給料をもらっていた。生きるために、そのためだけにスキルを手に入れて、子どもという能力を存分に活かして。
今思えば悲しい青春だった。だが、当時の俺は悲しいという感情すらも起きなかったのだ。
隣にいる女はまた話しかけてくる。
「そしてそこから何故、時貞摩耶と出会う事になるんだ?」
女からのその疑問の答えは簡単だった。
俺は成人にもなったその日、とある任務が下った。
政府高官の娘である時貞摩耶を殺せ。
というものであった。
「これまた突拍子もない事を言われたものだね。」
女は他人ごとのように言ってみせる。
時貞摩耶の父は日本から俺たちみたいなはみ出しものを一人でも多く駆除しようと考えていた政治家であった。
世間では社会の転覆なんていうのは夢、幻、荒唐無稽なものだと笑っていたからこそ活動はしやすかったが、この政治家は俺たちの事をわかっていた。私財を投げ打って私設武装組織を雇ったことすらあった。そりゃ、恨みを買われる。
そして組織の兵力は徐々に削られていった。
組織は何か手立てがないかと考え始める訳だ。それが娘を殺してやろう。というものだった。簡単に言うなら見せしめである。我々にはまだこんな事ができるのだぞ!というアピールも兼ねたものであった。
そして俺は疑われない為にアパートを借りて一人暮らしをしながらターゲットを捕獲するタイミングを図っていた。
殺すと言ってもただ殺すだけでは意味がなかった。拉致監禁を行い、犯行声明を行った後に殺すという計画であった為、彼女を捕らえる必要があった。
そして俺は彼女の事について研究し始めた。相手のことをよく知っておかなければならないのは当然であったし、これまでこいつの父のせいで多くの血が流れた。そのルートについても研究しておきたかったのだ。
そして俺が彼女の事について研究し始めて2ヶ月の月日が経った。尾行等も何回も繰り返し拉致の瞬間を狙っていたがそのチャンスはなかなか巡ってこなかった。
そして俺にとって転機が訪れた。
いつも通り彼女を後ろからつけていると
「あなたここ最近よく見ますわね?」
彼女は振り返り、尾行していた俺に問いかけてきたのだ。
電柱に隠れていた俺はついビックリしてしまい、「はいぃ!」と上ずった声で答えてしまった上に電柱から飛び出てしまったのであった。
まずい!と想った俺は忍ばせていたナイフを手にとっていた。
「あなた・・・・・・お名前は?」
彼女は手に持っていた日傘を畳み、柔肌を太陽にさらして微笑んだ。
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